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8話 夜間訓練 前半


早朝いつものように運動場で日課をこなしているとアナウンスが掛かった。


「本日の訓練は、21時からとなります。それまでの時間は自由時間としてください。」


 (夜から訓練か…初めての経験だ)


 夜からということは訓練内容が絞られる。

 

 1.夜間のサバイバル形式の訓練である可能性

 サバイバルだとしたならば、生き残ればいい成績を残せるため評価を上げやすい。

 

 2.暗闇での射撃訓練

 こちらもできるやつとできないやつで差がつくので評価を上げやすい。

 

 3.暗闇での近接戦闘訓練

 これはゴムナイフなどを使って行うため技術が求められる。


 この中にあるとは限らないが全て難しいため全力で挑む必要があるだろう。


 噂に聞いたところ、訓練中に上位成績5位以内を取れば鬼塚などの教官と個別で特殊な訓練を受けれるらしい。

 これはチャンスだ、ここで5位以内を取れば一気に神崎さんやロシア人との差が縮まる。


 昼間の自由時間も無駄にしたくなかった俺は、部屋に戻り準備を整えた後、ノートを開いた。




【夜間訓練への準備メモ】


・視界が奪われるので聴覚・嗅覚を研ぎ澄ませる

・無駄な動き=物音・光・熱源で位置バレ

・匂い(汗・土・草・機械油)で位置が割れる可能性

・夜間射撃はサイトではなく“感覚”で撃つ

・遮蔽物・地形を必ず利用する

・索敵→待ち→撃つの順




夜が来た。


運動場に集合したのは100人以上の新兵たち。

空には星が瞬き、満月の光だけが僅かに地面を照らしている。


「お前ら、これからが本当の訓練だ。」


鬼塚の声が響いた。


「今からお前らは夜間サバイバル形式の訓練を行う。条件は簡単だ。“最後まで残る”か、“ターゲットを多く仕留める”か、どちらかだ。」


一瞬、空気が張り詰めた。


「訓練区域は基地裏の山林を使用する。訓練時間は4時間。ゴム弾使用、ナイフも使用可能。痛い思いはするが死なねぇから安心しろ。」


「ルールはただ一つ。“生き延びろ。”」




一斉に支給されたナイトビジョンと訓練用のゴム弾入りライフルを手に取る。

だが俺はナイトビジョンを装備しなかった。


(夜目は効くし、視野角が制限されるのは逆に不利だ)


ロシア人も神崎さんも同じようにナイトビジョンを装備していない。


「始め!」


鬼塚の号令と同時に夜の森へ散っていく新兵たち。


俺はすぐに低姿勢で草むらへ潜り込む。


夜の森は冷たい空気と虫の声、葉が擦れる音が混じり合い、妙に神経を逆撫でする。




(まずは索敵、場所取りだ……)


夜間は光を使わず耳と気配で動く。

落ち葉の上を踏むだけで位置がバレる。

呼吸を静かにしながら、木々の間を滑るように進む。


(いた……!)


向こうの影が動いた瞬間、狙いを定め一発。

ゴム弾がヒットし、その影が呻き声を上げて倒れた。


すぐにその場から移動し、再び茂みに潜む。




暗闇の中、銃声がポツポツと響き、夜の森に散らばった緊張感が濃くなっていく。


次に見つけたのは二人組だ。

協力して索敵しているが、隙が大きい。


(前が出て、後ろが油断してる……後ろからだ)


一発。

また一発。


二人が同時に倒れる。




俺は静かに息を吐く。

撃つ瞬間だけ呼吸を止め、撃った後に呼吸を整える。


森の奥から聞こえるゴム弾の音。

誰かが近づいてくる。




(……ロシア人だ)


見えなくてもわかる。

夜の中でも殺気が漂う。

あいつは迷いなく、音もなく近づいてくる。




この夜間訓練は、戦場だ。


 ここで上位に残り、神崎やロシア人に一歩でも近づく。

それが今の俺の使命だ。


 夜の森を進むたび、足元の枯葉がわずかに鳴る。

心臓が打つ音がやけに大きく感じる。


(怖くないと言えば嘘だ。でも、これが戦場だ。)


森の奥で小さな光が揺れた。ナイトビジョンの光漏れだ。


(甘い……)


俺は息を殺し、ゆっくりと近づく。

相手は銃を構え、周囲を警戒しているが動きが雑だ。


(“遊び”じゃない。殺すつもりで撃つんだ。)


狙いを定め、引き金を絞る。


パァン。


乾いた音が夜に響く。

相手が声も出せずに倒れ込んだ。




(……あと何人だ?)


銃声が遠くで鳴った。別の場所で誰かが倒された音だ。

こうして一人ずつ、夜の森から脱落者が消えていく。




急に背後から空気が動く気配がした。


(!)


反射で転がると同時に一発、ゴム弾が地面に当たり火花が散る。


茂みの奥に黒い影。


「……拓磨か。」


神崎さんだ。暗闇の中でも気配が違う。


「相変わらず動きがいいな。だが、まだ甘いぞ。」


声がした瞬間、神崎さんが駆け出してきた。

夜の森でこんな速さで動けるのかと目を疑う速さ。


撃たれる、そう思った瞬間、


パァン!


神崎さんが別の方向に向かって撃った。

俺を狙っていたもう一人を撃ち抜いたのだ。


「甘いってのは、ああいうのを見逃してるってことだ。」


俺は息が詰まった。


「ありがとうございます……!」


「いいか、夜はな、自分の気配を殺すだけじゃ駄目だ。“敵の気配”を探すんだ。」


神崎さんが笑うと、そのまま再び闇の中へ消えた。




(俺は……)


(俺はまだ夜の使い方を知らなかった。)




夜風が冷たく、汗を冷やしていく。

遠くでまた銃声。


訓練はまだ終わらない。




(俺は……この夜を支配する。)


拳を握る。


今はまだ神崎さんの背中は遠い。

アレクセイなんて、もっと遠い。


それでも俺は、


必ず追いついて、必ず超える。


そのために、この夜で上位に残り、


この夜で生き残る。




夜間訓練はまだ続く。

夜の森は獲物を探す狩人たちの息で満ちていた。

 

 8話 完

 

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