【MACOK】の呪縛~捨てられた紙切れの代償~
その間も、レオンたちは一向に塔へと辿り着けず、まるで迷路のように鬱蒼とした森の中を彷徨い歩いていた。木々のざわめきと、足元の湿った土の匂いだけが、彼らの存在を微かに示していた。
その時、先頭を歩いていたレオンが、鋭い感覚で何かの気配を察知した。
「そこの茂みに隠れろ!」
と低い声で指示を出すと、一行は訓練された兵士のように素早く身を屈め、深い緑の中に姿を消した。
息を潜め、周囲の様子を窺う静寂が流れる。
数秒後、レオンは信じられないものを見たかのように、ハッとした表情で茂みから飛び出してしまっていた。
「ハ……。ハーベル!」
彼の声は、驚愕と僅かな希望が混じり合っていた。
同じように驚いた声が返る。
「はっ…!レ……。レオン!」
二人の視線が絡み合い、しばしの沈黙が流れた。
「ああ…。」
レオンは小さく呟いた。
ハーベルは、目の前に立つ変わり果てた旧友の姿に、堰を切ったように感情が溢れ出した。
「レオン……。生きてたのか!俺は、ずっと探していたんだよ!生きているって信じていた!」
周囲の目を憚ることもなく、ハーベルは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、再会を喜んだ。
レオンは、そんなハーベルに対して、どこか冷めた様子で短く言った。
「よお…。久しぶりだな…。」
その声には、かつての明るさは微塵も感じられなかった。
ハーベルは、レオンの落ち着き払った様子を見て、すぐにでも駆け寄って抱きしめ、無事を確かめたい衝動を懸命に押し殺した。
彼の胸には、喜びと同時に、拭いきれない違和感が湧き上がっていた。
「レオン、ずいぶん雰囲気が変わったね……。」
ハーベルの瞳には、深い悲しみの色が宿っていた。
レオンは、ハーベルの言葉に痛々しい笑みを浮かべた。
「お前がそいつらと仲良しごっこをしている間も、僕たち【MACOK】は………。」
彼は、その言葉を口にするのを躊躇うように、苦悶の表情を浮かべた。
そして、まるで忌まわしい烙印を見せつけるかのように、自分の全身に深く刻み込まれた禍々しい魔法陣を誇示するように、両手を広げて見せた。複雑な紋様が、彼の肌の上で異様な光を放っていた。
「【MACOK】って何ですの?」
アクシアが、その聞き慣れない言葉に首を傾げ、不思議そうに尋ねた。
ハーベルは、その言葉を聞いた瞬間、顔色を変えて身を乗り出した。
「【MACOK】って、まさか…。あの時の…?」
彼の声は、かすかに震えていた。
レオンは、ハーベルの反応を冷たい視線で見つめながら、憎悪を込めた声で叫んだ。
「ああ…。お前が捨てたあの紙切れが、すべての元凶さ!」
その言葉には、抑えきれない怒りと悲しみが滲んでいた。
ハーベルは、その言葉に衝撃を受け、言葉を失った。
「ええ…。レオンが拾っていたの!?知らなかった……。」
彼の表情は、蒼白く、完全に放心状態だった。
レオンの瞳から、生気が失われたように見えた。
「ああ…。それからの三年間はまさに地獄だった……。」
彼の声は、遠い過去を語るように、重く響いた。
ハーベルは、レオンの身に何があったのかを知りたい一心で、一歩踏み出そうとした。
「何があったんだ……。話をしてくれ…!」
しかし、レオンは手のひらを突き出し、ハーベルの歩みを制止した。
「よく言うよ……。そこのゴミどもと楽しそうだったじゃないか!」
彼の言葉は鋭く、棘があった。
ハーベルは、レオンの言葉に傷ついた表情を浮かべた。
「レオン…。見てたのか……?声をかけてくれれば……。」
彼は、もう一度、レオンに近づこうとした。
レオンは、ゆっくりと首を横に振った。
「そんなことができたなら……。僕は……。」
悲しそうな表情が一瞬彼の顔をよぎったかと思うと、次の瞬間、信じられないことに、右手の剣をハーベルに向けて突き出した。
ハーベルは、あまりのことに呆然として立ち尽くし、迫り来る刃を受け入れようと目を瞑った。
キーーーン!
