30階層の帰還:静寂を破る石像の咆哮
あの後、ハーベルたちは順調に30階層まで進み、一度ハウスへ帰って夕食を楽しんでいた。
「結局、海賊セットくらいしか出なかったわね…。」
リーフィアが肩を落としながらぼんやりと言った。
「師匠のお目当ての魔昌石は、出ませんでしたね…。」
「残念……。」
リーフィアは寂しそうにうつむいた。
「そう言えば、師匠の属性って何ですか?なんか、全属性使っているようですけど……。」
「ああ、それね……。」
リーフィアはまた寂しそうな表情を浮かべた。
「ああ、聞かないほうがよかったですか……。」
「いいえ、大丈夫よ。実は、私は無属性なの……。」
「ええ、師匠、無属性!?そんなことがあるんですか?」
「そうなの。」
「でも、いろんな属性の魔法使ってますよね……。」
ハーベルが不思議そうに問いかける。
「まあ、はじめから説明するわね!」
••••••••••
リーフィア ♀ 【紫炎の工匠】
魔法属性:無属性
固有スキル:「設定」
光:上級魔法7
闇:上級魔法7
炎:上級魔法7
水:上級魔法7
風:上級魔法7
土:上級魔法7
••••••••••
リーフィアの魔法属性は無属性だった。
どの属性にも特化していない状態を指し、彼女はすべての属性を上級魔法7まで上げることができる。
属性スキルは使えないが、固有スキル「設定」だけは例外だ。
「ということで、薄々感じていたと思うけど、ハーベルは光属性じゃなくて、全属性ね……。」
リーフィアが微笑みながら言った。
••••••••••
ハーベル ♂ 【医術師見習い】
武器:【シックスセンス】【海賊ナイフ】
魔法属性:全属性
固有スキル:「統合」
「破壊」「精製」「合成」「構築」「解析」「分解」
獲得スキル:「設定」「把握」「毒耐性」「召喚」「魔法陣」「ライブラリー」「分離」
光:上級魔法9
闇:上級魔法7
炎:上級魔法7
水:上級魔法8
風:上級魔法8
土:上級魔法8
••••••••••
「ええ、そうなんですか?」
「だって、どう見てもランクが上がりすぎじゃない……。」
「確かに……全然気にしてませんでした……。」
「つまり、すでに私を越えているってことね!」
「そんな……師匠にもっと教えてもらいたいです!」
「もちろん、ランクが上でもまだ、ハーベルには負ける気はしないわ!」
「さすが、師匠!」
「まだまだ、教えることはあるわよ!」
リーフィアは腕まくりをしながら言った。
「よかった……。」
ハーベルは胸をなでおろす。
その時、
ドスーーーーン!
とんでもないものが落ちてきたような音がハウスの外で響いた。
「なに、なに?!」
リーフィアが驚いてハーベルの腕にしがみついた。
ハーベルは悪い気はしなかった。
「何笑ってるの?」
「あ、いや、見てきます!」
ハーベルは罰が悪そうにそそくさと外へ走って行った。
「はあ……石像?!」
「石像ね……。」
追いついてきたリーフィアが平然と言った。
キラーーーン!
石像の目が急に真っ赤に光りだした。
ドゥオーーーーーーーー!
「おっと、いきなり戦闘モードに突入か!」
ハーベルもスイッチが入ったようだが、すぐに切れた。
「ああ、もう眠いから……。」
「マッド!」
ハーベルが適当に詠唱すると、石像の足元がドロドロになり、そのまま首まで沈み込んでしまった。
「あら、あっけないわね……。」
「師匠、この石像って『分離』してみていいですか?」
「ああ、面白そうね!」
「倒さなくても使えるのかな?」
「分離!」
ハーベルは今日覚えたてのスキルを発動した。
驚いたことに、倒していない魔物でも「分離」は可能のようだった。
石像からは、【聖白石】【真紅の眼】【金塊】【銀塊】【鉄塊】が取り出された。
「ハーベル、真紅の眼を頂いてもいいかしら?」
「どうぞどうぞ!」
【真紅の眼】
炎属性の魔素を多く放出するただの魔昌石。
リーフィアは魔昌石を手にして満足げに微笑んだ。その瞬間、彼女の瞳の色がかすかに変化したように見えた。
「ハーベル、あなた、全属性だったのね…。」
リーフィアの口から、今しがた話したばかりの内容が再び紡がれる。しかしその声には、先ほどまでの明るい調子はない。
どこか遠い、冷たい響きがあった。
「え…師匠?どうしたんですか?」
ハーベルは異変を感じ、リーフィアに問いかける。
彼女の様子は明らかに尋常ではない。
「まさか、あなたが…。」
リーフィアはそう呟くと、突然その場に膝をつき、苦しそうにうめき声をあげた。
「師匠!?」
