春風に舞う未来~卒業試験のその先へ~
翌日の空は澄み渡り、真っ青で雲ひとつなく、春のまだ少し肌寒い風が優しく吹き抜けていった。その風に舞うピンクの花びらが、まるでハーベルを祝福するかのように彼の周りを踊っていた。
「はあ、緊張するな…。」
ハーベルは深呼吸しながら掲示板へと近づく。恐る恐る目を向け、結果を確認した瞬間、大きな声を上げた。
「やった!」
嬉しさのあまりその場で飛び跳ねる。
「ハーベル、おめでとう!」
カザキとマクリアが満面の笑みで祝福の言葉を送る。
「カザキさん、マクリアさん、ありがとうございます!」
ハーベルは二人に向き直り、深々と頭を下げた。
「お二人とも、おめでとうございます!」
続けて祝福の言葉を返すと、カザキが少し照れくさそうに答える。
「ありがとう!正直、ハーベルに助けられたな!」
「そうね、本当にありがとう!」
マクリアも頷きながら感謝を述べる。
3人は肩を組んで喜びを分かち合い、その場からしばらく動くことができなかった。しばし歓喜の余韻を味わった後、カザキが声をかける。
「じゃあ、証書を貰いに行こうか!」
「はい!」
ハーベルの声には希望が満ちていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
カザキとマクリアが先に証書を受け取った後、ハーベルの番が訪れた。少し緊張しながら学院長室のドアを開けると、そこには紳士的なエルフが立っていた。
「おお、君が噂の!」
学院長が微笑みながら声をかける。
「噂?」
ハーベルは戸惑いながら返答した。
「ああ、失礼!私はヨッシュガルド王立魔法学院の学院長、フィネガン・グリングロウだ。」
「ハーベル・イースタンと申します!」
背筋をピンと伸ばして挨拶するハーベル。フィネガンは彼を見て満足げに頷く。
「まあ、楽にしなさい。」
「はい!」
ハーベルが姿勢を少し緩める。
「よく1年で飛び級を果たしたな!私の知る限り【紫炎の工匠】以来の快挙だ。まずはおめでとう!」
「ありがとうございます。」
ハーベルは丁寧にお辞儀をする。
「なるほど、あの医術師の家系で有名なイースタン家の者であったか!」
フィネガンが興味深そうに語る。
「はい!父をご存じでしたか?」
ハーベルが期待を込めた目で尋ねる。
「もちろんだ!医術師としては、この国では筆頭だからな。」
「はい!」
ハーベルは父の名声を誇らしく感じた。
「ハーベル、君も医術師を目指しているのかい?」
「はい!父のような立派な医術師になりたいと思っています!」
「いい心掛けだ!困ったことがあったら何でも相談して来るといい。」
「ありがとうございます!」
ふとハーベルが質問を思い出し、勇気を振り絞って口を開いた。
「ひとつ質問をよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「【紫炎の工匠】についてですが…」
学院長は深く息をつきながら語り始める。
•••••••••
16年前に入学した女子生徒。彼女は紫色の美しい長い髪を持つ魔女で、学術だけでなく魔法に関しても卓越した才能を発揮していた。教師陣よりも多くを学び、さらに魔道具作りでも天才的な能力を示していた。
彼女は未知の道具や「魔剣」と呼ばれる類の武器を作り出し、勇者パーティーに召集され、もてはやされた。しかし、その突出した才能は一部の人々にとって面白くないものとなり、やがて噂話だけが独り歩きし始めた。
その後、彼女は周囲から疎まれるようになり、行方をくらましたという。
•••••••••
「そうだったんですね…。」
ハーベルは涙を浮かべながら話を聞いていた。
「君も才能に満ち溢れているからね。【紫炎の工匠】の二の舞にならないよう注意するんだよ!」
「分かりました。ご助言ありがとうございます。肝に銘じておきます!」
「まあ、精進しなよ!」
「はい!」
ハーベルは学院長室を後にし、外に出ると待っていたマクリアが声をかけた。
「ハーベル、遅かったわね!」
「ちょっと父のことで話し込んでしまって…。」
「親父さんと知り合いなのか?」
「そのようでした。」
「さすが、医術師だな…。」
カザキは感心した表情を浮かべながら黙り込んだ。
今年の合格者は受験生38人中15名。難関試験と呼ばれるにふさわしい結果だった。
次回 師匠との約束 ~次なるステージへ~
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頑張って続きを書いちゃいます!




