ルナシェイドの導き~闇の精霊と契約の資格~
「はあ、はあ、あれ、追ってこないぞ!」
カザキは肩で息をしながら、周囲を警戒するように呟いた。
背後を何度も振り返るが、深い霧の中にレオンの姿は見えない。緊迫した状況から、ようやく解放された安堵感が彼の全身を包んでいた。
ハーベルは、先ほどのレオンとの劇的な再会と、信じがたい攻撃に、まだ魂が抜けたように呆然としていた。
彼の瞳は焦点が合わず、ただ虚空を見つめている。
心配そうな面持ちで、クラリッサがハーベルの顔を覗き込んだ。
「ハーベル、どういうことなの?」
彼女の声は優しく、しかしその奥には隠せない不安が滲んでいた。
ネルもまた、ハーベルのことが心配でたまらない様子で、彼の腕にそっとしがみついた。
「ハーベル、大丈夫?」
小さな声には、親愛の情が込められていた。
二人の言葉に、ハーベルはゆっくりと意識を取り戻したようだ。
かすかに頷き、
「うん、みんなにすべて話すよ……。」
と、重い口を開いた。
そして、レオンとの出会いから、あの衝撃的な再会に至るまでの経緯を、時折言葉を詰まらせながら語り始めた。
彼の語る過去は、彼らにとって全く予期せぬ、苦痛に満ちたものだった。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
一方、取り残されたレオンは、アルカの問い詰めるような視線を受け止めていた。
「レオン…。説明して!」
彼女の言葉には、先ほどの彼の豹変に対する強い疑問と、仲間としての理解を求める気持ちが込められていた。
他のメンバーも、彼の言葉を待つように静かに頷いていた。
レオンは、遠い記憶を辿るように、寂しげな表情で呟いた。
「ああ、ハーベルとは幼い頃からの友達だ…。いや、かけがえのない親友だったんだ。」
彼の声には、失われた友情への深い悲しみが滲んでいた。
「魔法学院の中等部だったある日、俺はメルギドの卑劣な罠に引っ掛かって、【MACOK】にされてしまったんだ…。」
レオンは、自らの身に起こった悲劇を語り始めた。
彼の表情は苦痛に歪み、全身に刻まれた魔法陣を無意識にかばうような仕草を見せた。
「直接、ハーベルが悪い訳じゃない…。でも、この3年間、俺がどんな地獄を見てきたか…。それを思うと、ハーベルがあんなにも楽しそうに、何の苦しみもなく生きていることが、どうしても許せなくて…。つい、あんな酷いことを言ってしまった…。」
彼の言葉には、激しい憎しみと、その後のわずかな後悔の念が入り混じっていた。
アルカは、レオンの告白を静かに聞き終えると、どこか達観したように言った。
「まあ、分かったわ!多かれ少なかれ、私たちだって似たような経験をしてきたんじゃない?もう、昔のままには戻れないんだってことよ……。」
彼女の言葉は、自分自身を含めた仲間たちの過去を暗示しているようだった。
他のメンバーも、アルカの言葉に共感するように頷き、中には目頭を押さえる者もいた。
「レオン…。」
ミリアが、何か言葉をかけようと一歩踏み出した、その時だった。
何もない空間が、まるで水面が揺らぐように歪み、そこから信じられない光景が現れた。
美しい紫色の星屑がキラキラと煌めき、その中心から、まるで最高級のベルベットのような、深く吸い込まれるような光沢を放つ羽を持つ、小さな妖精が現れたのだ。その神秘的な姿は、場違いなほどに幻想的だった。
レオンは、そのありえない光景に目を丸くし、驚きのあまり尻餅をついてしまった。
「ええ…。妖精!?」
彼の声は、完全に混乱していた。
妖精は、宙を舞いながら、きらびやかな光の粉を撒き散らした。
「レオン…。まだよ…。まだ資格が足りないの!」
その声は、鈴が転がるように美しかった。
レオンは、その言葉の意味を理解しようとしながら、悔しそうな表情でハーベルたちが消えていった方向を見た。
「そうか……。ハーベルなら行けるのか!」
彼は、やり場のない怒りを込めて剣を振り上げ、妖精に切っ先を向けた。
「ちょっと!」
さすがに、アルカがレオンの危険な行動を制止するために、素早く彼の腕を掴んだ。
「危ないわね…!」
妖精は、レオンの耳元で、まるで秘密を打ち明けるように小さな声で囁いた。
「私はあなただけの味方よ!」
「僕だけ……?」
レオンは、その言葉の意味を深く考え込んだ。
妖精は、優雅に一礼し、自己紹介をした。
「私はルナシェイド!闇の精霊で、あなたを導く者よ!」
「なぜ…。僕に……?」
レオンは、まだ半信半疑だった。
ルナシェイドは、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「あなたには、特別な資格があるからよ!今は、まだ少し足りないだけ。」
そして、レオンの胸を指差しながら言った。
「まずは、その胸にある『召喚魔法陣』を使いこなせるようになりなさい!」
