闇の忘却:決意の光
「ハーベル!何をうつ向いているんだ!」
カザキが突然、ハーベルの肩を強く叩いた。
一同が「ハッ…。」と気がつく。
「ハーベル、分かっている!これは、全てアイツらの罠だ!」
カザキが魔物たちを指差した。
「カザキさん…。」
ハーベルはカザキの顔をみて安堵する。
「ここは、俺たちに任せて、お前は先に行け!」
カザキがハーベルの肩を強く押した。
「でも…。」
「でもも、へったくれもあるか!みんなの顔を見てみろ!」
カザキがそう叫ぶと、
一同の顔は、自信に満ち溢れていた。
「分かりました!先に行って、他のソーサリーエレメント保持者と合流します!」
ハーベルも自信を取り戻し始めていた。
「分かったら行け!」
カザキが魔物の攻撃を受け流しながら叫んだ。
「はい!」
ハーベルは涙を振り払うと、一瞬で彼方へ消え去ってしまった。
「くそ!一匹逃したか!」
一匹の魔物が悔しそうに悪態をつく。
「まあ、コイツらを殺すだけだろ…。へへへ…。」
魔物たちが、カザキを不敵に笑いながらヨダレをぬぐった。
「ヤツを追うぞ!」
別の魔物が叫び、残りの魔物たちは一斉にテルミットゲートの奥へと進もうとする。しかし、その道を塞ぐようにカザキが立ちはだかった。
「お前たちに、ハーベルを追わせるものか!」
カザキの目が鋭く光る。彼は、ハーベルへの疑惑の目が向けられた瞬間、ただ一人、彼を信じ抜いた。その信頼が、彼の内に秘められた力を呼び覚ましたのだ。
「フン、たかが人間が…。」
魔物の一体がカザキに攻撃を仕掛けようとしたその時、アクシアの放った【神器:ディープブルー】の水龍の矢がその魔物の腕を正確に射抜いた。
「ハーベルは私たちを信じてくれている!私たちも、ハーベルを信じます!」
アクシアは震えを抑え、凛とした声で言い放つ。その横では、フレアが燃え盛る炎を魔物たちに向かって放っていた。
「百花繚乱!」
無数の炎の花びらが、舞い散り渦となって魔物を包み込む。
「ハハハ…、こんなデカブツ、燃やし尽くしてやる!」
フレアは武者震いとは違う、戦意に満ちた笑みを浮かべる。
そしてクラリッサは、【邪神の杖】を高く掲げ、
「闇の精霊に感謝します。闇の恐怖、魔物に攻撃を!
闇:第10究極魔法!メテオ・ストライク!」
魔物の集団目掛けて、空から大きな岩の塊が黒い火の玉となって降り注いだ。周りは、黒炎の海と化していた。
「ハーベルに全てを押し付けるわけにはいかないからね!ここらで私たちが本気を見せてやらないと!」
クラリッサの言葉には、いつもの軽妙さに加えて、確固たる決意が漲っていた。
ネルは、ハーベルの去っていった方向をじっと見つめていたが、すぐに視線を魔物たちに戻す。
「ハーベル、必ず生きて帰ってきて。私たちも、ここで足止めするから!」
彼女の瞳には、不安の色はもうなかった。そこにあるのは、ハーベルへの深い愛情と、仲間としての強い絆だった。
魔物たちは、自分たちが予想していたような一方的な展開にならないことに苛立ちを募らせる。
「くそっ、この人間ども、意外とやるではないか!」
彼らは数の利を活かし、波状攻撃を仕掛けてくるが、カザキたちは互いの連携でそれを凌ぎ、確実にダメージを与えていく。
カザキは先陣を切って魔物の攻撃を受け流し、隙を見てはカウンターを叩き込む。
「疾風烈斬!」
無数の風の刃が魔物たちを切り刻んでいく。
フレアの炎とアクシアの矢が援護し、クラリッサのネクロマンシーが魔物たちを蹂躙していく。
激しい戦いが繰り広げられる中、魔物の一体が狡猾にもクラリッサを狙い、背後から忍び寄る。
「クラリッサ、後ろだ!」
カザキの叫び声に、クラリッサは辛うじて反応したが、攻撃を完全に避けることはできなかった。魔物の爪が、彼女の腕を深く切り裂く。
「くっ…!」
痛みに顔を歪ませるクラリッサ。しかし、その表情には怯えはなかった。
「この程度で、止まるもんか!」
彼女は傷口を押さえながらも、さらに強力な魔法を詠唱し始める。
「闇の精霊に感謝します。闇の恐怖、魔物に攻撃を!
闇:第9上級魔法!ゴールデン・オブリビオン!」
魔物たちの中心から巨大な闇の忘却領域が展開されると、その中央から黄金に輝く無数の鎖が、次々と魔物たちを拘束していく。
「なんだ…、この鎖は…!」
「うぉーーーー!」
「放せ!」
「助けてくれーーー!」
拘束された魔物たちは、どんどんと闇の忘却領域の中へと引きずり込まれていく。
すると、忘却領域は、魔物たちごと一瞬で「シュンッ」と一点の闇となって消滅してしまった。
「私たちだって、決戦前夜に己を磨いてきたんだ!お前たちごときに、やられてたまるか!」
クラリッサが叫んだ。
フランがクラリッサの膝に飛び乗ると、優しい光魔法でどんどん傷を癒していってくれた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
その頃、はるか彼方の雪原を飛翔していたハーベルは、背後から伝わる仲間たちの戦いの気配を感じ取っていた。
「みんな…!俺のために…!」
胸に去来するのは、仲間たちへの感謝と、彼らの信頼に応えなければならないという強い責任感だった。
テルミットゲートでのあの疑惑の視線、そしてカザキの揺るぎない信頼。あの瞬間、ハーベルの心に迷いは一切なくなった。
「必ず、サリエルを倒す。そして、みんなの元へ…ネルの元へ、生きて帰る!」
ハーベルは、頬を伝う新たな涙をぬぐい去り、決意の表情で前を見据えた。彼の目には、もはや悲しみも後悔もなかった。あるのは、ただ未来へと続く道だけだった。
「待っていろ、サリエル…!」
彼の声が、雪原に響き渡る。
次回
魂のせめぎ合い:プライマル・ナンバーの覚醒
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頑張って続きを書いちゃいます!




