2. 結婚式
結婚式当日は、快晴だった。父の尽力の賜物で、大聖堂には有力貴族たちが揃って列席してくれた。穏やかな日の光が大聖堂のステンドグラスから注ぎ、薄暗い聖堂の中を優しく包み込んでいる。
今日はオスカルとアイナ嬢が主役だ。だから家宝のブルーダイヤモンドはアイナ嬢が身に着ける。あれは元々、父が母に贈ったものだった。母の死後は、私が形見として好きなように使っていたけれど、ゆくゆくはスアレス家と共に、オスカルたちのものになる。
私は姉として目立ちすぎないよう、地味でも格式が高い装いを選んだ。ドレスはロイヤルブルー。胸元レースとスカートの切り返しが気に入っているものだ。パールで耳元と首周りを飾った。
オスカルとアイナ嬢は温かい歓声と祝福の中、愛を誓い合い、夫婦になった。姉として感極まって、ポロポロ泣いた。あのオスカルが、あのちょっとトロくてのんびりしたオスカルが、ついに結婚して家庭を持つのだ。
披露宴の会場も、季節の花々が咲き乱れ、文句なしの素晴らしさだった。ふとリストにあった人物たちに目をやった。アルバ家もアレジャーノ家も、次期当主が出席している。そう、ロレンシオとセレスティノだ。
こちらの視線に気づかれないように彼らを視線の片隅に置いて様子を伺った。二人とも元気そうでよかった。特にロレンシオは、"番"に婚約を拒否されて絶望の淵に立たされてるかも、なんて思っていたから少し安心した。
――あれ?セレスティノがロレンシオに話しかけている。珍しいなぁ。表面上彼らがいがみ合う理由はないのだけど、お互いに思うところはあるはずだ。挨拶を終えたのか、セレスティノは自分の席に戻って行った。
そのあと、オスカルが乾杯の挨拶をした。多分何度も練習したんだろう。スアレス家を率いるに足る、堂々としたスピーチだった。姉として立派に育った弟に感動して、また涙が一筋、頬を伝った。このところ、年々涙もろくなっている気がする。
乾杯の後は、各テーブルを父と一緒に挨拶に回った。まずは王弟殿下に挨拶をして、そして――アルバ公爵家。
見ると、ロレンシオは額に冷や汗を浮かべ顔色が悪かった。さっきまで穏やかそうな貴族然とした微笑を浮かべていたのに……。
「大丈夫ですか?アルバ次期公爵。顔色が悪いようですが……。」
「いえ、問題ありません。少し悪酔いしたみたいで。」
「まあ、ご無理は良くありませんわ。医務室を用意していますから、どうぞお使いください。ご案内致します。」
「すみません。少し休ませてもらいます。本日は本当におめでとうございます。」
使用人に言って、ロレンシオを医務室に案内させた。今日は既に女性が一人体調が悪いと言って、医務室で寝ている。食事も飲み物も、出す前に毒見を予めさせているし、特に問題はないはずだ。天候も体調を壊すような温度ではなく、むしろ過ごしやすい。だから余計に気になった。二度あることは三度あると、使用人たちに他に体調不良者が出たら、すぐに私に知らせるよう伝えた。