契約の代償 ~姉妹の運命~
ここは、極東の島国、サンゴルド帝国である。
サンゴルド帝国は、島国のため特有の文化が根付いていて、一風変わった雰囲気を漂わせていた。
和風建築と着物を好んで着る風習があり、趣のある建物が多いこともあって、観光目的で訪れる者も多かった。
そんな国のある路地裏の掘っ立て小屋のような小さな家で、二人は生まれた。
「アルカ……。」
「サクナ……。」
怯えるように抱き合いながら、酒浸りの父親を睨み付けていた。
「なんだ……。その目は!文句でもあるのか?」
父親は机を蹴飛ばした。
「もう、お金も食べるものもないよ……。」
アルカが意を決して叫んだ。
「うるせぇーーー!だったら、お前が働け!」
酒を飲み干しながら怒鳴る。
「酒でも買ってこい!」
そう言って父親が酒瓶をサクナに投げつけた。
「キャー!」
アルカが間に入って酒瓶が割れると、額から真っ赤な血が滴っていた。
アルカは無言で睨み付ける。
「ちょ……ちょっと、出掛けてくる!」
父親はいたたまれなくなって、戸を強く閉めて出ていった。
母親を亡くしてから、そんな父親に愛想を尽かすのにそれほど時間はかからなかった。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
二人は街を彷徨いながら歩き続けたが、女二人で暮らしていけるはずもなく、路地裏で震えていた。
「おお、こんなところに上玉が転がってるじゃねえか!」
街のゴロツキが、サクナに目をつけた。
「やめろ!」
アルカが間に入ってサクナを庇った。
「うるせぇーーー!」
そのゴロツキは、アルカを殴り飛ばす。
「キャー、アルカ!助けて!」
サクナは抵抗するが、あっけなく捕まってしまった。
「サクナを返せ!」
アルカはゴロツキにしがみつく。
「よく見ると、顔だけは綺麗だな!」
ゴロツキはアルカの腹に一発食らわせると、右肩に担いだ。
「来い!」
サクナを強引に引っ張りながら、どこかの店のような建物に連れてこられた。
「ヨイザクラさん、これは上玉ですよ!」
ゴロツキが店のオーナーらしい女性に何やら交渉しているようだった。
「ハハハ……。今日はついてるぜ!」
ゴロツキは、幾らかの金を受け取ると上機嫌で帰っていった。
「おお、可哀想に……。私はヨイザクラと言う者だ!」
ヨイザクラが優しい声で二人を抱き寄せた。
「名前は?」
「サクナです……。」
「アルカだよ……。」
「うん、いい名前だね!うちの店は、踊りを見せてお客さんに喜んでもらうのが商売だ!あんたたちなら、努力次第でしっかり稼げるようになるよ!そうすれば、二人で一緒に部屋でも借りるといい!」
ヨイザクラが優しく説明してくれた。
「はい……。」
「でも、それまで住む場所がないんだ!」
アルカがサクナを抱きしめながら言った。
「なんだ、そんなの心配いらないよ!ここに住んで、食事も部屋も貸してあげるから、踊りの稽古に励みな!」
微笑みながらヨイザクラが言った。
「本当に……いいの?」
「ああ、もちろんだよ!」
ヨイザクラが二人の手を取った。
「でも、その前にこれを受け取ってもらいたいんだ!」
「何ですか?」
「まあ、契約書みたいなもんかな……。」
「契約?」
アルカが少し不安そうに聞き返す。
「ああ、契約といってもたいしたことじゃないよ!一応、ここに住まわせるにはそれなりのお金もかかることだから、念のためさ!」
ヨイザクラは微笑んだ。
「分かりました……。」
「まあ、確かにそれも一理あるか……。」
二人は了承した。
「そこへ座って、二人とも左手を前に!」
ヨイザクラが優しく手を出した。
「こうですか?」
「はい!」
二人が左手の甲を見せると、ヨイザクラはおもむろに黒い魔昌石を取り出して、二人の甲へ押し付けた。
「少し痛いけど我慢おし!」
そう言って何やら聞き慣れない呪文を唱え始めた。
「キャーーー!」
「ウワーーー!」
サクナとアルカが激痛に顔を歪めながら耐えている。
「さあ、できた……。ほら!立ちな!」
ヨイザクラの顔が一瞬で鬼の形相になり二人を強引に立たせた。
「ええ、ヨイザクラさん!?」
「なにするんだよ!?」
二人は何が起こっているのか全く理解できていなかった。
「察しの悪いグズどもだね!あんたたちは売られたんだよ!」
「ええ……。」
「はあ?」
「だからあんたたちは、もう私のモノなんだよ!」
ヨイザクラが大きな口を開けて笑いながら言った。
ヨイザクラも【魔法陣使い】で、娘たちを拐ってきては【MACOK】に仕立てあげて、夜の商売でボロ儲けをしている闇の人買いだった。
彼女の見た目は200kgはあろうかと言う巨漢で、お世辞にも美しいとは言えない風貌だった。
それもあり、美しい女性を心から憎んで、ただの商売道具にして憂さを晴らしている。まさにクズ中のクズだった。
次回 双華の鎖 ~ 逃れられない刻印~
続きの気になった方は、
ぜひともブックマークをお願いいたします。
リアクションと⭐5もつけていただけると幸いです。
頑張って続きを書いちゃいます!