勇気と恐怖の極限
どれほどの時間が過ぎたのか、ハーベルには分からなかった。
頭を抑えながら首を小刻みに振ると、視界が少しずつ戻ってきた。
そこは、先ほど崖の上から覗いていた巨大な魔法陣の部屋の片隅だった。
儀式はまだ続いているようで、怪しいフードを被った連中が不気味な呪文を詠唱し続けている。
魔法陣の周囲には十数人の信者らしき者たちが集まり、その外側を屈強な戦士のような男たちが警護していた。彼らは上半身裸で、鋭い目つきで周囲を警戒している。
ハーベルが横を見ると、腕を縛られたレオンが隣で眠っていた。むにゃむにゃと寝言を言いながら、まるでこの状況を理解していないかのようだった。
「くそっ、儀式に夢中でまったく気がつかなかった…」
ハーベルは悔しさを噛み締めながらも、逆にこれがチャンスだと考えた。
「そうだ、儀式を解析してみよう!」
彼は気づかれないように静かに「解析」スキルを発動した。
魔法陣の構造が視覚的に浮かび上がり、その意味が頭の中に流れ込んでくる。
「マジか…召喚魔法だ…しかも、すごく嫌な感じのする魔法だな…これは、マズイかも…」
ハーベルは嫌悪感に満ちた顔で呟き、視線を魔法陣から逸らした。
その瞬間、周囲の空気が急に変わった。
灯されていた松明が一本を残してすべて消え、部屋全体が暗闇に包まれる。
魔法陣の中央付近から濃密な魔素が噴出し、視覚的に見えるほどの黒い霧が部屋中に広がっていった。
霧が薄れ始めると、魔法陣の中央にうっすらと姿が見えた。
鬼のような角が二本、ゆっくりと競り上がってくる。
「フハーーー!」
その魔物は大きく息を吸い込むと、口からどす黒い魔素を大量に吐き出した。
「ヤバい!悪魔召喚か?」
ハーベルは咄嗟に自分の縄を焼き切り、自由を取り戻した。
「レオン、起きろ!ヤバいぞ!」
彼は隣のレオンを揺さぶりながら叫んだ。
「うう、朝?」
レオンは寝ぼけた声で間抜けなことを言い、ハーベルを苛立たせた。
「寝ぼけてる場合じゃない!早く逃げないと殺されるぞ!」
ハーベルは急いでレオンの腕の縄も焼き切り、彼を立ち上がらせた。
目の前では、召喚された悪魔が暴れ回り、信者たちを次々と襲っている。
「ネザーヴォイド・エクストラクション!」
悪魔の低い声が響き渡ると、漆黒の恐ろしい顔をした女たちが次々と現れ、信者たちの魂を片っ端から喰らい始めた。
「ああ、悪魔様!」
「グハハハ…」
「ギャー!」
悪魔は信者の頭を片手で掴むと、リンゴを潰すかのように跡形もなく消し去った。
「ヤバい、ヤバいって!」
ハーベルはレオンの腕を強く掴み、死に物狂いで出口へ向かって走り出した。
途中で何が起こっていたのか、まったく記憶にないほど、とにかく走り続けた。
次回 赤い呪印と悪夢の始まり
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頑張って続きを書いちゃいます!