1. 結婚申込書
夜会の翌日、アルバ家からの正式な結婚申込書が、当家のタウンハウスに届いた。ロレンシオは、昨日の夜会で私の婚約破棄を知ったはずだ。なのに、いくらなんでも行動が早すぎる。ロレンシオだけならまだしも、その両親であるアルバ公爵や公爵夫人が、ロレンシオの私への求婚をあっさり認めたことも驚きだった。
そういえばアルバ公爵は、貴族社会では稀に見る恋愛婚だと聞いている。年をとってもその愛は変わらないようで、昨日も夫人の傍に、ぴたりと張り付いて一時も離れる様子がなかった。
――もしかして、あれが"番"ってやつなのか。
ロレンシオは確かに私を"姉"として慕ってはいるけれど、執念とか執着というものは、一度も感じたことがない。現に最近はお互い忙しくて年に会うのは1回、2回ほどだし、後は手紙のやり取りだけだ。ただ私が婚約破棄されたと報告するたびに、お茶をしようと誘ってきて、根掘り葉掘りうれしそうに話を聞いてくるのは、正直むかつく。でも、あれはあれで彼なりに励ましてくれているんだと思う。
正式な申込書が来てしまった以上、こちらとしてもきちんと対応しなければならない。まずは公爵家で、ロレンシオとお茶をすることになった。
自分の書斎でクッキーをつまみながら、仕事をする。取引関連の手紙を読んでいると、ブランカが部屋に入ってきた。
「フロレンシア様、お紅茶を取り換えに参りました。」
「あら、ありがとう。」
少し心配そうな顔で、ブランカがこちらをみた。
「顔色がよくないですよ、フロレンシア様。少しお休みになられては。」
「昨日はちっとも寝れなかったのよ、誰かさんのせいでね。」
「でも、フロレンシア様も不思議な方ですね。婚約破棄された時よりも、次期公爵に婚約を申し込まれた時の方がお悩みになられるなんて。いくら年下すぎるって言っても、よく知ったロレンシオ様ならいいじゃないですか。」
「もしかして、あなたまで私を揶揄っているの?」
「いいえ、まさか。でも単純にうらやましいです。私も玉の輿に乗りたいです!」
「玉の輿ねえ。」
確かに、ロレンシオは王族ともゆかりがある高位貴族だ。私にはもったいないくらい。他人からもやっかまれるだろうなと思った。
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