魂を穿つ刃~闇を裂く死霊の園~
61階層からは、広大な霊園が広がっていた。そこには、整然と並べられた無数の墓石が、かえって不気味さを増しているかのようだった。陽の光が届かないのか、空間全体が薄暗く、冷たい空気が肌を刺す。
「チッ、嫌な予感しかしねえ!」
トリガーは、真っ暗な霊園を見渡して、思わず身震いをした。彼の勘は、この場所に潜む危険をいち早く察知していた。
ヒーヒュー…。ヒューフィー…。
不意に、生暖かい風が霊園を吹き抜け、女性の悲鳴にも似た、おぞましい怪音が響き渡った。その音は、まるで魂を直接震わせるかのように、一行の心胆を凍りつかせた。
「チッ…。レイスか…!」
トリガーは再び舌打ちをした。彼の経験から、この怪音の主が何であるかを瞬時に見抜いたのだ。
「ここは僕に任せてくれ!神器も試して見たいし!」
レオンが、腰に下げていた【神器:ソウルレンダー】を構えながら言った。
そのナイフは、別名「魂食いの短剣」と呼ばれ、触れたものの魂を完全に消滅させるという恐るべき能力「殲魂」スキルを持つ。レオンの目には、新たな力を試したいという強い意欲が宿っていた。
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レオン ♂ 【MACOK】
種族:ヒューマン
武器:【神器:ソウルレンダー】
魔法属性:闇属性
固有スキル:「分解」「隠蔽」
武器スキル:「殲魂」
魔法陣:「空間魔法陣」「金属魔法陣」「岩石魔法陣」「召喚魔法陣」「音魔法陣」
光:見習い魔法2
闇:応用魔法5
炎:見習い魔法3
水:見習い魔法3
風:見習い魔法2
土:見習い魔法3
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巨大なレイスの周囲から、何十体ものレイスの群れが、唸り声を上げながらレオンたちめがけて高速で飛来してきた。その無数の影が、一瞬にして視界を覆い尽くす。
レオンは、静かにナイフを構えると、漆黒の輝きを放つ刃を前方に突き出した。
「殲魂!」
その一言と共に、レオンがナイフを鋭く振り抜いた。彼の放った斬撃は、まるで漆黒の空間そのものを切り裂くかのように、波紋を描きながら周囲へと拡散していく。その波紋に触れた小物のレイスたちは、まるで煙のように抵抗することなく、次々と跡形もなく飛散していった。一瞬にして、空間から闇の存在が消え去った。
「ヤバいな…そのナイフ…。」
トリガーは、その殲滅力に身震いを隠せない様子だった。彼の顔には、驚愕の色が浮かんでいた。
「残るはあの大物のみ!」
レオンは、淡々と呟きながらナイフを鞘に収めた。彼の視線は、群れを率いていた巨大なレイスに固定されていた。
「それじゃ、俺の神器も試してみるか!」
トリガーは、自身の剣を構えた。
彼の剣は、炎の力を宿す【神器:パイアブランド】と呼ばれ、その「燄葬」スキルによって、触れるもの全てを「無」に帰すという恐るべき破壊力を持つ。彼の顔には、新たな力を試すことへの興奮が浮かんでいた。
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トリガー ♂ 【MACOK】
種族:ヒューマン
魔法属性:炎属性
武器:【神器:パイアブランド】
固有スキル:「破壊」「瞬足」
武器スキル:「燄葬」
魔法陣:「砲弾魔法陣」「防御魔法陣」「音魔法陣」
光:見習い魔法1
闇:見習い魔法3
炎:応用魔法6
水:見習い魔法3
風:見習い魔法2
土:見習い魔法3
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巨大なレイスは、奇声を上げながらトリガー目掛けて襲いかかってきた。
キョエーーーー!
