闇に囚われた戦士と仲間の絆
その町はそれほど大きくはないが、それなりに栄えていた。
運河沿いには活気ある店が並び、食堂では冒険者や町の人々が楽しそうに酒を酌み交わしながら語り合っている。木製の椅子が軋む音、グラスが交わる音、笑い声が絶え間なく響き、この町が確かな賑わいを持っていることを物語っていた。
カザキは運河にかかる橋の上で立ち止まり、しばらくその風景を眺めた。水面が夕日に照らされ、金色に輝いている。しばらく黙っていたが、やがて振り返り、ハーベルに問いかけた。
「さっきの、何だ?ハーベル…。」
その問いには困惑が滲んでいた。
「ああ、神器のスキルですよ!」
「おお、すげえな!」
カザキは驚きの表情を浮かべ、感心しながら頷いた。自分が闇に囚われていた間、こんな能力を持つ仲間が必死に助けてくれたのかと思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
ハーベルはそんなカザキの表情を見ながら、慎重に次の提案をした。
「ネルと俺は、カザキ先輩をパーティーメンバーのところへ連れていくので、みんなは先に宿をとっておいてくれるかな?」
少し申し訳なさそうな口調だったが、クラリッサはすぐに察して仲間たちを促す。
「分かった、先に行ってるから、後でテルミットで連絡するね!」
クラリッサの言葉にみんなが頷き、宿へ向かって歩き始めた。
「さあ、行きましょう!先輩…。」
「ああ、すまないな…。」
カザキは息を吐き、覚悟を決めるようにうなずくと、ハーベルとネルと共に歩き出した。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
カザキはパーティーメンバーにこれまでの経緯を話し、深々と頭を下げた。
ハーベルとネルは少し離れた場所で見守ることしかできなかった。
しかし…。
パーティーメンバーたちは無言のまま、カザキをじっと見つめていた。
気まずい沈黙がしばらく続いた後で、ようやく誰かが口を開いた。
「ああ、分かった。」
カザキは少し安堵の表情を浮かしかけたが、その次の言葉で凍りついた。
「じゃあ?」
「いや、悪いが、お前とはこれっきりだ!さっき、みんなで話し合ったが、もうお前を信用できない!」
「そういうことで…。」
「うん…。」
「チッ、さっきは殺されるところだったぜ!」
パーティーメンバーはすでに結論を出していたようだった。
カザキは絶句した。言葉を失い、顔を上げることさえできない。
「そんな、悪魔の呪いが原因だったんですよ?」
ハーベルが思わず口を挟む。
「ああ、君には助けてもらって感謝しているけど、君もコイツと関わると、ろくなことがないぞ!」
そんな捨て台詞を残し、四人は去っていった。
「ひどい……。」
ネルは涙ぐんでいた。
「いや、オレが悪いんだ。しょうがないよ……。すまんが、少し一人にしてくれるか……。」
「でも…。」
「ハーベル、一人にしてあげましょう!」
ネルがハーベルを制止して無理やり引き離した。
ハーベルは最後に駆け寄ると、
「これだけ、肌身離さず持っていてください。」
そう言ってテルミットを手渡した。
「すまん…すまん…。」
カザキは呟くように謝りながら、一人運河を眺めていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
ハーベルとネルは、とぼとぼと町を彷徨っていた。
「先輩、大丈夫かな?」
「うん…。」
沈んだ気分のまま歩いていると、ハーベルのテルミットが青く光った。
「ハーベル、どうだった?」
クラリッサの声が心配そうに響く。
「ああ、ダメだったよ…。」
ハーベルは事の顛末を話し始める。
「そうだったのね…残念…。それより、カザキさんを一人にしない方がいいわ!」
クラリッサがアドバイスをくれる。
「確かに…。」
「無理にでも、一緒にいてあげて!」
「分かった、ありがとう!クラリッサ…。」
ハーベルたちは急いでテルミットで連絡した。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
運河沿いで、カザキはボーッとただ景色を眺めていた。
「これからどうしたら……。」
すると、さっき渡されたテルミットが青く光り始めた。
「おお、珠が光ってるぞ!」
カザキは驚いて、落としそうになった。
「カザキさん!カザキさん!」
「うん?ネルの声がどこかから聞こえる…!?」
カザキはキョロキョロしながら、不思議そうに首をかしげた。
「カザキさん、その珠を耳に!」
「ああ、これか!」
カザキがテルミットを耳にあてる。
「カザキさん、すぐに私たちと合流しましょう!」
「どうしたんだよ、急に…。」
カザキは動揺している。
「いいから、珠が強く光る方向へ歩いて来てください!」
ハーベルが大声で叫ぶ。
「ああ、分かったよ。まったく…アイツら…。」
カザキは通信を切ると、珠が白く強く光る方へと導かれるように歩き出す。
「ああ、カザキさん!」
「カザキ先輩!」
カザキに気づいたハーベルたちが出迎えて手を振った。
「どうした、オレなら大丈夫だぞ!」
カザキが強がるように言うと、
「カザキさんが、変なこと考えてないか心配で…。」
「ネル…。」
「先輩、俺たちと一緒に行きませんか?」
「ハーベル…。それは無理だろ…。あんなことがあったばかりで……。」
カザキはうつむいた。
そこへ宿屋の中からクラリッサたちが出てきた。
「カザキさん、あんなことがあったからですよ!」
「そうですわ!」
「ああ、一人はキツいからな!」
フレアがカザキの肩に手をおく。
「みんな…。ハーベル、いい仲間を持ったな!」
カザキは少し羨ましそうに呟く。
「ええ、だからカザキ先輩も、俺たちと!」
ハーベルがカザキの肩に優しく手をおく。
「ああ、ハーベル、ネル…。皆さん。よろしくお願いします。」
カザキはそのまま深く頭を下げた。
「大丈夫ですわ!」
アクシアが優しくカザキを起こしてくれた。
「実は、かなりキツくてどうしたらいいか迷っていたんだ!」
カザキは胸の内をさらけ出した。
そうして、ハーベルがカザキに肩を貸して宿の中へと入っていった。
次回 疾風の剣士と悪魔の影
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頑張って続きを書いちゃいます!