アズールの朝:商業国家の秘密
翌朝、街は昨日の祭りの余韻を感じさせる賑わいを見せていた。陽気な音楽が街角に響き渡り、人々の笑顔が行き交う。この【アズール王国】は、小国ながら隣接する複数の国との交通の要として栄えている商業国家だった。国王の政策によって、国際交流が活発に行われ、多種多様な文化や種族が共存していた。
「あまり、ジロジロ見ないでね。」
リーフィアが厳しい口調で言った。
「ああ、すみません。分かりました。」
ハーベルは申し訳なさそうに返した。
「ここは治安があまりよくないから、気をつけなさい。」
「そうなんですね…。了解です。」
突然、男の怒鳴り声が響き渡った。
「こらーーー!そいつを捕まえてくれ!」
人影が街中を走り抜け、その後を追う男の姿が見える。
「へん…。盗まれる方が間抜けなのさ!」
その盗人は大胆にも挑発しながら逃げていった。ハーベルは瞬時に状況を察すると、盗人の進路にスッと足を出した。
「うわーーー!」
盗人は勢いよく転がり、地面に叩きつけられた。
「ええ…。子供!?」
ハーベルは驚き、思わず目を疑った。その盗人は少年だった。少年は何も盗らずに身を翻し、再び人混みに紛れて逃げてしまった。
「おじいさん、大丈夫ですか。」
ハーベルは転がっていた荷物を拾い上げ、老人に手渡した。
「おお、良かった…。ありがとう。ありがとう。」
老人はハーベルの手を握りしめ、感謝の言葉を繰り返した。
「おじいさん、この辺りは泥棒が多いんですか。」
「そうなんじゃ。最近は、あんな子供まで犯罪に手を染めるようになってしまった。何とかせねばならん…。」
老人は深いため息をついた。
「では、俺たちはこの辺で失礼します。」
ハーベルが立ち去ろうとすると、老人が急ぎ足で二人を追い止めた。
「ちょっと待っておくれ!お礼と言ってはなんじゃが、うちの店で買い物をしていかんか。サービスするぞ!」
老人は懇願するように言った。
「師匠、どうしますか。」
ハーベルがリーフィアに尋ねた。
「そうね。どうせ買い物が必要だから、お願いしましょうか。」
「おお、そうしてくれ、そうしてくれ!」
老人は喜び、二人を店へと案内した。
「何だ、これ…。デカ!」
「まるで、デパートね。」
目の前には7階建ての巨大な建物がそびえ立ち、豪華な装飾が施されていた。周囲のどの建物よりも目を引く佇まいだった。
「ボロい店じゃが寄っていっておくれ!」
老人を迎えるように、店員たちが一列に並んで出迎えた。
「会長、お帰りなさいませ!」
「すご…。」
ハーベルとリーフィアは呆気に取られながら店内へ足を踏み入れた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「さっきは本当に助かった。ありがとうよ!これは、お礼じゃ。取っておいてくれ!」
老人は重そうな袋を机に置き、二人の前へ差し出した。
「いえ、結構です。」
ハーベルは断固として拒否した。
「名前も名乗らない方から物をいただくわけにはいきませんし、お礼をもらうために助けたわけではありませんから。」
その言葉には怒りと誇りが込められていた。
老人は驚いた様子で頭を下げた。
「これは失礼をした。ワシは【サルマン商会】の会長であり、商会ギルドのマスターでもあるサルマンという者じゃ。どうしても礼を渡したくて、先走ったことをしてしまった。この通り、謝る…。」
老人の真摯な態度にハーベルは名乗った。
「俺はハーベルといいます。こちらは師匠のリーフィアさんです。」
「ほう、師匠とな。魔法か。」
「そうです。」
「そうか。せめてこのブローチだけでも受け取ってくれんか。」
老人は胸につけていたドラゴンをかたどったブローチを外し、ハーベルに渡した。その目には真っ赤な宝石が輝いている。
「ええ、ありがとうございます。」
ハーベルはその美しいブローチを鏡で眺め、満足げに微笑んだ。
「さて、買い物もしていっておくれ。」
リーフィアは丁寧にお礼を言い、二人はその場を後にした。
「ハーベル、なぜお礼を受け取らなかったの。」
「受け取ったほうが良かったですか。」
「さあ…。」
リーフィアは柔らかい笑みを浮かべながら言葉を濁した。
「私は、ハーベルのそういうところが好きよ。」
ハーベルは顔を真っ赤に染め、何も言わず黙り込んだ。
次回 革袋と時間魔法:二人の実用的な知恵
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