獄毒の一撃~医術の光、再び闇を照らす~
「ああ…。カザキさん、危なーーい!」
ネルがいち早く危険を察知し、張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
カザキは、後ろ向きでフィニッシュを決めていたため、シャドウフレイム・スコーピオンの接近を完全に死角から受けていた。
その瞬間、シャドウフレイム・スコーピオンが最後の力を振り絞り、カザキの脳天めがけて真上から猛毒の尻尾を振り下ろしたのだ。
ドス……。
乾いた音が響き、サソリの緑色の人魂が不気味に灯った尻尾の先が、地面に深く突き刺さる。そして、その巨大な魔物は、そのまま力なく崩れ落ちた。
カザキは間一髪で避けきったかに見えた。
「ふー。危なかった…。」
クラリッサが安堵の息をついた、その刹那―
「うぉーーーー!」
カザキが突如、左腕を抑えておぞましい雄叫びをあげた。
「何!?」
ただならぬ事態に、ネルがすぐさま駆け寄る。
そこには、カザキの左腕に微かにかすったシャドウフレイム・スコーピオンの尻尾の先から、おぞましい毒が注入されていく様子がはっきりと見て取れた。
「うぉーーーー、クソ!」
カザキは激痛に顔を歪め、苦悶の声を上げる。彼の左腕は、見る見るうちに毒に侵され、ヘドロのように醜く爛れ始め、悍ましいことに骨まで露わになっていた。
「早く、家に戻ってハーベルに見せて!」
フランが今までに聞いたことのないような、切羽詰まった大きな声で指示した。その声には、彼女の焦りと危機感がにじみ出ていた。
「は…はい…!」
ネルはカザキを抱え、迷わずテルミットで即座に転移した。目的地は、治療の知識を持つハーベルの元だ。
「ハーベル!大変なの!」
ネルが死に物狂いの声で叫び続ける。その声に気づいたハーベルは、寝室から飛び起きてきた。
「どうしたんだ!ネル!」
ハーベルはカザキとネルを見て、その惨状に愕然とした。
カザキの左腕は、もはや腕と呼ぶにはあまりにも異形だった。毒に侵されてヘドロのように醜く爛れ、皮膚は溶け、白い骨が痛々しく露出していた。
「うぉーーーー、うぉーーーー!」
カザキは、あまりの激痛にただ叫び続けるしかなかった。その声は、聞いている者の心をえぐるようだった。
「とりあえず、カザキさんをベッドへ寝かせて!」
ハーベルは冷静さを保ち、テキパキと指示を出す。
「ネルは、消毒用のアルコールときれいな布を大量に用意してくれ!」
「はい!」
ネルは返事もそこそこに、ハーベルの指示に従うべく走り出した。
そこへ、クラリッサたちも戻ってきた。彼らの顔にも、不安と心配の色が濃く浮かんでいる。
「カザキさんは!?」
アクシアが心配そうに問いかける。
「今は、見ない方がいい!」
ハーベルは、ネルとクラリッサ以外を全員、部屋から出した。
この治療は、他の者の目にはあまりにも刺激的すぎると判断したのだ。
「クラリッサ、麻酔薬を作ってくれ!」
「分かったわ!」
クラリッサが麻酔薬を用意している間に、ハーベルは手際よく治療に必要な薬を準備していった。
「ハーベル、アルコールと布をここへ置いておくね!」
ネルが急いで準備を終え、ハーベルの手元にアルコールと布を置いた。
「麻酔薬を!」
「ハーベル、用意できたわ!」
クラリッサが素早くハーベルに麻酔薬を手渡してくれた。
「あとは、俺に任せて二人も外に出てもらえるかな?」
ハーベルは真剣な顔つきで、二人に部屋から出るようお願いした。彼の瞳には、かつて医者であった頃の鋭い光が宿っていた。
「うん…。」
「分かったわ…。」
ネルとクラリッサも、ハーベルの真剣な顔つきに押され、黙って部屋を出ていった。
「カザキさん、俺が必ず助けますから!」
ハーベルは、麻酔薬を布に染み込ませると、カザキの口を覆った。
「さあ、ここからは真剣勝負だ!」
ハーベルの顔は完全に昔の医者だった頃の、研ぎ澄まされた表情に戻っていた。彼の手に、カザキの命運が託されたのだ。
次回 医術師、ハーベル~再生の神業~
続きの気になった方は、
ぜひともブックマークをお願いいたします。
リアクションと⭐5もつけていただけると幸いです。
頑張って続きを書いちゃいます!




