影の契約:運命を変える者
「レオン、もう一つの指令は、ソーサリーエレメントの情報収集です!」
メルギド博士が付け足すように言った。
「ソーサリーエレメントですか?」
レオンが興味深そうに聞いた。
「ああ、世界にはソーサリーエレメントと呼ばれる六つの精霊石があるらしく、魔力の源となるそうです…。」
「魔力の源…。」
「詳しいことは、今、調査中です。レオンも何か情報を得たら必ず報告を入れるように!」
「了解しました!」
レオンは珍しく少し嬉しそうな顔を浮かべた。
いつものことだが、【MACOK】には依頼主のことも、暗殺や窃盗の目的も知らされることはない。ただ、ターゲットを知らされて、任務を遂行するだけ…のはずだった…。
「早速、実行に移します!」
レオンは、影のようにスーッと消えた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
フィラルティア公国は、エルフと妖精の国で、広大な森林と美しい湖に囲まれた緑の国である。湖の近くには大きな城と神殿があり、エリスはその神殿の最高議長を務めていた。
エリスは、エルフの中でも長老クラスであるが、見た目は金色の長い髪を棚引かせた、とても美しい、人間で言うと20代くらいの見た目の女性だった。
ここは、フィラルティア公国周辺の森の中に隠されたアジトだった。周りの風景とはうってかわって、アジト内部は殺伐としていて、劣悪な環境だった。
ミリアは、フィラルティア公国の【MACOK】で、美しい羽を持った妖精族の少女だった。
ミリアの腕には、「幻影」や「幻惑」よりも強化な【白昼夢】という魔法陣が刻み込まれていた。【白昼夢】が発動すると、相手は夢の中へと引き込まれてしまうのだった。
夢の内容は、ミリアが自由に設定できる。ただし、【白昼夢】を発動すると、その場で自分も眠りに落ちてしまうリスクがある。すぐに、他の者に起こしてもらえればいいのだが…。
ちなみに、【白昼夢】の効果は、ミリアが起きても持続する。ミリアが解除するか、ミリアが死ぬまで…。
その他にも精神系の魔法陣をいくつか刻まれているため、通常任務で【白昼夢】を使用することはまずなかった。
「エリス様、何者かがお命を狙っているとの報告を受けました!」
「またですか…すぐに対処を!」
「お任せください!」
ミリアは幻影のように消えた。
実は、エリスも【魔法陣使い】だった!
国の最高機関の議長を務めながら、裏では国に仇なす者たちの抹殺を指令していた。
「まったく、厄介な輩が多すぎます…。」
そんな小言を言いながら業務を進めていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「あなたですか?」
「ハッ!」
レオンは、初めて自分の気配を察知されて驚いてしまい、一瞬動きが遅れてしまった。
「あなたが、エリス様を狙っている暗殺者ですか?」
ミリアは、レオンの首元にナイフを突きつけて尋ねた。
「ああ、なぜ殺さない?」
レオンは、空間魔法陣を発動しようとしたが、なぜか発動しなかった。
「殺す理由がありません…。」
「お前、何を言ってるんだ!?」
レオンが振り返ると、そこには緑色の短髪の可愛らしい妖精の少女が佇んでいた。
【MACOK】であることは一目瞭然だった。
「何を言っている…お前は…。」
「お前ではありません…ミリアと言います…。」
レオンは不思議に思ったが、なぜか放っておけない気がした。
「暗殺者の俺を殺さない理由がないとは?」
「もう、疲れたのです…あんな奴の言うことを聞いて、名前も知らない人の命を奪うことに…。」
ミリアは今にも消えそうな声で呟いた。
レオンはミリアを抱きしめていた。
「ああ、あなたの名前は?」
「レオンだよ…僕が、君を必ず助け出すよ!」
「うん…。」
ミリアは、レオンの胸の中で安心したように泣き崩れた。
レオンはさらに強くミリアを抱きしめていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「エリス様、任務完了しました!」
「ああ、ご苦労様!」
適当な相づちを打つと、忙しそうに行ってしまった。
ミリアは、レオンと約束をしていた。
•••••••••
「いいか、ミリア…僕が必ず君を助けにくる!それまでは、今まで通りに振る舞うんだ!もし、他の【MACOK】と接触しても極力戦闘は避けて、相手の能力を見極めるんだ!」
「わかったわ!」
「どうしても避けられないような状況になったら、僕がすぐに駆けつける!耳の音魔法陣で連絡はとれるからな!」
「うん!」
ミリアの顔に生気が戻ってきていた。
レオンは、なぜかミリアのことが急に愛おしくてたまらない気持ちに襲われた。
「レオンには、伝えておくことがあるの!」
「うん!」
「私の【白昼夢】魔法陣のことよ!」
「なるほど、能力はわかった!きっとそれがカギになるはずだ!ミリアその時は頼んだよ!」
「はい!」
ミリアは、とても嬉しそうに微笑んでいた。
「今回は、僕を殺したことにしてマスターに報告を!」
「それじゃ、レオンが任務失敗で、マスターにひどい目にあうんじゃ?」
「僕のことは大丈夫…。」
レオンは悲しそうに笑って、ミリアを勇気づけた。
ミリアもそれ以上は聞かなかった…。
二人は、しばらく静かな風に吹かれながら、美しい湖畔で肩を寄せあいながら座って、幸せな時間を過ごしていた。
レオンを信じると決めた。エリス様には絶対に感づかれないように、今まで通りに振る舞うんだ…。
•••••••••
ミリアは、薄暗いアジトへ戻るといつもと変わらず、黙々と任務をまっとうしていった。
次回 白昼夢の罠:反逆者の誓い
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