ハーベルが駆け寄ろうとしたその時、リーフィアの体からまばゆい光があふれ出し、彼女の姿が徐々に薄れていく。
「ハーベル…私、もう…。」
「師匠!どうしたっていうんですか!?」
リーフィアの意識が途切れる直前、ハーベルの脳裏に直接、彼女の最後の言葉が響き渡った。
『私と、あなたは…同じ…。』
そして、リーフィアの姿は完全に消滅した。その場には、彼女が手にしてたはずの【真紅の眼】と、もう一つのアイテムが残されていた。
【紫炎の紋章】
リーフィアが最後の力を振り絞って作成した謎の紋章の入った魔昌石。
「まさか…こんな…。」
ハーベルは目の前の出来事に言葉を失う。なぜリーフィアは消滅したのか、なぜ彼女の最後の言葉は「同じ」だったのか。そして、この魔昌石は一体何を意味するのか。
すべての謎がハーベルに重くのしかかる。穏やかな夜は、突然の悲劇によって終わりを告げた。
ハーベルは呆然と立ち尽くしていた。
リーフィアが消えた……。
目の前で、光の粒子となって。そして、彼女が残した二つの魔昌石。
一つは、彼女が欲しがっていた【真紅の眼】。そしてもう一つは、見慣れない【紫炎の紋章】。
「師匠……なんで……。」
ハーベルは震える手で二つの魔昌石を拾い上げた。
その瞬間、彼の頭の中に、まるで稲妻が走ったかのような衝撃が走る。リーフィアの最後の言葉が、再び鮮明に蘇ってきた。
『私と、あなたは…同じ…。』
その言葉の意味が、突如としてハーベルの脳裏に流れ込んできた。
リーフィアは、ただの「無属性」ではなかった。
彼女は、特定の属性に偏らない「完全属性」…。
すべての属性を操り、究極の魔法を創造する力を秘めていた。
しかし、その力は強大すぎるため、ある制約を自身に課していた。それが、「無属性」という状態だった。
そして、ハーベルが拾い上げた【真紅の眼】は、彼女の封印を解くための鍵。炎属性の魔昌石を手にしたとき、彼女の封印は一時的に解け、彼女の真の力が覚醒した。しかし、その力はあまりにも強大で、彼女の肉体は耐えきれず、消滅してしまったのだ。
「馬鹿な……じゃあ、もう、師匠には……。」
絶望に打ちひしがれるハーベル。
しかし、その時、もう一つの魔昌石【紫炎の紋章】が、淡い光を放ち始めた。
『大丈夫よ、ハーベル。私は、まだ、消えていないわ。』
リーフィアの声が、再びハーベルの頭の中に響く。
「師匠!どこにいるんですか!?」
『あなたの、その【紫炎の紋章】の中に…。』
ハーベルは驚いて【紫炎の紋章】を見つめる。
そこには、リーフィアの意識が宿っていたのだ。
リーフィアは、自身の意識を魔昌石に移すことで、肉体の消滅を免れていた。しかし、このままでは彼女は実体を持つことができない。
実体化するには、リーフィアの持つ「設定」スキルと、ハーベルの持つ「統合」スキルが必要だった。
「わかった!師匠の力を、俺が『統合』する!」
ハーベルは決意を固め、【紫炎の紋章】を握りしめた。
リーフィアの「設定」スキルとハーベルの「統合」スキルが共鳴し、二人の力が一つになる。
『ありがとう、ハーベル。あとは、私の意識を、あなたの魔力と『統合』すれば…。』
「俺の魔力と、『統合』…?」
ハーベルは言われた通り、自身の魔力と【紫炎の紋章】の中のリーフィアの意識を「統合」した。
すると、光が再び輝き、リーフィアの姿が、少しずつ、形を成していく。そして、完全なリーフィアの姿が、ハーベルの目の前に現れた。
「師匠!無事だったんですね!」
「うう、ハーベルがいてくれてよかった…。」
リーフィアはそう言って、ハーベルの胸に飛び込んだ。
ハーベルも、強く彼女を抱きしめた。
「これで、もう安心ね…。」
「はい。でも、師匠、もう二度と、一人で危ないことはしないでくださいね!」
「わかってるわよ。でも、ハーベルの力がなかったら、私は永遠に消滅するところだったわ。ありがとう。」
二人は互いの無事を喜び合った。
そして、リーフィアはハーベルに、自身の能力を再び封印するように頼んだ。
「いつか、ハーベルが私と肩を並べて戦えるようになったら、もう一度、その封印を解いてほしいの。」
「わかりました。その日まで、俺ももっと強くなります!」
こうして、リーフィアは無事に戻り、二人の絆は、さらに深まっていった。
次回 冒険者の休日:戦利品と不思議な出会い
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頑張って続きを書いちゃいます!