その顔に空いた目玉の抜けた真っ黒な二つの穴からは、おぞましいほどの数のハエが漆黒の塊となって、まるで生きた闇のように湧き出てきた。そのハエの塊は、トリガーの全身を取り囲み、彼の自由を奪おうと纏わりついてくる。
「なんだ、この気持ち悪いハエどもは…。」
トリガーは、必死にハエを振り払おうとするが、その数は減るどころか増え続けているようだった。レイスは、その光景を嘲笑うかのように眺めている。
トリガーは、「瞬足」スキルを発動し、一瞬にしてハエの塊から距離を取った。そして、彼は剣を構え、力強く振り抜いた。
「燄葬!」
剣閃が走ったかと思うと、一瞬火花が散り、直後、ハエの塊も、そしてその親玉である巨大なレイスも、まるで何もなかったかのように、一瞬で炭となって消え去っていた。そこには、ただ焦げ付いた地面が残るのみだった。
「神器って、すげえな!」
トリガーは、その圧倒的な威力に驚きのあまり、手にした【神器:パイアブランド】をまじまじと見つめていた。彼の顔には、興奮と、そしてわずかな恐怖の色が浮かんでいた。
「このまま、70階層まで無双するぜ!」
トリガーは、その高揚感を抑えきれないまま、上層への階段まで一気に突き進んでいった。
トリガーが一番乗りで70階層へ到達すると、そこはまるで実験室のような階層だった。壁一面がガラス張りで、いくつもの小さな部屋が整然と連なっている。その奇妙な光景に、一行は戸惑いを隠せない。
その奥まで一行が進んでいくと、ひときわ大きなガラス張りの部屋があった。その中には、得体の知れない黒いモヤのようなものが蠢いているのが見える。
「なんだ、あのキモい塊は?」
アルカが嫌そうな顔をして、その黒いモヤを指差した。彼女の顔には、生理的な嫌悪感が浮かんでいた。
「なんか、目玉がたくさんあるよ…。」
サクナも、アルカに抱きつきながら恐怖で目を覆った。彼女の視線の先には、その黒いモヤのいたるところに、無数の目玉が不気味に浮いており、こちらを怨めしそうに見つめていた。
そのおぞましい光景は、彼らの心を深く蝕んでいった。
「あんなの、俺に任せろ!」
トリガーは、目の前の黒いモヤに向かって雄叫びを上げながら、愛用の【神器:パイアブランド】で渾身の斬撃を繰り出した。しかし、剣は空を斬ったかのように何の手応えもなく、黒いモヤは微動だにしない。
「くそ…。どうなってる!?」
トリガーは焦り、何度も剣を振るうが、どれも虚しく空を切るばかりで、埒が明かない。彼の顔には、苛立ちと困惑の色が浮かんでいた。
「トリガー、僕が!」
レオンは、その様子を見て、すぐさま「空間魔法陣」を展開し、一瞬にして黒いモヤとの距離を詰めた。そして、彼のもう一つの魔法陣「金属魔法陣」で具現化した鋭い剣で、黒いモヤに斬りかかった。
「効かない!?」
しかし、レオンの剣もまた、まるで幻を切るかのように、何の手応えもなく空を斬った。彼もまた、黒いモヤの実体をつかむことができなかった。
「これならどうだ!閃虚!」
アルカは、自身の武器【神器:アクア・ヴェリタス】を構え、その固有スキル「閃虚」を発動させた。彼女の槍が、まるで水面に波紋を広げるかのように無数の残像を残しながら、黒いモヤへと怒涛の突きを叩き込んだ。
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アルカ ♀ 【MACOK】
種族:ヒューマン
武器:【神器:アクア・ヴェリタス】
魔法属性:水属性
武器スキル:「閃虚」
固有スキル:「精製」
魔法陣:「蛇鞭魔法陣」「音魔法陣」
光:見習い魔法1
闇:見習い魔法3
炎:見習い魔法2
水:応用魔法4
風:見習い魔法1
土:見習い魔法1
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ギューー、ギャエーー、ダジケテーーー…。
アルカの放つ無数の突きが黒いモヤを貫くたびに、そこに浮かぶおぞましい無数の目玉が次々と潰され、苦悶の悲鳴や呻き声が実験室に響き渡った。
