《零度の絶唱》と《太陽の咆哮》~星を穿つ者たちの系譜~
「何で、こんなところに山があるんだ!」
カザキが、突如として現れた険しい地形に再び困惑の声を上げる。
「だから、もう考えるなって!」
フレアが呆れたようにカザキの肩を強く叩いた。
90階層は、これまでの風景とは一変し、岩ばかりの山肌が剥き出しとなった巨大な崖が左右から迫り来るような場所だった。切り立った岩壁の間を縫うように谷を進んでいくと、正面には巨大なトンネルの入り口が見えてきた。
「この中にボスがいるのかな?」
フレアが期待に胸を膨らませ、入り口に向かって走り出した、その時だった。
バサッバサッバサッ…。ドスン!
どこからともなく、巨大な光輝くグリフォンが漆黒の空から舞い降りてきた。その威容に、一行は思わず足を止める。
「サンリットグリフォン!」
珍しいグリフォンの姿に、クラリッサは興味津々のようだった。彼女の瞳には、新たな魔法への探究心が宿っていた。
キョエーーーーー!
サンリットグリフォンが耳をつんざくような雄叫びをあげると、いきなりその巨大な嘴で怒涛の攻撃を繰り出してきた。
その巨体から繰り出される嘴は、ハーベルたちを小さな虫でもついばむかのように見える。
ギェーー!バサッバサッ…ギェーー!
その巨体の割にグリフォンの動きは俊敏で、逃げ惑うハーベルたちを追い回し、まるで弄んでいるかのようだった。
「どうにか足止めをしないと、体力が持たない!」
フレアが必死に叫びながら回避行動を取る。
その声を聞いたハーベルは、迷わず「零式」スキルを発動し、一気に空へと舞い上がった。
バサッバサッバサッ…。
ハーベルの動きに気づいたサンリットグリフォンは、追い回すのを止め、標的をハーベルへと切り替えた。
「今です!」
クラリッサが叫ぶ。その声が合図となり、アクシアの魔力が一気に集中する。
「水:第10究極魔法!アブソリュート・ゼロ!」
アクシアの放った魔法は、これまでに見たことのないほどの魔力の凝集を見せた。
一瞬の静寂が訪れ、その領域だけはすべての物が「無」になったかのように凍りついていた。サンリットグリフォンも、その絶対零度の世界に囚われ、完全に氷漬けとなる。
「絶対零度!」
ハーベルは空からその光景を見ていて、身が凍りつきそうなほどの冷気を感じた。
「アブソリュート・ゼロ、怖!」
カザキは、カチコチに凍りついたサンリットグリフォンをさまざまな角度から眺め、恐る恐る剣で「チョン…」とつついた。
すると、グリフォンの巨体はダイヤモンドダストのように細かい氷の結晶が霧となって弾け、跡形もなく消えてしまった。
「綺麗だけど、悲しいね…。」
フランが悲しそうに呟いた。彼女の優しい心には、凍てつき消え去ったグリフォンの最期が深く響いたようだった。
激戦を乗り越え、一行がトンネルを抜けると、91階層へと続く階段が現れた。
「ハーベルさん、この先100階層にはドラゴンが待ち構えています!くれぐれも準備を怠らずに!」
突如、ハーベルの脳裏に声が響く。
それは、先ほど仲間に加わった光のペガサス、ショウキからの忠告だった。
「ありがとう、ショウキ!」
ハーベルはショウキの言葉に感謝の念を伝える。
「みんな!ショウキの話によると100階層は、光のドラゴンがいるらしい…。心して準備を整えてくれ!」
ハーベルがパーティー全体に、強い気迫を込めて呼びかけた。
その言葉に、全員の目が変わった。
これまでの冒険で培われた絆と経験が、彼らの瞳に強い決意の光を灯していた。
階段を上りきると、そこは完全に別世界だった。
見渡す限り、真っ白な風景がひたすら広がっている。まるで、天空の聖域に足を踏み入れたかのようだった。
ただ一ヶ所、塔の頂へと続く階段があるだけだ。
その階段をまるで守護するかのように、ただの光とは形容し難いほどの、燦然と輝く太陽そのものを纏ったような神々しい一体のドラゴンが、悠然と横たわっていた。
それは、まさに最終決戦の地であることを告げる、圧倒的な存在感を放っていた。
次回 聖なる再誕~バルトロス降臨~
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