ソーサリーエレメントの謎:魔法と帰還の旅
リーフィアが袋からホウキを取り出すと、スーッと上空へ飛び上がった。それを見たハーベルも急いで絨毯を用意し、彼女の後を追う。
目の前には、上空から見ると太陽をモチーフにしたような巨大な建築物が広がっていた。正面から眺めると、噴水から立ち上る水が滝のように流れ落ち、その水滴がまるで夜空の星ぼしのように美しく煌めいている。
ガラスでできたエントランスを通り抜けると、廊下には川のせせらぎのように水がゆっくりと流れている。その先には円筒形の壮大な木造の図書館があり、螺旋階段で上の階へと上がれるようになっていた。
「凄い数の本ですね…。」
「ここなら医術書の販売もしているから、ついでに買っておくといいわね。」
「分かりました。ありがとうございます!」
「それにしても、こんな膨大な本の中からどうやって目的の本を探すんですか?」
「ああ、専門の司書さんがいるの。パソコンで検索するよりも早く見つけてくれるわよ。」
「そうなんですね…。」
ハーベルは巨大な本の壁に圧倒されながら、辺りを興味深げに見渡していた。
「私は最近見つかったという【ソーサリーエレメント】に関する文献を見に行くから、医術書を買ったら【魔法陣使い】について調べておいてくれる?」
「了解しました!」
「ソーサリーエレメントって何ですか?」
「この世界には、魔昌石そのものが魔力を持つ精霊石と呼ばれるものが存在するの。それがソーサリーエレメントよ。6種類の属性分しか存在しないと言われていて、それを手にすれば膨大な魔力や禁呪級の魔法を得ることができる…さらには世界をも手に入れられるという伝説があるの。」
リーフィアは少し寂しそうな顔をした。
「へえ…でも、どうして師匠がそのソーサリーエレメントに興味を?」
「それは、元の世界へ帰るためよ…。」
またも寂しそうに目を伏せる。
「なるほど、師匠は元の世界へ帰りたいんですね。」
「ハーベルは、帰りたくないの?」
「そうですね、元の世界に未練がないわけではないですが、こちらの世界も気に入っています。何より魔法が大好きなので…。」
「そっか…。」
リーフィアの顔はどこか羨ましげだった。
「じゃあ、後でテルミットで連絡するわね。」
「分かりました。」
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
ハーベルは医術書専門のフロアへ足を運ぶと、棚の間を物色し始めた。
「何かいい本はないかな…。」
ふと背後から声がかかる。
「これはこれは、いらっしゃいませ。ミスタードラゴン!」
振り返ると、店員のお姉さんがにこやかに笑っていた。
「ミスタードラゴンって…。」
「呼び方が、お気に召しませんでしたか?」
「ええ…。」
ハーベルは微妙な表情で答える。
「では、D様ではいかがでしょうか?」
「まあ、それなら恥ずかしくないか…。」
「では、D様、今日は何かお探しでしょうか?」
「そうだな、一般的な病気の本よりも、医術系の魔法に特化した本を10冊ほど見繕ってもらえるかな?」
「かしこまりました。」
店員はすぐに姿勢を正し、呪文のように唱えた。
「ライブラリー!」
目の前に10冊の本が突然現れる。
「へえ…スキル?」
「はい。我々司書しか扱えない固有スキルです。お客様のご希望に合わせ、迅速に本を探し出せます。」
「ライブラリーか…。」
「ああ、D様、大丈夫ですか?」
ハーベルが、急にフラッとしたので心配になって店員が助け起こしてくれた。
「いや、ありがとうございます…。」
••••••••••
ハーベル ♂ 【医術師見習い】
武器:【シックスセンス】
魔法属性:光属性
固有スキル:「解析」「統合」
獲得スキル:「設定」「分解」「把握」「毒耐性」「召喚」「魔法陣」「ライブラリー」
光:上級魔法8
闇:上級魔法7
炎:上級魔法7
水:上級魔法8
風:上級魔法7
土:上級魔法7
••••••••••
「じゃあ、この本をすべていただきます。おいくらですか?」
ハーベルは金貨を用意して支払いをしようとした。
「いえいえ、D様からはお代をいただけません!」
「はあ?何を言ってるんですか?こんなに価値のある本をただで受け取るわけにはいきません。」
ハーベルの口調は少し怒り気味だった。
「失礼ですが、ミスタードラゴンについてご存じありませんか?」
「さっきから言ってるけど、ミスタードラゴンとかD様ってなんだよ?」
「ああ、大変申し訳ありません。どうぞこちらの別室までお越しください。」
ハーベルは、立派な応接室のような部屋に案内された。しばらくして、館長らしき人物が現れる。
「私はこの【王立魔法図書館】の館長、セオドール・グロモアと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」
「これはご丁寧に。私はハーベルと言います。ところで先ほど、そちらの店員さんが代金は不要と言われて困ってしまいまして。」
「なるほど。それよりも伺いたいことがあります。そちらのブローチと指輪、どちらで入手されたものですか?」
「ああ、これですか。昨日、サルマン会長からいただいたんですよ!」
「なるほど。サルマン会長もなかなか人が悪い…効果の説明はされていないのですね?」
「効果?それはどういうことですか?」
ハーベルが怪訝そうに尋ねると、セオドールが話を続けた。
「それらは【ドラゴンハート】と【ドラゴンヘッド】、いずれも非常に希少な品です。これらを揃いで持つ方を私たちは『ミスタードラゴン』と呼び、最上級の敬意を払います。そして、全ての商業店舗ではそのお代を受け取ることが禁止されているのです。ただしご安心ください。『ミスタードラゴン』の利用は店舗の収益をマイナスにするどころか、むしろ評価を高め、利益をもたらします。これにより、あなた様へのサービスは最高水準で提供されます!」
「つまり、どんどん使えばいいってことですか?」
「はい、その通りです。ただし、今後はどの店でも『D様』の称号で統一させますので、どうぞお気になさらないでください。」
「なるほど。ありがとうございます。ただ、指輪だけなら半額で済むならそっちの方が気が楽ですね。」
「そうですね。それでしたら半額でお収めいただけます。」
セオドールの丁寧な説明を受け、ハーベルは応接室を後にした。そして試しに自身のライブラリーのスキルを使ってみることに。
「ライブラリー!」
目の前に禍々しい表紙の本が幾つも現れ、その奇妙な光景に彼は思わず顔をしかめた。
「なんだこれは…不気味なものばかりだな。」
次回 異世界医術師の覚醒
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頑張って続きを書いちゃいます!