「マジで、こいつキモいな!」
アルカは、目玉を突き刺しながら、嫌悪感を露わにした。
しかし、モヤは飛散することなく、潰された目玉もすぐに再生し、元の形に戻っていく。その驚異的な回復力に、アルカは思わず顔をしかめた。
「どうやったら…。ぐはっ……。」
モヤは、アルカの攻撃を耐え抜くと、その中から漆黒の腕のようなものが不意に伸び、アルカの腹部を正確に貫いた。
その一撃は、彼女の体を完全に貫通していた。
「アルカーー!」
その光景を見たサクナは、思わず叫び、倒れ込むアルカを抱き寄せた。
「ぐは……。」
アルカは、血を吐きながらぐったりとサクナにもたれかかった。その顔は蒼白で、意識が朦朧としている。
「アルカーー!」
その時、サクナが身につけていた【神器:オーラ・レガリア】が、まばゆい煌めく光を放った。それは、聖なる輝きに満ちた、奇跡の光だった。
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サクナ ♀ 【MACOK】
種族:ヒューマン
魔法属性:光属性
武器:【神器:オーラ・レガリア】
固有スキル:「浄化」
武器スキル:「絶輝」
魔法陣:「魅了魔法陣」「音魔法陣」
光:応用魔法5
闇:見習い魔法1
炎:見習い魔法2
水:見習い魔法3
風:見習い魔法2
土:見習い魔法1
••••••••••
「うーー、うーーー」
漆黒のモヤは、サクナの放つ光に苦しみのような声を上げた。
その光は、闇の存在にとって耐え難いものだったのだろう。
煌めく光は、みるみるうちにアルカの深い傷を回復させていった。その治癒力は驚異的で、貫かれたはずの腹部からは血の跡すら消えていく。
「ああ、サクナ…。ありがとう…。」
アルカは、生気を取り戻したように呟いた。
「アルカ…。よかった…。」
サクナは、安堵のあまりアルカを強く抱きしめ、しばらく動けなかった。彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「サクナ、もう一度さっきの光を!」
レオンは、サクナの放った煌めく光の効果を見逃さなかった。
一瞬ではあったが、漆黒のモヤが硬直し、苦しんでいるのがはっきりと見えたのだ。その光が、モヤの弱点だと確信した。
「分かりました!」
サクナは、ゆっくりとアルカを床に寝かせると、力強く立ち上がった。彼女の表情には、決意が満ちている。
「絶輝!」
サクナの【神器:オーラ・レガリア】のスキルが発動した。
彼女の鎧全体が、虹色のまばゆい輝きを放ち、凄まじい光を周囲へと撒き散らした。その空間は、まるで闇が全く存在しないかのように、真っ白に輝き渡った。
漆黒のモヤは、その白い空間に取り残されると、まるで砂が崩れ落ちるように、少しずつボロボロと崩れていった。無数の目は、そこから涙を流しながら、次第に光を失っていく。
「あ…ああ、ありがとう…。」
モヤは、断末魔の叫びと共に、感謝の言葉を呟きながら完全に朽ち果てていった。その声には、長きにわたる苦しみから解放されたような安堵が感じられた。
「アルカ、行けるか?」
レオンは、アルカの手を引っ張って優しく起こした。
「ああ、サクナのおかげで助かったよ…。」
アルカは、貫かれた腹をさすりながら呟いた。彼女の顔には、生還できたことへの感謝が浮かんでいた。
「もう少し、慎重に進んで!」
リセが、無茶をしたトリガーに注意すると、
「私も、同意!」
ミリアも頷いた。彼女たちの言葉には、仲間への心配が込められていた。
「分かったよ…。」
トリガーは、バツが悪そうにうつむいた。彼の顔には、反省の色が浮かんでいた。
今回の件で、神器の力に頼りすぎる危険性を学んだのだろう。
次回 闘技場の血戦~仮面の紳士と雷鳴の女神~
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頑張って続きを書いちゃいます!