「何してる!」
その刹那、カザキが目にも止まらぬ速さでハーベルの前に飛び出し、辛うじてレオンの一撃を剣で受け止めた。
金属がぶつかり合う鋭い音が、静かな森に響き渡った。
レオンは、カザキを鋭い眼光で睨みつけながら、ハーベルを剣で指し示した。
「お前は、ここで死ね!ハーベル…。その後で、お前らゴミも片付けてやる!」
彼の声は、憎悪に満ちていた。
カン、カン、カン、キーーーン!
カザキは、必死にレオンの攻撃を受け止めながら、動揺して立ち尽くすハーベルを叱咤した。
「ハーベル!なに言ってるんだ?殺されるぞ……。応戦しろ!」
ハーベルは、レオンの変貌と突然の攻撃に、まだ完全に意識がついてきていない様子だった。
見かねたクラリッサが素早く駆け寄り、ハーベルの頬を強く叩いた。
バシっ!
「ハーベル!しっかりして!」
衝撃でハーベルはハッと我に返ると、混乱した表情でレオンに問いかけた。
「【MACOK】ってことは、【魔法陣使い】に命令されてこんなことしてるんだろ?」
彼は、まだレオン自身を信じたいという微かな希望を抱いているようだった。
レオンは、ハーベルの言葉を嘲笑うかのように言った。
「あいつらは、全員封印した!」
そう言うと、彼は掌から、不気味な光を放つ五つの白い繭のような物を放り投げた。
それは、地面に落ちると同時に、微かに脈打っているようにも見えた。
ハーベルは、その異様な物体を見て、言葉を詰まらせた。
「それは……?じゃあ……。」
レオンは、冷酷な笑みを浮かべながら断言した。
「ああ、もちろん、俺たちの意志でやっている!」
そして、再びハーベルに向けて攻撃の手を緩めることはなかった。
レオンの繰り出す剣は、何度もハーベルの寸前まで迫るが、その度にカザキが間に入り、必死の形相で防いでいた。
「ハーベル…。ボーッとするな!」
カザキの焦りの色が濃い叫びが響いた。
その時、レオンはさらに衝撃的な言葉を叫んだ。
「ソーサリーエレメントは、僕たちがいただく!」
その言葉に、ハーベルは驚愕の表情を浮かべた。
「何でその事を……?」
他の仲間たちは、事態が急変し、何が起こっているのか理解できずに、ただ傍観することしかできなかった。
カザキは、これ以上の戦闘は危険と判断し、ハーベルに呼びかけた。
「ハーベル、頼む!一度退こう!」
ハーベルは、ようやく事態を飲み込み、
「あ…。はい!カザキさん…。」
と頷いた。
そして、仲間たちに呼びかけようとした。
「ゼ…。ゼロし……?」
しかし、レオンはそれを許さなかった。
「そうはさせない!」
ハーベルが、得意とする「零式」スキルで全員を瞬間移動させようとした瞬間、レオンは信じられない速さでハーベルの腕を掴んだ。
ハーベルは、驚愕の表情で呟いた。
「瞬間移動……?」
レオンは、冷酷な笑みを浮かべながら言い放った。
「お前の手の内は、すべてお見通しだ!」
そして、ハーベルの胸を突き刺そうとした、その瞬間……。
カザキは、驚異的な反応速度でハーベルとその仲間たちを抱え上げ、まるで風のように瞬時に移動し、近くに見える巨大なエレメンタルスパイアの方へと姿を消し、立ち込める深い霧の中へと消えていった。
「うう…。コイツも瞬間移動を…?」
レオンは、完全に意表を突かれた表情で呟いた。
レオンもすぐにその後を追おうとしたが、なぜか足が地面に張り付いたように動かせなかった。
「くそ、何であいつらだけ!」
レオンは、悔しさを露わにし、地面に落ちていた白い繭を力任せに踏みつけた。グシャリという音が生々しく響いた。
ミリアが、そんなレオンの様子を心配そうに見つめ、優しく彼の腕にしがみついて制止した。
「レオン……。」
レオンは、ハッとしたように我に返り、力なく下を向いた。
「ああ、すまん…。悪かった…。」
アルカは、レオンの変わり果てた姿と、先ほどの激しい行動に納得がいかず、問い詰めるように言った。
「レオン…。説明して!」
彼女の言葉に、他の仲間たちも同意するように頷いた。
次回 ルナシェイドの導き~闇の精霊と契約の資格~
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頑張って続きを書いちゃいます!




