魔女の贈り物と運命の出会い
ハーベルには、お気に入りの場所があった。
そこは町全体を見渡せる小高い丘で、森を抜けなければ辿り着けないため、ほとんど人が訪れることはなかった。
彼は、落ち込んだり、気が滅入ったりしたとき、この静寂の丘で一人考え込むことが多かった。
夕暮れの空は茜色から紫色へと変わり、町の灯がちらほらと点き始めていた。
その瞬間の光景は幻想的で、悩みに沈むハーベルの心を、まるで慰めるように優しく包み込んでいた。
「くそ、あいつのせいで何も調べられなかったじゃないか…。」
ハーベルは苛立ちを抑えきれず、地面を拳で叩いた。
そのとき、どこからともなく美しい女性の声が響いた。
「ねえ、そこの君。何してるの?」
思わず丘の上を見上げると、紫色の長い髪をたなびかせた美しい魔女がホウキに乗り、優雅に宙に浮いていた。
「えっ、ホウキ…?」
ハーベルは驚きに目を見開き、言葉を失った。
「いや、俺は何も…。」
驚きと警戒心が交錯し、ハーベルは口ごもった。
「ごめんなさいね。いきなり声をかけて驚かせちゃったわね。」
魔女はホウキに乗ったままゆっくりと降りてきた。
この魔法の世界でも空を飛ぶ魔法は極めて希少であり、ホウキに乗って飛ぶなど考えもしないことだった。
「まだ15歳くらいかしら。その年でそんなに悩むなんて、よほどのことなんだろうね。」
魔女は柔らかい声で続けた。
ハーベルはその優しさに惹かれつつも、警戒心を抱いていた。
「話したくなったら聞いてあげるよ。」
ホウキでふわふわと浮かびながら提案してきた。
「い、いや、これは俺の問題だから…。」
ハーベルは顔を伏せ、拒むように答えた。
「そうかい。でも、気が向いたら私の家に来るといいわ。ここから少し距離があるけど、いつでも相談においで。」
魔女はそう言いながら、肩掛けのバッグから小さな光る珠を取り出した。
「これを預けておくわね。」
そっと近づき、魔女はその光る珠をハーベルに手渡した。
その珠は真っ白で、ただのガラス玉のように見えたが、どこか神秘的で心を透き通らせるような感覚を与えた。
ぼんやりと放つ光にハーベルは見惚れてしまった。
「でも、これって…。」
珠の使い方を聞こうと顔を上げると、そこに魔女の姿はもうなかった。
ハーベルはその珠を大事そうに鞄へしまい込み、森を抜けて家路へと急いだ。
その頃には辺りはすっかり暗くなっていたが、大きく輝く黄金色の月がハーベルの背中を優しく照らしていた。
次回 優しい声と導きの珠
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