エレメンタルスパイア攻略開始~光の階段と無詠唱の秘密~
「はあ、はあ、あれ、追ってこないぞ!」
カザキは荒い息をつきながら、周囲の霧が晴れていくのを確認した。
先ほどの激しい攻防が嘘のように、今は静寂が辺りを包んでいる。しかし、彼の表情にはまだ警戒の色が残っていた。
ハーベルは、レオンの変わり果てた姿と、向けられた憎しみの言葉が深く突き刺さったように、依然として呆然自失としていた。
彼の心は、悲しみと混乱でぐちゃぐちゃになっているようだった。
クラリッサは、そんなハーベルを心配そうに見つめながら問いかけた。
「ハーベル、どういうことなの?」
彼女の声は、友を案じる優しさに満ちていた。
ネルも、ハーベルの袖を小さな手でぎゅっと握りしめ、不安げな表情で顔を覗き込んだ。
「ハーベル、大丈夫?」
その瞳には、純粋な心配の色が宿っていた。
「うん、みんなにすべて話すよ……。」
ハーベルは、ようやく重い口を開いた。
彼の声は掠れ、疲労の色が濃い。そして、レオンとの過去や【MACOK】と呼ばれるもののことなど、今まで誰にも話せなかった経緯を、ゆっくりと語り始めた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
ハーベルの話を聞き終え、ネルは悲しそうな顔で呟いた。
「そうだったのね……。じゃあ、レオンさんには久しぶりに会えたのに…。」
彼女の小さな肩が、僅かに震えている。
「うん…。」
ハーベルは、やりきれない思いを抱え、深く頷いた。彼の表情は暗く、後悔と悲しみが入り混じっているようだった。
カザキは、腕を組みながら複雑な表情を浮かべた。
「それにしても、いきなり斬りかかってくるとは……。一体、何があったんだ?」
アクシアも、事態の急変に困惑の色を隠せない。
「そうですわね…。信じられません…。」
重い空気を察してか、フレアが明るい声で話題を変えようとした。
「でも、塔には来られたな!」
彼女は、前方を指差し、皆の視線をそちらへ向けた。
「ええ、あれがエレメンタルスパイアに間違いありません!」
クラリッサも、目の前にそびえ立つ巨大な塔を見上げ、確信に満ちた表情になった。
その威容は、先ほどの出来事を忘れさせるほどの存在感を放っていた。
ハーベルたちが、荘厳な雰囲気の漂う塔の入口をくぐると、内部は外観からは想像もできないほど不思議な造りだった。
中には、息をのむほど美しい装飾が施された広大なホールのような空間が広がっており、その周囲には、それぞれ異なる意匠を持つ六つの入口が設けられていた。
各入口は、まるで意思を持っているかのように、それぞれ異なる属性の光を放っていた。
そして、妙なことに、一つの扉を開けると、他の属性の扉はまるで幻のようにスーッと消え去り、通れなくなってしまうという奇妙な仕様だった。
ホールの中央で立ち尽くしていたハーベルは、カザキに向き直り、深々と頭を下げた。
「カザキさん、さっきはありがとうございました…。」
彼の声には、感謝の念が込められていた。
カザキは、優しくハーベルの肩に手を置いた。
「ああ、ハーベルがあんなに動揺するとは思ってもいなかったから、正直ヒヤヒヤしたぞ!」
彼の言葉には、仲間を案じる温かい気持ちが感じられた。
アクシアは、周囲の不思議な光景を見渡しながら、首を傾げた。
「それにしても、誰も塔へ行けないはずなのに、妙にすんなりと入れましたわね?」
彼女の言葉には、拭いきれない疑問が滲んでいた。
「確かに…。」
フレアも、顎に手を当てて考え込んだ。
ネルは、可愛らしい仕草で一本指を立てながら言った。
「何か特別な条件があって、私たちがたまたまそれをクリアしていたのかも知れないよ?」
「なるほど…。まあ、考えてもしょうがないかもね…。」
クラリッサも、まだ腑に落ちない様子だったが、先に進むことを促した。
•••••••••
実際のエレメンタルスパイアへの挑戦条件は、各属性に対応する神器を最低でも一種類ずつ所持していることと、精霊を呼び出すために魔法属性ランクが究極魔法10であり、「召喚」スキルを使用できる資格を持つ者がいることだった。
ハーベルたちは、光の神殿へは訪れていないため、本来ならば光の神器を所持していないはずだった。
