9. 絵画
薔薇会以降、ロレンシオと私は頻繁にデートするようになった。ロレンシオが毎日のように手紙を送ってきては、どこに行きたい、あそこに行きたいと、書いて寄こすから、いつの間にか付き合わされているのだ。
今日は珍しく私から画廊に誘った。個展を開いている絵師のマヌエルから、出資者の一人として招待券をもらったのだ。
「ロレンシオは絵画には興味があるの?」
「そうですね、興味はあります。フロレンシアみたいに詳しくはないですが。」
「私ね、写実的な絵よりも、幻想的な絵が好きなの。今日見に行くマヌエルの絵は、本当に素敵よ。私の理想の画家で、ビジネスパートナーよ。」
「幻想的な絵ですか。フロレンシアも意外とロマンチストなところがあるんですね。」
「悪いかしら?」
「いいえ、いいと思います。」
画廊に着くと、マヌエルが一目散に駆け寄ってきた。この前、王宮夜会で見た時よりも堂々としている。やはり、彼は芸術家、夜会よりもアトリエや画廊が肌に合うのだろう。
「フロレンシア様、今日はようこそ起こしくださいました。」
「あら、マヌエル。なかなか客の入りも良さそうじゃない?」
「おかげさまで。フロレンシア様にご支援いただくようになってから、仕事も増えました。」
「あなたほどの才能が今まで埋もれていたことがおかしいのよ。」
「そうだ。この前のユニコーンの童話をモチーフにした絵画もございます。どうぞこちらへ。」
そういって、マヌエルが画廊の奥へと案内した。そこに置かれた一枚の絵に視線が奪われた。
「とってもきれいな絵ね。」
絵のモチーフになっているのは、ユニコーンがお姫様を森の塔から助け出すシーンだろうか。森の中を颯爽と走るユニコーン、そしてそれに乗るお姫様。躍動感があり、描写も細かいのに、でも色使いが幻想的で、まるで夢を見ているようなタッチだ。絵の中のお姫様が、茶色の髪に碧眼で、少し自分に似ている気がした。
「――フロレンシアはユニコーンはお好きですか?」
少しためらいつつ、ロレンシオが聞いた。
「ええ、かっこいいと思うわ。あなたにその血が混じっているって聞いてちょっとびっくりはしたけど。」
「それなら、良かったです。」
少し照れくさそうに、ロレンシオがはにかんだ。
「――ねえ、マヌエル、この絵、まだ買い手がついていないようなら、私が買うわ。言い値でいいわよ。」
「フロレンシア様、ありがとうございます。」
マヌエルは、会計のために裏に消えていった。
「ロレンシオ、獣人っていうと、尻尾とか耳が生えているイメージだけど、あなたはいつも出ている訳ではないのね。」
「ええ。僕は血が濃くないので。この状態が普通です。興奮したり、獣人的な本能が前に出てくると、いつの間にか飛び出してきますが。」
そうか、この前の角が飛び出したのは、やっぱり興奮していたんだ。――そうだ、番のことも聞いてみよう。