レオンは、言われた通りに自分の胸に手を当てた。
「ああ…。そう言えば、こんな魔法陣、いつからあったんだろうな……。使った覚えはないけど……。」
トリガーは、レオンの肩に力強く手を置いた。
「レオン、俺たちも協力するぞ!」
彼の言葉には、仲間としての強い絆が感じられた。
レオンは、先ほどの感情的な行動を恥じるように、頭を下げた。
「すまん…。取り乱して…。」
サクナは、心配そうな表情でレオンを見つめた。
「あんなレオン見るの初めてだったから、本当にびっくりしちゃった…。」
レオンは、アルカ、リセ、ミリアの三人に視線を向け、静かに言った。
「アルカ、リセ、ミリア…。お前たちにも、酷いことを言って悪かったな…。」
三人は、彼の謝罪を受け入れるように、優しく頷いた。
決意を新たにしたように、レオンはルナシェイドに向き直った。
「ルナシェイド!僕に召喚の仕方を教えてくれ!」
ルナシェイドは、快く頷いた。
「任せて!レオンの面倒は私が見るから、あなたたちは、各属性の神器を少なくとも一種類以上集めてきて!」
彼女は、テキパキと指示を出した。
「神器?」
レオンは、聞き慣れない言葉に疑問を投げかけた。
ルナシェイドは、可愛らしい小さな手を大きく広げて説明した。
「ええ…。それが、このエレメンタルスパイアへ挑戦することのできる、最低限の条件なのよ!」
「そう言うことか……。」
レオンは、ようやく状況を理解したように小さく呟いた。
トリガーは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら確認した。
「それって、盗んできてもいいのか?」
ルナシェイドは、全く悪びれた様子もなく答えた。
「ええ、もちろん!盗んでも、奪っても、所持さえしていればいいからね!」
リセは、自信満々に手を叩いた。
「それなら、私たちの得意とするところね!」
「任せて!」
トリガーが力強く頷いた。
「了解!」
サクナも笑顔で応じた。
「そうと決まれば、俺はレオンの分も含めて、光と闇の神器をとってくるよ!」
トリガーは、すでに動き出す準備をしていた。
「私は風ね!」
リセもそれに続いた。
アルカは、サクナと手を繋ぎ、息の合った様子で言った。
「じゃあ、私たちは炎と水を!」
ミリアは、何か心当たりがあるように手を上げた。
「私は、土の神器に心当たりがあるわ!」
次の瞬間には、彼らはそれぞれの目標に向かって、まるで嵐のように素早く各方面へと散っていった。
その迅速な行動力は、ルナシェイドを少し驚かせたほどだった。
「行動が早くて、助かるわ!」
ルナシェイドは、感心したように呟いた。
「それで…。僕は何をすれば?」
レオンは、自分にできることを尋ねた。
ルナシェイドは、レオンを見つめ、最終的な目標を告げた。
「そうね…。最終的には、この私を召喚できるようになって欲しいの!」
「君を…?」
レオンは、意外な言葉に目を瞬かせた。
「普通なら、闇の魔法属性ランクを究極魔法10まで上げる必要があるけれど、レオンなら、その特別な『召喚魔法陣』のおかげで、魔力消費なしでもそれを使用できるの。だから、やり方さえ覚えれば、そんなに難しいことではないはずよ!」
ルナシェイドは、レオンに簡単な魔法陣の使い方から丁寧に教え始めた。
•••••••••
ルナシェイドの話によると、通常の「召喚」は、大量の魔力を消費する危険な魔法だが、【MACOK】の召喚は、その特性ゆえに魔力を必要としない。
代わりに、召喚しようとする魔物を打ち倒せるだけの圧倒的な実力があれば、「契約」を結び、強制的に従わせることができるという、異質な召喚術のようだった。
•••••••••
ルナシェイドは、レオンの驚異的な習得速度に目を丸くした。
「やっぱり…。習得が早いわね!」
正直なところ、ここまで早く理解するとは思っていなかったようだ。
レオンは、少し照れたように言った。
「誉めても、何もでないぞ!」
「あとは、六種の神器を持って、エレメンタルスパイアへ向かうだけよ!」
ルナシェイドは、最終的な目標を改めて告げた。
「分かった…。」
レオンは、決意を込めて頷いた。
「私が手伝えるのは、ここまでよ!じゃあ、頑張って!」
そう言い残して、ルナシェイドは、まるで霧に吸い込まれるように、エレメンタルスパイアの方へと姿を消していった。
ルナシェイドの消えた方向をしばらく見つめていたレオンは、静かに、しかし強い決意を込めた声で呟いた。
「ハーベル…。待ってろよ!」
彼の瞳には、新たな目標に向かって燃えるような光が宿っていた。
次回 エレメンタルスパイア攻略開始~光の階段と無詠唱の秘密~
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頑張って続きを書いちゃいます!




