剥奪された翼:親友の真意
「もうそろそろか…。」
ハーベルは呟いた。仲間たちの準備が整ったようだ。彼らの顔には、ハーベルを信じる決意が刻まれている。
「ハーベル、準備完了よ!」
リーフィアの声が届くのと同時に、レオンが闇のオーラを纏った短剣を構え、ハーベル目掛けて突っ込んできた。
その動きは、見る者全てにハーベルへの殺意を感じさせるものだった。
ハーベルは、レオンの素早い斬撃をギリギリのところでかわす。レオンは瞬間移動と卓越した短剣の戦闘技術を駆使し、ハーベルを追い込んでいく。
その動きはまさに死神のようだ。宮殿の空間を切り裂く短剣の衝撃波が、激しい音を立てて響き渡る。
ハーベルがレオンの攻撃を【神器:シックスセンス】で受け止めた時、レオンが誰も聞き取れないほどの小声で囁いた。
「ハーベル、アスラだ!」
ハーベルはハッとして、レオンの真意を悟った。
レオンは、サリエルの目を欺き、ハーベルと連携するためのサインを出していたのだ。レオンの「隠蔽」スキルが、彼の真の意図を完璧に隠していたのだ。
「了解、アスラ!」
ハーベルはニヤッと笑った。
それは、レオンとの間に確かな信頼関係がまだ残っていることを示す、固い絆の証だった。そして、ハーベルはサリエルへと突進する。
「行くぞ!」
ハーベルは、「零式」を発動させた。
自身の魔力を極限まで集中させ、空間を歪める。一気にサリエルとの距離を詰め、空間の裂け目を生み出し、彼を別空間に押し込もうと試みた。
「なるほど、零式ですか…。」
サリエルは、ハーベルの動きをまるで予期していたかのように、冷たい笑みを浮かべた。しかし、その表情には微かな油断が見て取れる。
「あれ?」
その場にいた全員の動きが一瞬固まった。
何が起こったのか理解できない。
次の瞬間、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
サリエルが、ハーベルの背中に生えていた【神器:漆黒の翼】を掴み、そのまま無慈悲にもぎ取って破壊してしまったのだ。
それは、ハーベルの最後の切り札とも言える翼だった。
「うわー!」
ハーベルの叫び声が響き渡る。
「なるほど、別空間へ移動させておいてその隙に…。」
サリエルは、ハーベルの作戦を正確に読み解いていたかのように呟く。
「あいつ、作戦がばれてる?」
「マジか!」
「万事休すでござる!」
仲間たちの絶望の声が上がる中、ハーベルは痛みに耐えながら立ち上がった。
「サリエル、なぜ分かった?」
ハーベルは問いかける。
「何か企んでいるとは思いましたが、作戦がばれていたわけではありませんよ…。」
サリエルは、高慢な態度で答える。
「どういうことだ?」
「漆黒の翼ですよ。」
サリエルはハーベルが失った翼を見下ろす。
「漆黒の翼を知っているのか?」
「知っているも何も、私が作ったのですから…。」
サリエルの言葉に、ハーベルは凍り付いた。
全身を貫くような衝撃が走る。
「なんだと!」
「まあ、予想はつきますよね。」
サリエルは愉快そうに笑う。
「なんてこと…。」
「もう、打つ手がないわね…。」
ハーベルとしたことが、まさか漆黒の翼がサリエルの作った魔道具だったとは。完全に盲点だった。自分の力を過信し、敵の掌で踊らされていた。このままでは、サリエルに殺られるのを待つだけになってしまう。
なんとか、別の作戦を…。
「万策尽きましたか?」
サリエルが高笑いをしながら、絶望に打ちひしがれるハーベルたちを見下ろしている。彼の勝利を確信したような表情は、彼らの心をさらに深く抉った。
「さあ、もういいでしょう、レオン、止めを!」
「かしこまりました!」
レオンは、サリエルの命令に恭しく応じた。
しかし、彼の瞳の奥には、ハーベルとの間で交わされた合図の光が宿っていた。
ハーベルは再び、レオンのステータスに記載されたスキルを思い出す。「隠蔽」。レオンは、サリエルを欺き続けていたのだ。
レオンは再び、その身体からどす黒い闇の魔力を溢れさせ、【神器:ソウルレンダー】を構えてハーベルへと向かってきた。その動きは、まるでハーベルを葬り去るかのように見えた。
しかし、その剣筋には、どこか不自然な緩急がある。ハーベルは、レオンが何かを伝えようとしていることを察した。
その時、レオンが再びハーベルの耳元で、誰も聞き取れないほどの小声で囁いた。
「ハーベル…もう一つの「剣」だ…!」
レオンが扱う【神器:ソウルレンダー】に秘められた真の力。それは、サリエルすらも計算に入れなかった、レオン自身の闇属性のソーサリーエレメントと深く結びついた「魂を殲滅する」究極の剣技。
ハーベルは悟った。
••••••••••
レオンがハーベルに止めを刺すと見せかけて、実は【神器:ソウルレンダー】の真の力を発動させ、サリエルに一撃を食らわせるつもりなのだ。
そして、その一撃こそが、石板に闇のソーサリーエレメントを嵌め込むための最後のチャンスになるはずだ。レオンは、最初からサリエルを欺き、この状況を作り出すために、あえて下僕のふりをしていたのだ。
••••••••••
「まさか…そんな仕掛けを…!」
ハーベルは内心で驚愕する。レオンの覚悟と、彼への信頼が、ハーベルの心を奮い立たせた。
レオンの表情は冷酷なままだが、その動きはまるでハーベルを誘導しているかのようだ。
ハーベルは、レオンの真意に気づかないふりをしながら、反撃の体勢に入った。彼の心には、勝利への確信が宿っていた。
次回 イメージの力:最後の零式
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