「解放の書」とゾンビの群れ~ハーベルの新戦術~
51階層は、陰気な雰囲気漂う墓地が広がっていた。生暖かい風と嫌な臭いで周囲の空気はよどんでいた。
「嫌な感じね…。」
辺りをキョロキョロしながらネルが呟く。
「私、こういうの…苦手ですわ…。」
アクシアもクラリッサにしがみついている。
クラリッサはネクロマンサーと言うこともあり、死体には慣れているようで、普段通りに進んでいた。
「ハーベル、どう攻める?」
カザキが辺りを警戒しながら言った。
「前衛は、カザキと私で行こうか?」
フレアが提案する。
「ちょっと試したいことがあるんですが……。」
ハーベルがそう言いながら【解放の書】を取り出した。
「ああ、魔物を解放するってやつか……。」
カザキはまだ半信半疑の様子で伺っている。
「まあ、一度試して見たら?」
フレアがカザキを少し抑えるように肩に手を置きながら言ってくれた。
「フレア、ありがとう!」
ハーベルはフレアに心からの感謝を伝えると、【解放の書】を「ペラペラ……」とめくった。
「ハーベル、来るぞ!」
敵の気配を察知したカザキが叫ぶ。
ネルとフランが急いで全員に防御魔法と魔力回復をかけてくれた。
「土:第8上級魔法!ヴォルダー・シールド!」
「リフレッシュ!」
おどろおどろしい音楽が聞こえてきそうな雰囲気のなかで、墓地のあちこちからうめき声が響き渡る。
腐った腕がニョキっと地面から顔を出すと、数えきれない数のゾンビたちがあちこちから姿を現した。
「うわ…。キモ!」
フレアが露骨に嫌な顔をする。
ネルとアクシアは抱き合って辺りを見回している。
「ハーベル、実験の時間です!」
クラリッサがハーベルを元気付けるように言った。
「オッケー!」
ハーベルは【解放の書】を構え直すと、
「リヴェレーション・アルカナム・30!」
そう詠唱すると、墓地の中心から円形に広がるように光の魔方陣が展開された。
すると、次々とゾンビたちが虹色に光始めた。
「なんか、凄い光景だな…。」
あまりのあり得ない光景にフレアが困惑していると、
すべてのゾンビは一瞬で綺麗さっぱり消えてしまった。
「うう、理解が追い付かん…。」
カザキが頭を抱えて呟く。
「消えたゾンビたちは、どうなったの?」
ネルが不安げな表情を見せる。
「ああ、全部、俺の召喚対象になって意のままに操れるよ!」
そう言うと、召喚魔法を詠唱し始めた。
「闇の精霊に感謝する。冥府の底より蠢きし朽ちゆく骨肉の徒、この現世に顕現せよ!ゾンビ!闇召喚:第5応用魔法!デス・クロウル!」
1匹の目玉が腐りかけて落ちそうになっているゾンビがフレアの目の前に突如として現れた。
「うわーーー!」
フレアが驚いて腰を抜かしそうになる。
「だから、出さんでいい…。」
クラリッサが杖の先でハーベルの頭を軽くコツいた。
「クラリッサ…。痛いな…。」
ハーベルは頭を擦りながらゾンビを消した。
「でもこれなら、ネクロマンシーと違っていつでも召喚できるから、かなり便利になるね!」
クラリッサが嬉しそうにハーベルに寄り添った。
「そうなんだよ、出し入れ自由で丸い魂の魔物以外は、相手からの応答もないし、一方的な命令に従わせるくらいしかできないから、言い方は悪いけど捨て駒くらいにしか使えなさそうなんだよね…。」
「なるほどね…。」
クラリッサは少し考え込んでいるようだった。
「これって、どのくらいの範囲まで契約できるの?」
クラリッサが何か期待を込めて尋ねる。
「範囲は自由で、俺より弱くて丸い魂の魔物以外は、一気に契約できちゃうよ?」
ハーベルは飄々と答える。
「マジか…。」
カザキが驚きを隠せない。
「それって、ハーベルだけで60階層まで行けちゃうんじゃね?」
フレアが冗談めいた口調で言った。
その後は、フレアの言った通りになってしまい、一行はドン引きしていた。
次回 神聖魔法も届かぬ死神~ハーベルたちの新たな試練~
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