6話 格差
鬼塚が野太い声で言った。
「次はアレクセイ!お前の番だ」
空気が変わる。
さっきまでざわついてた会場が、ロシア人の名前を聞き一気に凍りつく。
誰もが息を止め、アレクセイから目を逸らせない。
ロシア人は、表情ひとつ変えることなく立ち上がり銃を手に取る。
ロシア人が、こちらをチラ見しすぐに向き直る。
(なんだあいつ?見てろってか?むかつく野郎だ)
「弾は3マガジン、ルールは同じだ」
鬼塚が言うと、アレクセイは小さく頷く。
その青い目は鋭くとても冷たい目をしている。
(あれが殺気のこもった目……?)
明らかにいつもと違う空気に圧倒される。
鬼塚がこくりと頷き合図する。
「はじめ!」
鬼塚の合図とともに走り出すアレクセイ。
ターゲットが見えたのか即座に方向転換するアレクセイ。
障害物を避け、すぐに銃を構える。
パンッ、パンッ。
的確に打ち抜き走っていたターゲットを沈める。
「速ぇ…」
神崎さんがつぶやく。
会場にいる誰もがアレクセイの射撃に目が釘付けである。
アレクセイは何事もなかったかのように次のターゲットに走り出す。斜線を切り、体を最小限だけ見せて打つ。
確実に1発で打ち抜き、無駄な動きをせずすぐに次の動作に入る。
ターゲットが左右に動こうと関係なしに銃口がターゲットの頭を追いかける。
パンッ
1発で頭部を打ち抜き、ターゲットを沈めた
(なんだよ、あれ、、)
誰もが息を呑んでいた。
鬼塚も想定より動きが格段に良く戸惑っていた。
サバゲーとはまるで違う、、
これが実践と"遊び"の差次元が違う。
アレクセイは、呼吸をするように弾を撃ち、無駄なく歩みを進める。
最後のターゲットが現れたその瞬間アレクセイは驚異的な反射神経ですぐに向き直り、銃を構えたその瞬間。
パンッ
その一撃で訓練を終了させた。
直後終了の笛が鳴る。
アレクセイは鬼塚の方に歩き出し、一言。
「任務完了」
低く冷たい声が、響く。
鬼塚がアレクセイのことを見つめ、ニヤリと笑い一言。
「完璧だ」
沈黙が数秒続いたあと、ポツリポツリと拍手が起こり始め、次第に大きくなる。
(これが…完璧…)
俺がこれから目指すべき存在、これが"遊び"ではなく"戦場で生きるための動き"
サバゲーなんかでは、到底追いつけない世界。
(これが、“殺気を込めた動き”ってやつなのか……)
アレクセイの撃つ時の目、そして撃った瞬間に生まれる静寂が脳裏から離れない。
アレクセイが銃を置き、こちらをチラッと見る。
(あいつ、俺に手本を見せたつもりか?)
でもあいつの動きはお手本そのものだった。アレクセイの方を向き一言。
「ありがとうございました」
小さくお辞儀をした。
アレクセイは、そっぽを向き歩いて行った。
その背中を見つめながら、俺は拳を握り心の奥に火がついた。
(絶対に追いついてやる。いや超えてやる)
部屋に戻った俺はノートに反省を書く。
射撃訓練の反省と学び
一、撃つ時に「遊び」が残っていた
無意識に「当てること」だけを目的にしていた。
相手を倒すつもりで撃つ必要がある。
撃つことは命を奪うことだと教官が言っていた。
一、焦らないことの大事さ(神崎さんの言葉)
焦ると視界が狭くなる。
判断が遅れ、結果として精度が落ちる。
心拍数と呼吸のコントロールが必要。
一、落ち着きと精度(ダニエルを見て)
動きは遅くても落ち着いてターゲットを識別できていた。
「正確に当てる」ことの大切さ。
急がば回れ、焦って外すより確実に倒す方が良い場面もある。
一、サバゲーとの決定的な違い
「遊び」では命のやり取りはない。
遮蔽物の使い方・動き方は活きるが、
メンタル面での差が大きすぎる。
撃つときに「殺気」が必要。
一、今後の課題
・撃つ時の「覚悟」を持つ
・呼吸と心拍のコントロール
・弾を無駄にしない(外さない練習)
・動きながら撃つ精度をもっと高める
・鬼塚教官の動きを観察し盗める技は盗む
一、これから
今日見た“格差”を埋めるのは簡単じゃない。
でも必ず追いつく。絶対に追い越す。
そのために、明日も走る。
一、思ったこと
怖くなかったと言えば嘘になる。
でも面白いとも思った。もっと上手くなりたい。
鬼塚教官の言葉の意味、まだ全部わかっていない。
殺気ってどうすれば込められるんだ?
俺は戦える人間になれるのか、、
6話 完