眠り姫の真実 ~魔法陣使いとの訣別 ~
エリスはミリアに向かって静かに言った。
「ミリア、少し離れて見ていなさい!」
ミリアはわずかに躊躇したものの、「分かりました」と答え、エリスの少し後ろへと下がった。
その目は、複雑な感情を宿してエリスだけを見つめていた。
「ラディアント・バラージ!」
エリスはさらに魔法を紡ぎ、その周囲には先ほどよりも遥かに多い、無数の魔法陣が瞬時に展開された。
魔法陣が輝きを増すと同時に、そこから雨あられとばかりに無数の光の矢が放たれ、レオンたちに向かって襲い掛かった。
その猛攻に対し、トリガーは即座に反応し、「防御魔法陣!」と叫びながら、蒼い光のバリアを瞬時に展開、全員を覆い守った。
「トリガー、助かった!」
レオンは背後を振り返らずに感謝の意を示した。
「おう!」
トリガーは短く応え、バリアの維持に集中した。
「トリガー、このまま援護を頼む!」
「任された!」
トリガーは頷くと同時に、「砲弾魔法陣」を展開し、そこから漆黒のアサルトライフルを取り出した。そして、容赦なくエリス目掛けて銃弾の雨を降らせ始めた。
エリスは冷静に杖を軽く振るい、自身の周囲に透明な魔法防御を展開し、銃弾を弾き返した。
その銃撃の隙をついて、レオンとアルカは連携して動いた。
二人はエリスの左右に分かれ、同時に間合いを詰めて襲いかかった。
アルカの操る「蛇鞭魔法陣」から、まるで生きているかのようにうねる、蛇の顔を持つ漆黒の鞭が伸び、エリスを絡め取ろうとする。その異様な形状に、エリスは一瞬眉をひそめた。
「何ですか…。この気持ちが悪いものは!」
蛇の鞭は素早くエリスの動きを拘束し始めた。
その隙を逃さず、レオンは一瞬でエリスに肉薄し、冷たい刃をその白皙の首筋へと突きつけた。
絶対的な危機を前にしても、エリスは余裕の笑みを浮かべた。
「私を殺せるのですか?もし私に何かあれば、ミリアも無事では済まないでしょうね!」
彼女の言葉には、勝利を確信する響きがあった。
「うう、幻覚か…。」
エリスの言葉に呼応するように、レオンは一瞬意識が揺らぎ、目の前のエリスの姿が歪んで見えた。
彼はわずかにふらつき、困惑の色を浮かべた。
「ああ、くそ、捕まえられてないだと!」
アルカもまた、鞭で拘束したはずのエリスに実体がないような感触を覚え、苛立ちを露わにした。
その直後、エリスは高速でレオンたちの周囲を旋回し始め、まるで蜃気楼のように三体の分身を作り出した。
それぞれの分身が、黄金に輝く杖【アウレリアンテンペストフレア】を天に掲げた。
すると、その杖は光、炎、風の三種の杖に分裂し、それぞれのエリスが異なる杖を構えた。
凄まじいまでの魔力がそれぞれの杖の先から放出され、三人のエリスは同時に詠唱を開始した。
「ブレイズ!」
「クイーバー!」
「ルミナス!」
そして、三つの詠唱が重なり合った。
「ブレイズ・クイーバー・ルミナス!」
トリガーが展開していた防御バリアは、既に複合魔法の奔流の前に消し飛んでいた。
三属性の複合魔法は、虹色に輝く巨大な龍の形を成して天へと昇り、信じられないほどの速度でレオンたちを直撃した。
「キャーーーー!」
悲鳴にも似た叫びが響き渡ると同時に、虹色の龍は地面を抉るように激突し、巨大なクレーターを作り出した。しかし、その爆心地には、レオンたちの姿は影も形もなかった……。
辺りは深い静寂に包まれ、エリスの作り出した分身たちは、静かに元の姿へと戻っていった。
「こんなもんですか……?」
エリスは勝利を確信したように、静かに呟いた。
その瞬間だった。
「今よ!」
ミリアの鋭い叫びが静寂を切り裂いた。
どこからともなく、レオンとアルカが姿を現した。
アルカの「蛇鞭魔法陣」が、元の姿に戻る一瞬のエリスを捉えた。今度は確かに、鞭がエリスの実体を捕らえた感触があった。
「さすがに、この瞬間は実体だろ!」
トリガーが安堵したように叫んだ。
レオンはミリアと目を合わせ、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「今だ!」
ミリアは頷き、間髪入れずに「白昼夢魔法陣」を素早く発動させた。淡い光がエリスを包み込む。
「ああ……。ミリア……。」
エリスは悲しそうな、どこか諦めたような表情を浮かべ、ゆっくりと意識を失い、眠りに落ちた。
「ミリア…。起きて!」
心配そうにサクナがミリアの肩を優しく揺さぶった。
「リセ!」
レオンが声をかけると、リセは即座に反応した。
「あいよ!」
そして、眠り込んだエリスを素早く「布陣魔法陣」で包み込み、小さな繭のような形状にしてミリアに手渡した。
「ああ、自由だよ!」
ミリアは安堵の表情を浮かべ、レオンに飛びついてキスを交わした。
一同は、その微笑ましい光景を温かく見守っていた。
キスを終えたミリアは、どこかホッとした表情で言った。
「エリスは、かなり厄介なお人なので、先に処理ができてよかったです。」
「処理って…。」
その言葉の重みに、みんなは思わず苦笑いを浮かべた。
サクナは、少し寂しそうな表情で呟いた。
「今回も、私は何もできなかった…。」
レオンはサクナの肩をポンと叩き、励ますように言った。
「サクナ…。君は男性相手のときが一番役に立つんだ。これからに期待してるよ!」
レオンの言葉に、サクナは照れたように、しかし嬉しそうに微笑んだ。
次回 アズール王国潜入 ~奪われた自由のために~
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頑張って続きを書いちゃいます!