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2. スアレス家

 私の実家、スアレス家はかなり裕福な子爵家だ。父の商才はこの国の誰もが認めるもので、手がける事業を次々と成功させている。もともとうちは男爵家だったが、父の功績と当家の経済力が称えられ、私が生まれて間もない頃、子爵位を賜った。金欠気味の王家は、さらなる昇爵をちらつかせているらしく、父は多額の寄進を続けている。


 行き遅れの私はというと、父の事業の一部を手伝う形で働いている。いま一番力を入れているのは本屋だ。最近私のアイデアで、隣国・テリソートの童話の翻訳、販売事業を始めた。売り上げはすこぶる好調だ。テリソートは、我が国と違って、獣人が支配する国で、興味深い神話や胸がときめく素敵なおとぎ話が、たくさんたくさん眠っている。


 ああ、もう婚約破棄の件はしばらく忘れて、このまま仕事に専念したい。そう思って馬車で家に戻ると、父に迎えられた。


「フロレンシア。無事、クラウディオ君との婚約は破棄できたかい?」


「お父様、婚約破棄のこと、ご存じでしたの?それならば、予め教えておいてくださいまし。」


「いや、先方から、とても大事なことだから、君に会って直接伝えたいって言われたんだよ。フロレンシア、今回の件は気にするな。運が悪かったのだ。君には商才がある。オスカルよりも、ずっと。だから、私は君をこの家に置いておくことはやぶさかではない。次の婚約者は焦らず、決めなさい。」


「ありがとうございます。お父様。」


 お父様は、2歳年下の弟で嫡男のオスカルよりも、私の商才を買ってくれている。


 いや違う……見ていてこっちが心配になるくらい、オスカルが、人が好過ぎるのだ。これからどうしようか。いくら父がいいと言っても、気の弱い弟が断れなくても、この家に居残り続けるのはさすがに気まずい。かなり異端だが、未婚のまま男爵位でも買って、本屋事業ごと独立してしまおうか。


「それでだ。王宮夜会だが、君のパートナーはどうする?誰か頼める人はいるか。」


「いいえ。私ついさっきまで婚約者がいたんですよ。同年代の親族はもう結婚していますし。――今度の王宮夜会は、お父様にエスコートをお願いできますか?」


「分かった。妻に先立たれて、私も相手がいないからな。」


 クラウディオと一緒に出るつもりで用意した緑色のドレスはもう着られない。次は何色のドレスに着ていこうかと頭を悩ませた。

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