医術師、ハーベル~再生の神業~
「さあ、ここからは真剣勝負だ!」
ハーベルの顔は、完全に昔の医者だった頃の、一切の迷いのない鋭い表情へと戻っていた。彼の瞳には、生命を救う者だけが持つ、強い決意と冷静さが宿っている。
「左腕を確認!1/3は切断するしかないな…。」
ハーベルは自分に言い聞かせるように、重く、しかし揺るぎない声で呟いた。その言葉は、彼自身の覚悟を固めるかのようだった。
「まずは、完全に解毒しないと!」
ハーベルはカザキの全身に向かって詠唱を始めた。
「光:第2見習い魔法!ハイアンチドート!」
カザキの顔に生気が戻り、少し穏やかになったように見える。
さらに、【神器:シックスセンス】を取り出すと、迷いなくアルコールで丹念に消毒する。続いて、カザキの左腕にも惜しみなく大量のアルコールを振りかけた。麻酔が効いているとはいえ、その刺激にカザキの顔が微かに歪む。
ゴクリ…。
ハーベルは軽く息をのむと、一切の躊躇なく、一瞬のうちにカザキの左腕の先を1/3ほど、まるで熟練の職人のように綺麗に切断した。その手際の良さは、彼がどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたかを物語っていた。
「先に、化膿がこれ以上進まないようにと…。」
彼は独りごちるように呟くと、間髪入れずに詠唱した。
「薬剤:第4応用魔法!セファリックキュア!」
カザキの左腕の切り口が、まばゆい虹色に輝き、みるみるうちに化膿が引いていく。
「よし!次は、『再生』だ!ここで、ヒスイのスキルが役立つとは、天からの贈り物だな…。」
ハーベルは、その奇跡的な巡り合わせに感謝しながら呟いた。
彼はゆっくりと目を閉じ、過去の記憶を辿りながら、失われた左腕の複雑な構造を鮮明にイメージしていく。
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まずは、腕の骨の形状と接合部、そして手のひらから指の先まで、すべての骨を正確に、詳細にイメージして…。
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完璧なイメージが脳裏に構築されると、ハーベルは静かに、しかし力強く詠唱を始めた。
「再生:第6応用魔法!ボーン・リジェネレーション!」
ハーベルが詠唱を終えると同時に、カザキの左腕の切断された部分から、みるみるうちに骨が組み上がっていく。まるで、目に見えない職人が巧みに骨の模型を組み立てているかのようだ。
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続けて、神経組織と筋肉組織を同時にイメージして…あとは、血管を細部まで正確に、血液の流れまで完璧に再現する…。
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再び、緻密なイメージがハーベルの脳裏を駆け巡る。そして、次なる魔法が放たれた。
「再生:第5応用魔法!ヴァイタル・コンフラックス!」
組み上がった骨に沿って、しなやかな筋肉と繊細な神経組織が構築されていく。生命エネルギーが脈打つように流れ込み、一つ一つの細胞が次々と再結合され、失われた組織が形成されていった。
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残りは、皮膚だな…。皮下組織…。真皮…。表皮…。表面を覆う、最も外側の層まで完全に再生する…。
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仕上げの工程をイメージし終え、最後の詠唱が紡がれる。
「第4応用魔法!スキン・リジェネレーション!」
ハーベルの詠唱によって、カザキの左腕は完全に元通りに「再生」されていた。そこには、毒に爛れた醜い傷跡も、切断された痕跡も一切ない。まるで最初から何もなかったかのように、健康な肌が覆っていた。
「よし、術式完了!」
ハーベルは、達成感に満ちた表情でそう呟くと、カザキの左腕を優しく撫でた。そして、彼の耳元にそっと囁くように言葉をかけた。
「カザキさん、お疲れ様でした…。」
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ハーベル ♂ 【医術師】【ネクロマンサー】【召喚士】
種族:ヒューマン
武器:【神器:シックスセンス】
【神器:金剛の短剣】【神器:金剛の盾】
召喚獣:【ホーリーウルフ】【ムーンウルフ】
【グリーンスライム】など
魔法属性:全属性
固有スキル:「統合」
「破壊」「精製」「合成」「構築」「解析」「分解」
獲得スキル:「設定」「把握」「毒耐性」「召喚」「魔法陣」「ライブラリー」「分離」「蘇生」「切断」「転写」「怒号」「万華鏡」「反射」「自動回復」「魔法防御」「再生」
光:究極魔法10 神聖:上級魔法7 薬剤:上級魔法7
闇:究極魔法10 虚空:上級魔法9 召喚:上級魔法7
炎:上級魔法8 黒炎:応用魔法5 解放:上級魔法7
水:上級魔法9
風:究極魔法10 雷鳴:上級魔法8
土:上級魔法9 再生:応用魔法6
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ハーベルは、カザキに毛布を優しくかけると、静かに部屋のドアを開けた。そこには、カザキの安否を案じる仲間たちが、心配そうに彼を見つめていた。
「ハーベル……。」
みんなが、祈るような眼差しで彼に注目する。
「無事手術は終わったよ!」
ハーベルがそう告げると、安堵の空気が部屋に満ちる。
「手術とは、何ですの?」
アクシアが、聞き慣れない言葉に首を傾げながら不思議そうに尋ねた。
「ああ…。無事治療が済んだよってことです…。」
ハーベルは、少し苦笑いを浮かべて言い直した。この世界では、「手術」という概念が一般的ではないのだ。
「ああ、よかったですわ!」
アクシアもようやく安心した様子で、胸を撫で下ろした。
「ハーベル!よかった!」
「ハーベル!ありがとう!」
ネルとクラリッサが、喜びを爆発させるかのようにハーベルの腕に飛び付いた。その笑顔は、彼への深い信頼と感謝に満ちている。
「カザキさん、寝てるね…。」
ノアールが、ベッドに飛び乗るように駆け寄り、カザキを心配そうに覗き込んだ。
「カザキさんの左腕は…。」
フランが悲しげに呟いた。彼女は、カザキがもう剣を握れないのではないかと案じているようだった。
「ああ、この先、剣が握れないのか…?」
フレアもまた、心配そうにハーベルに詰め寄った。
「いや、左腕は無事だよ!剣もすぐに握れるはずさ!」
ハーベルが優しく、そして力強く言った。
その言葉に、ネルとクラリッサが顔を見合わせた。
「ええ?」
「あの状態から!?」
彼らには、信じられないことだった。
「みんな、見て!」
その時、ノアールがカザキの毛布をめくりながら興奮した声で叫んだ。
そこには、毒に爛れていたはずのカザキの左腕が、まるで何もなかったかのように、完璧に再生されていた。滑らかな皮膚、正常な形。一糸乱れぬその姿に、一同は息をのむ。
「信じられない……。」
クラリッサが、目の前の光景を理解できないかのように、カザキの左腕をまじまじと見つめた。
「ああ、ヒスイの『再生』スキルのおかげだよ!」
ハーベルが嬉しそうに言った。彼の表情は、仲間を救えた喜びで輝いている。
「それにしても、腕が完全に治るなんて……。神業!?」
ネルが感嘆の声を上げた。それは、ハーベルの成し遂げた偉業に対する、純粋な驚きと尊敬の念だった。
その場の全員が、ハーベルの類稀なる医術と、その偉大さに感服していた。彼の才能と献身が、絶望的な状況を覆した瞬間だった。
次回 傷つきし剣士と、癒やしの手~カザキ再起の誓い~
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頑張って続きを書いちゃいます!




