夜明けの攻防:魂の解放者
子供たちは、どんどんとハーベルたちに近付いてくる。
手に携えた小型のナイフや包丁が、薄暗い中で月明かりに照らされて、次々と輝いていた。
「おい、ハーベル!どうするんだ!」
カザキの動揺が手に取るように分かる。
「今考えています…。」
ハーベルの鼓動も高鳴り、精神的に追い詰められていく。
「とりあえず、家に入れないようにしないと!」
ネルがハーベルにしがみつく。
「うん…。」
ハーベルは頷くと、「設定」スキルですべての窓やドアを開かないようにしてしまった。
子供たちは、虚ろな眼をしたままで家へたどり着くと、手に持った武器で家のあらゆる場所を「グサグサ…。」と攻撃し始めた。
「キャーーー!」
村の女性たちが口々に悲鳴を上げる。
自分たちの子供の豹変ぶりに怯えている者もいる。
「これじゃ、壁が持たない!」
フレアが焦りの声を上げた。子供たちの攻撃は、単純な力ではない。ソウル・コンサンプションの影響か、まるで怨念が込められているかのように、家の壁を削り取っていく。
ギシギシ…、ギシギシ…。
家が嫌な音を発している。
「なんとか、子供たちを傷つけずに、ローブの男を引き離す方法を…!」
アクシアが弓を構えるが、狙いを定めることができない。子供たちの動きは予測不能で、しかも密集している。
その時、ローブの男が不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと手を掲げた。空気が一瞬で重くなる。
「愚か者どもめ…。その選択が、お前たちの命取りとなる!」
男の言葉に呼応するように、子供たちの瞳に、さらに深い闇が灯った。手にした刃の輝きが増し、攻撃が激しくなる。
「くっ…!」
カザキが歯を食いしばる。このままでは、家が破壊され、子供たちが突入してくるのは時間の問題だ。
ハーベルは目を閉じ、深く呼吸をした。
師匠の言葉が頭をよぎる。
「本当に大切なものを守る時、人は想像以上の力を発揮するのよ!
彼はゆっくりと目を開けた。
その瞳には、迷いが消え、凍てつくような冷静さと、燃えるような決意が宿っていた。
「みんな、聞いてくれ!」
ハーベルの声が、緊迫した空間に響き渡る。
「この家の壁は、まだ持つ。俺が外に出る!」
「何だと!?」
カザキが驚きの声を上げた。
「一人で外に出るなんて無謀よ!ソウル・コンサンプションの影響を受けた子供たちに囲まれてしまうわ!」
クラリッサが叫ぶ。
「心配ない。俺には、魔法がある。」
ハーベルはそう言うと、右手を壁に触れさせた。彼の指先から、微かな光が壁を伝っていく。
「虚空:第8応用魔法!ファントム・ヴェール!」
ハーベルの姿を虹色に輝くヴェールが包み込む。
「俺は、子供たちを傷つけずに、あの男を足止めする。その間に、みんなで子供たちの気を引いてくれ。あくまで、彼らを傷つけない範囲でだ!」
「ハーベル…!」
ネルが不安そうに名を呼ぶ。
「大丈夫だ、ネル。必ず戻る。」
ハーベルは力強く頷くと、壁の「設定」を解除し、一歩、外へと踏み出した。
外に出た瞬間、虚ろな目の子供たちが一斉に彼に群がった。
無数のナイフが、ハーベルめがけて振り下ろされる。
「ハーベル…!」
ネルは思わず顔を伏せた。
ローブの男は、ハーベルの行動を見て、嘲笑を浮かべた。
「ほう…自ら餌になるとは。愚かにも程があるな、人間。」
しかし、次の瞬間、男の笑みが凍り付く。
ハーベルは、迫りくる子供たちの刃を、まるで風のようにすり抜けた。彼の体は、子供たちの攻撃を一切受けず、まるでそこに存在しないかのように、彼らの間を縫ってローブの男へと一直線に向かっていた。
「なっ…!?」
ローブの男は驚愕に目を見開く。
ハーベルは、その驚愕の表情を正面から受け止めると、その場に立ち止まった。そして、静かに右手を、男の胸へと突き出した。
「お前は、俺の、大切なものを傷つけようとした。」
ハーベルの言葉には、怒りも憎しみも含まれていなかった。
ただ、絶対的な、静かな決意がそこにあった。
彼の掌から、眩いばかりの光が放たれる。
それは、闇を打ち払う、純粋な光の輝きだった。
「神聖:第7上級魔法!ラディアント・ダウンエクソシズム!」
ローブの男はスーッと浄化されるように消え去った。
子供たちは、何もなかったように我に返ると、自分の親に付き添われて、家々へと戻っていった。
「はあ…。長い夜だった…。」
ハーベルは疲れた身体をベッドへ投げ出すと深い眠りに落ちていった。
次回 レオンの闇:禁呪級魔法の深淵
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