秘宝をめぐる出会いと運命の選択
首都マルカスは、国の中心とも言える巨大都市。人口密集地であり、金と物と人が絶え間なく流れ続けている。まるで都市全体が生命体のように、活発に脈打っているかのようだった。
その中心部にそびえ立つ国立魔法美術館は、国宝級の秘宝を多数展示する国内最大の美術館である。当然、警備は厳しく、隙間ひとつない鉄壁の守りが敷かれていた。
レオンは空間魔法陣を展開し、一瞬で美術館の近くへと移動した。
「鎧か。」
向かいの高層建築物から、美術館の警備体制を観察していたその時、裏口付近に一つの影を見つける。
「おっと、先客か。」
裏口では、獣人の娘が巧みな手つきで鍵を開け、警備も警報も難なくかい潜っていた。まるで熟練の泥棒のような動きに、レオンは思わず感嘆する。
「やるな!」
レオンは即座に空間魔法陣を展開し、美術館内へと移動した。
獣人の娘の目的は、美術館の最奥に展示された最重要国宝【神器:エーテルウィスパー】だった。
【神器:エーテルウィスパー】
古代の魔法使いによって作られ、伝説として語り継がれている杖。星々の力を宿し、夜空を舞うような輝きを放つ。杖の先には、無限の知識と創造力が秘められている魔石が埋め込まれていると言われている。
レオンが静かに観察していると、獣人の娘は腕から大きな布を広げた。
「アイツ【MACOK】か…あの魔法陣使えるかも…。」
レオンは呟く。
「おい、大層なものを盗むんだな。誰に依頼された?」
レオンは軽い口調で声をかける。
獣人の娘は驚き、一気に戦闘体勢に入った。
「おっと、待て待て!」
レオンはすぐに制止する。
「殺ろうと思えば、いつでもできたんだ。僕もこの通り【MACOK】だからな。」
そう言いながら、自身の身体中に刻まれた魔法陣を嫌そうに見せる。
「まさか、依頼が被ったの?」
獣人の娘は警戒しながら言った。
「いや、僕の目的は別の物だよ。」
「じゃあ、私を殺る気ね!」
彼女は爪を出して、戦意をむき出しにする。
「だから…違うって…。」
レオンは瞬間移動し、彼女の背後に回ると肩を軽くポンと叩いた。
「うっ…私の負けね。好きにしなさい!」
獣人の娘は観念し、手をあげる。
「だから…違うって…。僕の名前はレオン!君は?」
レオンを不思議そうに眺めながら、彼女は答えた。
「リセよ。」
「リセ、君に提案があるんだ!」
「提案!?」
リセの瞳には、なお不信感が浮かんでいた。
「僕たちの仲間にならないか?」
「仲間…?」
「ああ。」
「無理に決まってるでしょ。【MACOK】がマスターに逆らったらどうなるかぐらい分かっているでしょ!」
「もちろん…。」
リセは完全に信用しきれない様子だった。
「君の魔法陣の能力を見て確信したよ!行けるってね!」
「何を言ってるの?」
「まずは、要るものだけ頂いて外で話そう!ここで捕まったら話にならないからね…。」
「分かったわ!」
レオンは【神器:漆黒の鎧】を奪い、リセの腕を掴んで外の茂みに瞬間移動した。
「何今の?」
「僕の魔法陣さ!」
「あなた何者?闘ったらまったく勝てる気がしない…。」
「まあ、褒め言葉として受け取っておくよ…。」
「リセ、さっきの話だけど…?」
「もっと詳しい話を聞かないとなんとも言えないわ…。」
リセもやっと警戒を緩めて話し始めた。
•••••••••
リセは当然ながら、現状に強い不満を抱いていた。
獣人という理由で、マスターからはひどい扱いを受け、住む場所もゴミ溜めのような環境だった。
リセの出身は南方の島国アルマニア。幼い頃に両親をハンターに殺され、奴隷としてマスターに買われた過去を持つ。
レオンは、自身の状況と能力、さらにミリアの計画をすべて話した。
•••••••••
「そんなこと、話して大丈夫なの?」
「ああ、信じてもらうにはこれが一番だろ?」
リセは呆れながら言った。
「ああ…もう、負けた!協力してあげてもいいわよ!」
降参のポーズをしながら、肩をすくめる。
「リセ、ありがとう…ありがとう…。」
レオンは心から感謝する様子だった。
•••••••••
リセ ♀ 【MACOK】
種族:キャットフォーク
魔法属性:土属性
固有スキル:「構築」「軽業」
魔法陣:「布陣魔法陣」「音魔法陣」
光:見習い魔法1
闇:見習い魔法3
炎見習い魔法:3
水:見習い魔法3
風:見習い魔法2
土:応用魔法5
ミリアの【白昼夢】とリセの【布陣】の魔法陣があれば、マスターたちを殺さずに無力化することができるに違いない…。
•••••••••
「ただ、三人では心もとない…もう二、三人仲間が欲しいんだけど…。」
「そうね…そう言えば、あの子たちなら…。」
「心当たりがあるのか?」
「うん、以前の任務で他の国の【MACOK】とニアミスしたことがあるんだけど…その子達もひどい目にあっていたわ…。」
「どこの国だ?」
「確か、極東の島国サンゴルド帝国だったわ!」
「凄い遠いね…僕には距離は関係ないけど…。」
「なるほど…。」
「さすがに名前は分からないよね?」
「確か、ひとりはサクナって呼ばれていたような…。」
「リセ、ナイス!」
「ナイス?」
「ああ、気にしないで…。」
レオンはリセとの再会を約束し、久々の興奮にザワついた心を必死に抑えながらアジトへと戻っていった。
次回 シーズン4 【聖域巡礼編】(第二幕)
水の都の謎と沈黙の港町
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