しかし、ハーベルの持つ【シックスセンス】が、なぜか光の神器に相当するものとして認識されたらしい…。
•••••••••
ハーベルが、壁に描かれた美しい光の魔法陣が浮かび上がる扉に手を触れると、不思議な光が広がり、他の五つの属性の扉は、まるで溶けるように静かに消え去ってしまった。
扉の奥には、眩い光に包まれた螺旋状の階段が、どこまでも続いているように見えた。そして、微かにだが、各階層から魔物の気配が感じられた。
ハーベルは、少し生気を取り戻したように前を見据え、
「まずは、光の階段から行ってみよう!」
と提案した。
「分かった!」
カザキが力強く頷いた。
「ええ、行ってみましょう!」
クラリッサも同意し、一行は光の階段を一段ずつ慎重に昇り始めた。
階段を昇っていくと、フレアは周囲の様子を興味深そうに観察していた。
「なるほど、こうなっているのか…。」
彼女が立っている階層は、円筒形の広い空間が広がっており、外から見える塔の大きさとは明らかに異なる広さを持っていた。
フランは、ネルの腕にちょこんと飛び乗りながら、ゆっくりと言った。
「どうも、この塔の中は、別の空間に繋がっているようね!」
「そうなのか…。」
ハーベルは、不思議そうにきらきらと輝く壁や天井を見回した。
「光のスライムですね!」
クラリッサは、現れた光を纏うスライムを、杖を一振りするだけでいとも簡単に退けていく。
「この辺りは、まだそれほど強くないみたいだから、どんどん上がって行きましょう!」
クラリッサは、先頭に立って階段を昇り始めた。
しばらく進むと、クラリッサは何かを察知したように杖を構えた。
「どうも、10階層ごとにボスがいるみたいね!」
そして、詠唱を始めた。
「闇の精霊に感謝します。闇の恐怖、ゴールデンスライムに攻撃を!闇:第5応用魔法!ダークネス・ジャベリン!」
次の瞬間、彼女の杖先から放たれた漆黒の槍は、黄金色に輝く巨大なスライムの核を、寸分の狂いもなく正確に打ち抜いた。
スライムは、光を失い、その場で崩れ落ちた。
フレアは、その鮮やかな魔法の威力に、目を丸くして呟いた。
「クラリッサ…。怖!」
ハーベルは、苦笑しながら言った。
「クラリッサも、こう見えて、やる時はかなり怖いんだよ!」
その言葉を聞いたクラリッサは、【邪神の杖】でハーベルの頭を軽くコツンと叩いた。
「痛て……。」
ハーベルは、軽く頭を擦った。
カザキは、感心したように言った。
「でも、フル詠唱の魔法って、やっぱりすごいな!」
ハーベルは、なぜか得意げな顔で頷いた。
「そうなんだ…。すごいんだよ!」
それを見たクラリッサは、再び杖を振りかぶった。
「や…め…て…。それ、意外と痛いんだからな!」
ハーベルは、慌てて頭を庇った。
クラリッサは、少し不機嫌そうに言った。
「魔法で身体防御してるから、痛くないくせに!」
ネルは、不思議そうな表情で首を傾げた。
「身体防御?」
「ああ…。クラリッサ以外は、まだ知らないんだっけ?」
ハーベルが言うと、他のメンバーも興味津々といった表情で「うん…。どういうこと?」と尋ねた。
ハーベルは、少し照れながら説明した。
「俺は、常に魔法の薄いバリアを、無詠唱で身体に張り続けているんだよ!」
アクシアは、驚いた表情で問いかけた。
「ええ…。無詠唱で?」
フレアも不思議そうに聞いた。
「何のために?」
ハーベルは、あっけらかんと言った。
「総魔力量を増やすためだよ!」
その突拍子もない理由に、「はあ?」「ハハハ……。」と、カザキたちは笑い出した。
「いや、何言ってるの?」
しかし、カザキはすぐに真剣な表情に戻り、ハーベルをまじまじと見つめた。
「でも、昔から思っていたけど、ハーベルの魔力量って異常に多いよな!?確かに、以前よりさらに増えている気も……。」
ネルは、目を輝かせながら身を乗り出した。
「まさか…。本当なの?」
ハーベルは、ネルに優しく微笑みかけた。
「うん、本当だよ!」
「マジか…。」
フレアは、信じられないといった表情で呟いた。
「マジです!」
ハーベルは、真剣な顔で断言した。
その光景を、他のメンバーは少し唖然とした様子で見守っていた。
次回 無詠唱の指導~新たな力の胎動~
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頑張って続きを書いちゃいます!




