ウルンの遠吠え~絶体絶命のハーベルを救え!~
これまでの道のりでは、ウルンからの新たな連絡は途絶えていた。彼らはひたすらに、闇の階段の先へと足を進めるしかなかった。
ついに彼らは20階層に到達した。
そこに立ちはだかったのは、おぞましい姿のボスだった。
闇のオーラを全身に纏った首なし騎士。
その漆黒のオーラは、彼が跨る首のない馬からも漏れ出ており、本来頭があるべき場所には、ただ黒いモヤが渦巻いているだけだった。
「騎士って、珍しいな!」
カザキが思わず呟く。
魔物の姿としてはあまり見かけないタイプだ。
「ウルン、コイツはどうだ?」
ハーベルがウルンに問いかける。
「強い、敵意を感じます…。倒してください!」
ウルンの声には、はっきりと強い警戒と、そしてどこか悲しみが混じっていた。
「ここは俺が行く!」
ハーベルはそう宣言すると、愛用のナイフを二刀流で構え、戦闘態勢に入った。
騎士は手に持つ大剣を構え、ハーベル目掛けて馬を走らせた。その巨体と漆黒のオーラが、ハーベルに迫る。
ハーベルは素早く身を翻し、騎士の突進を躱すと、その背後へと飛び乗った。
ヒヒーーン!
馬は急停止し、ハーベルを振り落とそうと激しく暴れる。
ハーベルがナイフで反撃しようとしたその時、恐ろしい声が響き渡った。
「マインド・シュラウド!」
突如、ハーベルが頭を押さえて苦悶の表情を浮かべ、馬から転げ落ちた。
「ハーベル!」
仲間たちが一斉に叫ぶ。
「まずい、あれは記憶を一時的に奪う闇魔法です!」
クラリッサが焦った声で叫んだ。
ハーベルは混乱し、周りの状況を理解できない様子で、キョロキョロと視線を彷徨わせている。
意識はあるものの、記憶を失い、完全に無防備な状態だ。
カザキとフレアがハーベルを守るべく飛び出し、交互に攻撃を加える。
カザキの風属性魔法と、フレアの炎属性魔法が闇の騎士を襲うが、その漆黒の鎧とオーラには効果が薄いようだった。
闇の騎士は馬を走らせ、二人への攻撃を大剣で薙ぎ払っていく。
「ウワーーー!」
「くう……。」
カザキとフレアは、その一撃を受けて吹き飛ばされ、苦痛の声を上げた。
「私が!」
アクシアが再び神聖なる矢を放つ。
しかし、その光の矢も、騎士の強固な鎧と盾に阻まれ、十分なダメージを与えることはできないようだった。
ダダダダ…ダダダダ…ダダ……。
闇の騎士は、再び馬を走らせ、今度は無抵抗なハーベル目掛けて一直線に突進してきた。
ハーベルはまだ記憶喪失のようにぼんやりとしたままだ。
絶体絶命の状況に、ネルは思わず両手で目を覆った。
その刹那、
ワォーーーーーーン!
ハーベルの傍らにいたウルンが、悲痛な遠吠えを上げた。
その遠吠えと共に、ハーベルの周囲に眩い光の結界が瞬時に張られた。
闇の騎士はそのままの勢いでハーベルに剣を突き立てようとしたが、結界に阻まれ、馬から勢いよく転げ落ちた。
「今だ!」
カザキが、この千載一遇のチャンスを逃さず合図した。
フレアがスキルを放つ。
「百花繚乱!」
ピンク色の花びらが無数の刃と化し、怯んだ闇の騎士に襲いかかった。
そして、カザキが渾身の剣技を繰り出す。
「疾風迅雷!」
雷の如く素早い斬撃が、花びらの攻撃で動きの止まった闇の騎士の鎧を正確に切り裂いた。
闇の騎士の全身を包んでいたオーラが、傷口から少しずつ漏れ出し、やがて霧散していく。そして、黒いモヤも晴れ、その場には漆黒の鎧だけが残されていた。
「ハッ!」
気がつくと、ハーベルは意識を取り戻し、戦闘はすでに終わっていた。
「ああ……。ありがとう、ウルン!」
ハーベルは助けてくれたウルンに感謝の言葉を述べる。
「いいえ、ご無事で何より!」
ウルンは優しく、しかし安堵した声で答えた。
「カザキさん、フレア、すまない…。記憶が…。」
ハーベルは、自分の迂闊さで仲間たちに危険を晒してしまったことを責めていた。
「ハーベル、パーティーなんだから!」
「そうだ、これでいいんだ!」
カザキとフレアは、両側からハーベルの肩に優しく手を置き、彼を励ました。
「はい…。」
ハーベルは仲間たちの温かさに、素直に頷いた。
•••••••••
やはり、魔物は魔物か…。解放を考えるのは、ひとまずあきらめて、ムーンウルフの救出に専念しよう…。
•••••••••
ハーベルの心には、先ほどの出来事から生まれた新たな決意が芽生えていた。心優しい魔物を解放するというウルンの願いは、一旦保留にせざるを得ない。
今は何よりも、ウルンの妻であるムーンウルフを救い出すことに全力を尽くす時だ。
ハーベルたちは、改めて気を引き締め、残る階層を駆け上がり、40階層を目指した。
次回 憎悪と哀愁の魔狼~ムーンウルフとの遭遇~
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頑張って続きを書いちゃいます!




