戦争狂の悪夢 ~涙の解放、静かなる脅威~
「あと、二人だね…。」
アルカが、小さく呟いた。これまでの激戦を振り返り、残る敵の数を意識したのだろう。
「ああ、でもバルダックの野郎は、戦争狂ではあるが、ヤツ自身は弱いから大したことない!」
トリガーは、これまでの強敵たちと比べれば、バルダックは脅威ではないと考えているようで、どこか嬉しそうな口調で言った。
「じゃあ、早速ダルメシアへ移動だ!」
レオンが手のひらを前に向けると、その上に、一人、また一人と、全員がそれぞれの想いを込めて手を重ねていった。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
ダルメシア帝国の首都、【ドラケンフェルド】。
その中心にある広大な広場に面した大通りの向かい側に、その異様な建物はそびえ立っていた。
街の景観とは明らかに異質な、まるで高層の塔のような建物。
商業ギルドというよりは、秘密結社の本拠地のような雰囲気を醸し出していた。
その最上階、陽光が降り注ぐペントハウスに、バルダックは住んでいた。
部屋のガラスケースの中には、ありとあらゆる種類の武器が整然と並べられている。壁に掛けられた大きな世界地図には、無数の✕印が書き込まれており、それらはバルダックが裏で糸を引いて引き起こした紛争地域を示しているようだった。
「マジで、こいつもクソ野郎だね!」
アルカは、その部屋の様子を見るなり、嫌悪感を露わにした。
「アルカ、口が悪いよ!」
サクナは、たしなめるようにアルカの口元をそっと押さえ、小声で注意した。
部屋の中央には、豪華絢爛なキングサイズのベッドがあり、その上で小柄で肥満体の男が、無防備にもスヤスヤと眠っていた。
そのベッドを、レオンを先頭に六人が静かに見下ろしている。
「おい、バルダック!起きろ!」
トリガーは、遠慮なくベッドの縁を足で蹴飛ばした。
「はあ…へ………。誰だ?、うん?トリガー…?」
バルダックは、けたたましい音にようやく目を覚まし、寝ぼけ眼を擦りながら、目の前に立つトリガーを認識した。
•••••••••
バルダック ♂ 【魔法陣使い】
【ダルメシア帝国 商業ギルド長 兼 戦争屋】
種族:ヒューマン
魔法属性:炎属性
固有スキル:「破壊」「暗躍」
魔法陣:「諜報魔法陣」「剣術魔法陣」「格闘魔法陣」「砲弾魔法陣」「防御魔法陣」「音魔法陣」
光:応用魔法5
闇:応用魔法5
炎:究極魔法10
水:応用魔法5
風:応用魔法5
土:応用魔法5
••••••••••
状況が飲み込めないバルダックは、目をパチクリさせながら、周囲の異様な雰囲気に気づき、ゆっくりと顔を上げた。
ゴクリ…。
彼は、大きく喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「お前たち、一体何者だ!」
ようやく事態を把握し始めたバルダックに、アルカは冷笑を浴びせた。
「はあ?今さらかよ!」
トリガーは、憎悪を滲ませた声でバルダックに詰め寄った。
「バルダック、俺はお前が俺の両親にしたことを、決して忘れない!だから、本当ならここで、お前を八つ裂きにしてやりたいくらいだ!」
トリガーの目は、怒りと悲しみで赤く潤んでいた。
しかし、バルダックは全く悪びれる様子もなく、自己中心的な言い訳を始めた。
「いや、あれはお前の両親が、俺の言うことを聞かないのが悪いんだ!俺は悪くない!」
「そんな訳ないだろ!人を殺した方が悪いに決まってるだろ!」
アルカは、怒りに任せてバルダックのベッドを強く叩きつけた。
「ひーーーー!」
情けない悲鳴を上げるバルダックに、サクナも呆れたように呟いた。
「情けない男ね……。」
レオンは、時間を気にしながらトリガーに声をかけた。
「トリガー、もうそろそろいいか?」
トリガーは、深い憎しみを込めて言った。
「すまん、お前だけは、この世に生きていてはいけない存在だ!永遠の闇の中で、自分の犯した罪を償い続けろ!」
トリガーの言葉と同時に、ミリアは静かに胸の前で手を組み、「白昼夢魔法陣」を発動させた。
バルダックは、その瞬間、まるで糸が切れた人形のように、バタンとベッドに倒れ込んだ。その寝顔は、醜い苦痛に歪んでいた。
「ミリア…。」
トリガーが、心配そうにミリアの名を呼ぶと、彼女は彼の意図を察して頷いた。
バルダックの意識は、ミリアの操る白昼夢の中で、何度殺されても死ぬことのできない、終わりのない無限の戦争地獄へと突き落とされていた。
「リセ、お願い!」
レオンがリセに視線を送ると、彼女はすぐに頷いた。
「うん。」
リセは、眠り込んだバルダックを「布陣魔法陣」で包み込み、小さな繭のような状態にしてトリガーに手渡した。
繭を受け取ったトリガーの頬には、一筋の熱い涙がこぼれ落ちた。
「父さん、母さん……。やっと、あなたたちを苦しめた元凶を……これで自由!」
トリガーは、目を閉じ、天を仰いだ。
「あとは、レオンの……。」
ミリアは、次の敵、メルギドのことを思い出し、心配そうに呟いた。
「ああ、メルギドはかなり強い!」
レオンは、静かに拳を握りしめた。その表情には、これまでの敵とは違う、特別な感情が宿っているようだった。
レオンの言葉に、トリガーも息を飲んだ。
「レオンが、言うんだから相当なんだろうな…。」
「当たり前だ。俺の全てを知っている上に、同じ魔法陣まで使える……。厄介極まりない!」
レオンの表情は、いつになく険しく、「無」に近いものだった。
次回 仕組まれた破滅 ~崩れゆく希望~
続きの気になった方は、
ぜひともブックマークをお願いいたします。
リアクションと⭐5もつけていただけると幸いです。
頑張って続きを書いちゃいます!