失われた精霊の歌:古都の謎
ハーベルが家を出て数日後のことだった。
彼は師匠の家で見つけた古い文献を頼りに、情報収集のためにとある古都の路地裏を歩いていた。
ここは、キョウノ王国の首都、ネアン。
ネアンの歴史は、この大陸における文明の黎明期にまで遡る。かつて、強大な魔力を持つ精霊信仰が栄え、自然と調和した生活を営んでいた古代民族がこの地に最初の集落を築いたとされている。
彼らは、大地に宿る精霊の力を借り、奇妙な石の建造物を多く残した。その一部は、現在もネアンの地下深くに眠っていると言われている。
伝説によれば、現在のネアン城が立つ場所には、かつて「世界の臍」と呼ばれる巨大な魔法陣が存在したという。
それは、精霊界と物質界を繋ぐ扉であり、太古の賢者たちが異世界の知識や技術を呼び出すために用いたとされる。
この魔法陣の力は絶大で、それゆえに多くの争いの種となり、幾度となく戦乱の舞台となってきた。
数百年前にキョウノ王国が建国され、ネアンがその首都と定められてからは、魔法陣の力は封印され、その上に現在の城が築かれた。
しかし、都市の地下には未だ、古代の遺構や、精霊信仰の名残が数多く残されており、一部の者は、それらが秘める未知の力を探求し続けている。
ネアンは、歴史の重みを感じさせる石造りの建物が立ち並び、細い路地が迷路のように入り組んでいる。表通りは活気に満ち、様々な種族の商人や旅人が行き交うが、一本裏に入れば、時が止まったかのような静寂と、苔むした壁が連なる。
この都市のどこかに、ハーベルの求める情報、あるいは「失われた精霊の歌」への手掛かりが隠されているのかもしれない。
ハーベルは、そんな歴史ある古都の路地裏を、新たな希望と、そして深まる謎を胸に歩き続けていた。
旅の途中で立ち寄った小さな宿屋で、彼は一人の奇妙な旅人と出会う。
その旅人は、ぼろぼろの外套を身につけ、顔の半分をフードで隠していたが、その眼光は鋭く、何かを探しているかのようだった。
男はハーベルに気づくと、ゆっくりと近づいてきた。
「若者、君は何かを探しているようだな?」
ハーベルは警戒しながらも、正直に答えた。
「ええ、大切な人を探すための方法を…。」
旅人はフッと笑い、古びた羊皮紙の地図を広げた。
地図には、不可解な記号と、どこか見覚えのある紋様が描かれている。
「伝説の『時の狭間の図書館』を探してみるといい…。」
ハーベルの心臓が大きく跳ねた。
師匠を元の世界に戻すための手掛かりが記されていると、文献にあった場所だ。
「なぜそれを…!?」
旅人はハーベルの動揺を愉しむかのように、さらに言葉を続けた。
「だが、その場所へ辿り着くには、ただ地図があるだけでは足りない。『失われた精霊の歌』が必要になる…。」
その言葉を聞いた瞬間、ハーベルの胸に強い予感が走った。
••••••••••
失われた精霊の歌…それは、リーフィアがかつて口ずさんでいた、あの美しい旋律のことではないか?
••••••••••
サリエルとの戦いで消滅したはずのリーフィアの存在が、この新たな旅の鍵を握っていることを示唆しているかのようだった。
「その『失われた精霊の歌』とは、いったい…?」
ハーベルは前のめりになり、旅人に食い下がった。
旅人は地図をたたみながら、意味深な笑みを浮かべる。
「それは、君自身が見つけるべきものだ。だが、ヒントは一つ…歌は、常に『始まりの地』に存在する…。」
そう言い残すと、旅人はハーベルの返事を待たずに、夜の闇に溶け込むように去っていった。
旅人の言葉は、ハーベルの心に新たな希望と、そして深まる謎を残した。
「時の狭間の図書館」そして、「失われた精霊の歌」、その歌が、リーフィアとどう関係しているのか。そして、「始まりの地」とはどこを指すのか。
ハーベルの旅は、サリエルとの戦いでは得られなかった、さらなる試練と、そして驚くべき真実へと導かれることになるだろう。彼は、師匠を元の世界へ帰し、そしていつかリーフィアと再会するために、失われた精霊の歌を探す新たな旅へ、今まさに踏み出したのだった。
次回 シーズン8 【魔刻印者編】(創始)
過去との決別:信じる絆
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