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転生医術師の魔法好きがこうじて神にまで上り詰めた件  作者: 吾妻 八雲
シーズン7 【悪魔男爵激闘編】(サリエル戦)

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179/200

絶望の夜明け:疑念の扉が開く時

決戦前夜、それぞれの胸に去来する思いは異なっていた。


料理に没頭することで平静を保とうとする者。


書物に耽り、来るべき戦いに備える者。


素振りに集中し研ぎ澄まされた刃のように己を磨き上げる者。


そして、ただ夜空を仰ぎ、無限の星々に自らの運命を重ね合わせる者……。


「ハーベル、隣に座っていい?」

ネルの声が、寒空の下、満天の星を眺めていたハーベルの静寂を破った。


「うん…。」

ハーベルは、それだけを短く答える。


「ねえ…。サリエルを倒したらどうするの?」

ネルは、心配そうにその顔を覗き込んだ。


「う~ん…。」

ハーベルは深く考え込み、言葉を選んだ。


「私と一緒に住まない?」

意を決したネルの言葉に、ハーベルの瞳に戸惑いが浮かぶ。


「ネル…。ごめん…。俺は…。」

ハーベルは、絞り出すように呟いた。その声には、深い悲しみがにじんでいた。


「うん、分かってる…。師匠のことでしょ?」

ネルの理解ある言葉に、ハーベルは静かに頷く。


「そうなんだ…。」

二人の間に、しばしの沈黙が落ちる。しかし、その沈黙は穏やかなものではなかった。


「ハーベル、大好き!」

ネルは唐突に、ハーベルの頬にキスをした。その行動は、彼女自身の不安を打ち消すかのようだった。


「ネル…。ありがとう!でもごめん…。」

ハーベルの複雑な表情は変わらず、幾千もの輝く星々を見上げながら、一筋の涙が頬を伝った。

彼の中で、師への誓いとネルへの想いが激しく葛藤していた。二人はいつまでも、互いの未来を映すかのように輝く夜空を見つめ続けていた。


⭐☆☆☆☆☆☆⭐


翌朝、準備を整えたハーベルたちが、テルミットゲートの前に集結していた。しかし、その場の空気は昨日とは打って変わって重苦しい。


「ああ…。緊張するな…。」

フレアが武者震いしながらも、その表情には拭いきれない不安が浮かんでいる。


「ええ、ドキドキしてきましたわ…。」

アクシアは不安そうに自分の弓を撫でていた。その指先が微かに震えている。


「ハーベル、一言頼む!」

カザキが大声で場の空気を引き締めようとするが、その声にもどこか焦りが滲んでいた。


「分かりました…。ここまで、ついてきてくれて本当に感謝しています。ここからは、生死を分ける戦いになるかもしれません。俺は、必ずサリエルを倒します!皆さん、サポートよろしくお願いいたします。」

ハーベルは深々と頭を下げた。しかし、その言葉の裏には、仲間たちに言えぬ秘密を抱えている重みが隠されていた。


「ハーベル、真面目か!」

クラリッサがいつものようにスタッフでハーベルの頭をコツンと叩いた。


「痛てて……。」

ハーベルが頭を擦りながら微笑む。しかし、その笑顔はどこかぎこちない。

「だから、痛くないクセに!」

クラリッサがいつものやり取りで場の空気を和ませようとするが、周囲の者は誰も笑わない。


「ハハハ…。」

無理に笑い声を出そうとするが、それはすぐに消え失せた。


「とにかく、慎重に!絶対に死なないで下さい!」

ハーベルの真剣な願いに、一気に場の空気が緊張する。


その時、ゲートの向こうから不穏な気配が漂い始めた。

「ハーベル、絶対に無理するな!」

カザキがハーベルの肩をがっしりと強く掴んだ。その手には、これまで感じたことのない切迫感が込められている。

「はい、先輩!」

「ハーベル…。」

カザキの緊張している様子が、仲間たちにも伝播していく。


その瞬間、テルミットゲートが突如として大きく歪んだ!

静かに開くはずのない石の門が、内側から激しく光だし空間が捻れるように景色が現れた。


「な、なんだ!?」

フレアが驚愕の声を上げた。


雪景色の中から現れたのは、サリエルの側近と思しき、禍々しいオーラを放つ数体の魔物だった!


彼らは門を強引にこじ開け、不気味な笑みを浮かべてハーベルたちを見据える。

「そんな…!まだ合言葉も…!」

アクシアが絶句する。


テルミットゲートは、特定の合言葉を唱えなければ開かないはずだった。


「おやおや、まさかこんなところで待ち伏せしているとは。随分と人間も用心深くなったものだねぇ?」

魔物の一体が嘲るように言った。

その言葉に、ハーベルの顔色が変わる。


「だが、残念だったな。お前たちの合言葉など、我々には筒抜けだ。なにせ、我々には協力者がいるのだからな…。」

魔物の言葉に、カザキが激しく反応した。


「協力者だと!?誰だ、それは!?」

魔物は不敵に笑い、視線をある一点に固定する。

その視線の先は――ハーベルだった!


「言っただろう?『サリエルのおたんこなす!』……随分とおぞましい合言葉だと思ったが、まさか本気で使っていたとはねぇ。これで扉が開くとは、人間も随分と愚かなものだ。」

魔物が、ハーベルが唱えようとしていた合言葉を、完璧な発音で言い放った。

仲間たちの視線が一斉にハーベルに集まる。

「ハーベル…どういうことだ…?」

クラリッサの声が、かつてないほど冷たく響いた。


フレアもアクシアも、そしてネルでさえ、信じられないものを見る目でハーベルを見つめている。彼らの間には、深い疑念と困惑が渦巻いていた。


ハーベルは、その場で立ち尽くしていた。口を開くこともできず、ただ視線を落としている。

その表情は、絶望と後悔に満ちていた。


彼の頬を、また一筋の涙が伝った。それは、寒空の夜に流した涙とは、全く異なる意味を持つ涙だった。

「よし、行くぞ!」

魔物たちが不気味な雄叫びを上げ、ハーベルたちに襲い掛かろうとする。


戦いは、ゲートの向こうに広がる悪魔の宮殿へと続く道ではなく、まさかのテルミットゲートの前で幕を開けたのだった。

次回 闇の忘却:決意の光

続きの気になった方は、

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頑張って続きを書いちゃいます!

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