決戦前夜:希望への扉
翌朝、カザキが剣の素振りをしようと外へ出ると、ハーベルが何やら作業をしているのに気がついた。
「ハーベル、早いな!」
「ああ、カザキさん、おはようございます!」
ハーベルは、カザキの方に向き直り挨拶を交わす。
「何してるんだ?」
カザキが不思議そうに尋ねた。
「みんなで移動できるように、門を設置しようと思って…。」
ハーベルは、手頃な石をいくつか見繕っているようだった。
「門…?そんなのできるのか?」
カザキには全く検討がついていないようだった。
「ええ…。テルミットだと、せいぜい数キロ程度しか移動できないって、師匠が言っていたので、もっと遠くに一度に移動できるように改良をしようかと……。」
ハーベルは作業を進めながら説明する。
「うーん…。全く分からないや……。」
カザキが困った顔をしながら素振りを始めた。
ハーベルは、手元に石を丸いアーチ型に器用に積んでいくと、小さな門の形が見えてきた。
「その小さな門で移動できるのか?」
また、カザキが不思議そうに尋ねる。
「いいえ…。これを『設定』で、人が通れる大きさにして…。」
ハーベルがそう呟くと、大きな門を設置した。
「なるほど、スキルで大きくできるんだったな…。」
そう言って、その門をなんとなく潜ってみる。
「何も起こらないな……?」
「ああ、まだ片方しかないからです。まだ、ただの石の門ですよ…。」
ハーベルは苦笑する。
「そっか…。ハハハ…!」
カザキも大きく笑うと、再び素振りを始めた。
「俺が、サリエルの宮殿近くまで一度飛んでいって、向こう側にも門を設置すれば、いつでも移動が可能となります。」
「なるほど…。」
素振りを続けながらカザキは感心していた。
ハーベルが作業を終えると、
「じゃあ、一飛びして門を設置してきます!」
そう言って、一気に飛び上がると、一瞬で見えなくなってしまった。
「気をつけて行けよ…。って、もう見えないか…。」
カザキは少し心配そうにしながらも、素振りを続けていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
一面銀世界の空を、風のように飛翔していくハーベル。遠くに渓谷が見えてくると、威厳のある壮麗な建築物が姿を現した。
「あれが、宮殿か…。思っていたよりも立派な建物だな…。」
ハーベルはその姿に一瞬で心を奪われた。
近くの森に降り立つと、早速、周りの石を拾い集めて小さな門を作り始めた。
「よし、大きくしてと…。」
ハーベルが大きな門を設置すると、何やら設定をし始めた。
「これで、オッケー!『サリエルのおたんこなす!』」
門に向かって合言葉を叫ぶと、門の内部が光りだし、渦のように空間が捻れると、内部に違う景色が現れた。
「成功!」
ハーベルは、満足そうに呟くと、
「そうだな……。テルミットゲートと名付けよう!」
ハーベルがそう言ってゲートを潜ると、一瞬で元のただの石の門に戻ってしまった。
「カザキさん!」
「おお、ビックリした!!」
カザキが、素振りをしていた手を止めて「ビクッ!」と跳び跳ねた。
「すいません…。驚かせてしまって…。」
ハーベルは申し訳なさそうに頭をかく。
「どうやって戻ったんだ?」
カザキは不思議そうに尋ねる。
「このテルミットゲートですよ!」
ハーベルは大きな石の門を「パシパシ」と叩いた。
「そんなんで帰ってこれるのか?」
「はい!テルミットゲートといいます!」
「なるほど…。あのテルミットを応用したのか!」
「その通りです。」
ハーベルは嬉しそうに手を叩く。
「これで、いつでも行ったり来たりできますよ!」
「いやいや、待て待て、それじゃ悪魔どももこっちに来れるってことだろ?」
カザキが慌てた様子で問いかける。
「いいえ、合言葉がないと作動しないんです!」
「合言葉?」
「はい!『サリエルのおたんこなす!』」
ハーベルが叫ぶと、門の内部に違う景色が現れる。
「マジか…。」
「マジです!」
「それにしても、なんか恥ずかしい合言葉だな…。おたんこなんとかってなんだよ?」
カザキが眉間にシワを寄せる。
「おたんこなすです。まあ、サリエルの間抜け!みたいな感じですかね……?」
「間抜けか…。それはいいや!ハハハ…。」
カザキは、腹を抱えて笑いだした。
「カザキ…。何がそんなにおかしいんだ?」
フレアが起きてきて声をかける。
そこへみんなも家の外へ出てきた。
ハーベルは、テルミットゲートの使用法について、全員に説明すると、一度試して見せた。
「おおーー!」
「すごいですわ!」
「はあ…。穴が開いてる…。」
「ハーベル…。天才!」
みんなが口々にハーベルを称える。
「これで準備は整った!明日は、最終決戦だ!みんな、準備を抜かりなく頼んだよ!」
ハーベルが全員に気合いを入れる。
「了解!」
一同の息はぴったりだった。
次回 絶望の夜明け:疑念の扉が開く時
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