憎悪と哀愁の魔狼~ムーンウルフとの遭遇~
40階層は、憎悪に満ちた闇の空間だった。
ハーベルたちが足を踏み入れると、それまでの階層とは一線を画す、おぞましいまでの殺気に満ちた漆黒の空間だった。
その中心には、闇夜に漂う水面のように滑らかで美しい毛並みを持つ、漆黒の狼が佇んでいた。その目は物凄い形相で虚ろに座り、何かを憎むかのような深い哀愁と憎悪が渦巻いているように見えた。
ウルンが思わずその狼に近づこうとした瞬間、ハーベルが腕を伸ばして制止した。
ゴクリ……。
カザキが息を飲みながら、震える声で呟いた。
「殺気がすごすぎて……。近づけない……。」
ハーベルは、涙ぐみながら言った。
「よほどウルンと引き離されたことを恨んでいるんだろうな……。必ず、助け出してやる!」
ウルンは、縋るようにハーベルを見上げた。
「主、お願いいたします……。」
ハーベルは、冷静に指示を出す。
「カザキさん、フレア、俺の光魔法を合図に攻撃をお願いします!」
「分かった!」
「任せて!」
カザキとフレアが力強く応じた。
ハーベルが詠唱を始める。
「光:第9上級魔法!サンリット・ラディアンス!」
その言葉と共に、漆黒の部屋の上空に真夏の太陽の下で咲き誇る向日葵のような、圧倒的な光が降り注いだ。突然の眩い光に、ムーンウルフは細く目を閉じた。
「今です!」
ハーベルの合図と同時に、カザキとフレアが左右から同時に斬りかかった。しかし、ムーンウルフが全身に纏う濃密な闇のオーラが空間を歪ませているようで、二人の攻撃は直撃せず、虚しく空を切った。
「なんだと!」
フレアが叫び、二人は距離を取って後退した。
ムーンウルフは、依然としてハーベルたち全員を睨みつけたまま、その前方に濃い紫色の炎を、まるで人魂の円陣を描くように浮かび上がらせた。
さらに、その円陣の中に紫に輝く文字で複雑な魔法陣が描き出され、その中央から、巨大な鬼の腕がにゅっと現れた。そのまま魔法陣を押し広げるようにして、全身が真っ黒な鬼が姿を現した。
「ゲッ……。オーガ……!」
クラリッサが息を飲んだ。
グウォーーーッ!
オーガが凄まじい雄叫びを上げると、その圧倒的な殺気が周囲を恐怖で凍りつかせた。しかし、ハーベルは怯まず、すかさず詠唱した。
「光:第3見習い魔法!フラッシュ!」
オーガの目の前で閃光が広がり、一瞬だけ動きが止まる。その隙を見逃さずに、カザキが動いた。
「神器:疾風剣!神風!」
一瞬で凄まじい竜巻を発生させると、それが切っ先に凝集していく。
「瞬足!」
カザキがオーガ目掛けて剣を振り抜くと、オーガは何が起こったのか分からないようにぴたりと動きを止めた。
シャキーン!
カザキがかっこよく剣を鞘に納めた次の瞬間、オーガは木っ端微塵に吹き飛んだ。
「カザキさん……。怖っ!」
クラリッサが息を飲んで呟いた。
オーガを瞬殺されたムーンウルフは、さらに新たな魔法陣を展開しようとしていた。
次回 再会、そして新たな絆~ウルンとカミナの物語~
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