風の神殿の呪い:悪魔の影を追え!
ハーベルが急いで家へ戻ると、大きく息を切らしながら扉を開けた。
「ネル、大変だよ!」
息も絶え絶えに叫びながら、家のドアを勢いよく開ける。その衝撃で扉が軋み、大きな音が室内に響いた。
「どうしたの?ハーベル…。」
驚いたネルが、エプロン姿のまま駆け寄ってくる。彼女の表情には戸惑いと不安が滲んでいた。
「はあ、はあ、大変なんだよ!」
呼吸を整える間もなく、ハーベルは言葉を紡ごうとする。
「はい、水。」
ネルが慌てて水を汲み、ハーベルへと差し出した。
「はあ、あ、ありがとう…。」
ハーベルはそれを一気に飲み干すと、ようやく一息ついた。
「ハーベル、どうしたの?」
ネルの瞳が心配げに揺れる。
「ああ、カザキ先輩が、カザキ先輩が……。」
「ええ、カザキさん?」
ネルは首をかしげながら聞き返す。
「カザキ先輩が、何かに取り憑かれ人を襲っていたんだよ!」
ハーベルが大声で叫ぶ。その声に驚かされ、家の奥から次々と仲間たちが姿を現した。
「ハーベル、うるさいな!」
寝ぼけ眼のフレアが、頭をかきながら起きてくる。
「どうされたのですか?」
アクシアが眉を寄せ、冷静に状況を確認しようとする。
「高等部の先輩が、何かに取り憑かれて……。」
ハーベルは悔しそうに拳を握り締めると、勢いよく床を殴りつけた。
「ハーベル、深呼吸してゆっくり教えて!」
クラリッサが落ち着いた声で言いながら、ハーベルの肩に手を添えた。
「ふーー、ああ、ごめんよ…。」
ハーベルは大きく息を吐き、少し落ち着きを取り戻した。
「いいのですよ。」
「そうですよ!」
仲間たちが優しく声をかける。
「ハーベル、とりあえず、そのカザキさんと出会った場所へもう一度行ってみましょう!」
クラリッサが冷静な判断を下した。
「うん、ありがとう、クラリッサ…。」
ハーベルは彼女の言葉に頷くと、覚悟を決めるように背筋を伸ばした。
すぐに「零式」を発動し、仲間たちをさっきの場所へと移動させた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
夜の帳が降りた森の中は、不気味な静寂に包まれていた。
「もう、誰も居ないわね…。」
ネルが辺りを見回しながら呟く。風に揺れる草木が、かすかな音を立てていた。
「お待ちになって、あちらから声が聞こえますわ!」
アクシアが鋭く指をさす。
その方向へ駆け寄ると、再びカザキが別の人たちを襲っているのが見えた。
「カザキ先輩!」
ハーベルが躊躇なく動き、斬られそうになっている人の間に飛び込む。その一撃を短剣で受け止めた。
「ああ、助かった…、ありがとう、ありがとう…。」
怯えた様子の男性が、腰を抜かして地面に座り込む。
「大丈夫ですか?」
クラリッサが優しく手を差し伸べ、その人を助け起こして逃がす。
「くそ、またお前か!?今度こそ、殺す!」
カザキの目には狂気が宿り、容赦ない剣撃がハーベルに襲いかかる。
「今の俺は、そう簡単にはやられませんよ!」
ハーベルは強がりを言いながら、その激しい剣をなんとか受け流す。
「クラリッサ、何か分かる?」
ネルが涙を堪えながら尋ねる。
「あの、モヤが!物凄い闇の力を感じます……。」
クラリッサの声には、かすかな震えが混じっていた。
「ハーベル、神聖魔法ならなんとかなるかも!」
フレアが叫ぶ。
「分かった。神聖:応用魔法6!ディバイン・パージ!」
ハーベルが詠唱すると、カザキの背後に光輝くオーラを纏った女神が現れる。その神聖な光が優しく包み込み、カザキの身体を浄化し始めた。
闇に満ちたモヤが苦しみながらもがく。そして次第にその姿が消えていった。
「カザキ先輩!」
ぐったりして倒れかかるカザキを、ハーベルがしっかりと抱き止める。
「フラン、回復をお願い!」
「任せておいて!」
フランが静かに歩み寄り、祈るように目を閉じた。その瞬間、美しい光の粒がカザキの身体を包み込む。
やがてカザキの顔色がみるみる回復し、力を取り戻していった。
「…あれ。オレは何をしていたんだ?」
カザキは困惑したように周囲を見回す。
「カザキさん!」
ネルが飛びついた。
「ええ、ネル?はあ?ハーベル!?」
混乱するカザキに、ハーベルは安心したような笑顔を見せる。
「カザキ先輩が、やっと正気に戻った!」
ハーベルがガッツポーズをして歓喜の声を上げる。
「正気!?ハーベル、どういうことだ?」
カザキが鋭く詰め寄った。
「分かりましたから、放してください!」
ハーベルはカザキの腕をしっかり掴み、彼を落ち着かせる。
「すまん……。」
カザキは悔しげに視線を落としながら、ゆっくりと手を放した。
ハーベルは、これまでの出来事を丁寧に語り始める。
「オレは…何てことを……。ハーベル、すまん…。」
カザキは拳を握り、震えながら地面を殴りつけた。
カザキの話によると、彼のパーティーは風の神殿での戦闘中、突如として現れた悪魔に襲われたという。そして、前衛にいたカザキだけが呪われ、そのまま意識を乗っ取られてしまったらしい。
「じゃあ、さっきの四人はパーティーメンバーですか?」
「ああ…どうしよう……。」
「一応、俺が町まで送りましたが…。」
「そうか、ありがとう…。」
カザキはしばらく沈黙し、深い絶望を抱えているようだった。
「ハーベル、ここはあまり良くない気配がします。移動して話しましょう!」
クラリッサが鋭い眼差しで提案する。
「分かった。ありがとう、クラリッサ!」
ハーベルは「零式」を発動し、仲間たちを町へと移動させた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
その瞬間、不気味な声が響く。
「おや…気がつかれましたか……。まあいいでしょう!次は、ありませんよ……。フフフ…。」
闇の奥から、不吉な気配が漂っていた。
次回 闇に囚われた戦士と仲間の絆
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頑張って続きを書いちゃいます!