操られし剣士と漆黒の影
草原の真っ只中にポツンと一軒家が立っていた。
透き通る爽やかな風を感じながら、朝の太陽の光をいっぱいに浴びて、ハーベルは気持ちよさそうに伸びをした。清々しい空気が肺の奥まで届き、体が軽くなるような感覚を覚える。
「おはよう、ハーベル。」
ネルが二番手で起きてきて、元気よく挨拶をした。髪は寝癖でふわふわしていて、まだ眠気が残っているような顔をしている。
「おはよう。」
ネルの愛らしい寝起きの顔を見て、ハーベルは思わず満面の笑みを浮かべた。
「これから、先に町へ一飛びして、みんなを『零式』で送れるように町を確認してくるよ。」
「うん、お願い。」
ネルは軽くうなずきながら、キッチンの方へ視線を向けた。
「みんなが起きたら、伝えておいて。」
「分かったわ。朝ごはん作って待ってるね。」
ネルが可愛らしく手を振った。
「これは、朝から楽しみが増えた!」
ハーベルはそう言って勢いよく飛び上がると、一瞬で町の方へと飛んでいってしまった。
「こうしちゃいられない…美味しいのを作って、ハーベルを驚かせなくちゃ!」
ネルは腕まくりをして、朝食の準備に取りかかった。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
ハーベルが北の町へ向かっていると、遠くに数人の人影が見えた。
「戦闘か?」
風を切る速度を少し落とし、近くの茂みに降り立って様子を観察する。一人の剣士が、四人を相手に激しく剣を振るっていた。刃がぶつかり合う音が響き、砂埃が巻き上がる。
「何、どういう状況だ?」
視線を凝らして観察すると、一人の剣士が四人を一方的に襲っているように見える。防御に回るばかりで、反撃の気配はない。
「これは、助けに入った方がよさそうだ!」
ハーベルは躊躇なく四人の前に飛び出した。
「やめろ。」
「うるさい!邪魔をするならお前も斬るぞ。」
剣士は勢いよく振りかぶり、鋭い切先をハーベルに向けた。
「ああ、助けてくれ!」
四人のうちの一人がハーベルの足にしがみついてくる。息を切らし、目を潤ませている。
「俺が、アイツの気を引き付けます!そのうちに逃げて下さい。」
「分かった、ありがとう。」
四人は互いにうなずき、示し合わせるように一斉にバラバラの方向へ駆け出していった。
「くそ、逃げるな!」
剣士が、ハーベルに斬りかかってくる。
ハーベルは、金剛の短剣でなんとか凌ぐと、
「やめろって、言ってるだろ!」
相手の腕を掴み、怒りと戸惑いの入り混じった声で叫んだ。
「ええ、カザキ先輩!?」
ハーベルは目を丸くしてカザキを見つめた。
「お前なんか、知らん!」
カザキの様子がおかしい。目の焦点が定まっておらず、青白い顔からは生気が感じられない。
「高等部でお世話になった、ハーベルですよ!」
「知らん!」
叫びながら、さらに斬りかかってきた。刃が空気を裂き、殺気が肌を刺す。
「やめて下さい!」
ハーベルはまたしてもギリギリのところで凌いだ。
•••••••••
何かに操られている?
前にもまして剣撃が冴え渡っていて、凌ぐのがやっとだ。
まるで、鬼神のようだな!
•••••••••
ハーベルは顔をしかめながら考えた。
そのまま少し距離をとると、
「神聖:第6応用魔法!ルミナス・チェイン!」
ハーベルはカザキを神聖な光の鎖で拘束した。
しかし、カザキは両手に物凄い力を込めると、そのまま断ち切ってしまった。
「嘘だろ!」
ハーベルはあまりの出来事に目を疑った。
「うりゃーー!」
カザキが雄叫びをあげる。その時、首の後ろあたりにどす黒いモヤのようなものが揺らめくのが見えた。
「あれか!」
ハーベルは零式で、一瞬で背後に回る。しかし、そのモヤを振り払おうとするも、とれる気配はない。
「どうなってるんだ?このままじゃ、カザキ先輩が……。」
焦りながらカザキを見つめる。
「くそ!今度邪魔したら、殺すからな!」
カザキが吐き捨てるように言うと、背中から大きな漆黒の煙が立ち込め、そのままスーッと姿を消してしまった。
「先輩!」
ハーベルは手を伸ばすが、無情にも届くことはなかった。
ハーベルは、逃げた四人を探しだし町まで送り届けると、すぐさま家へと逆戻りした。
次回 風の神殿の呪い:悪魔の影を追え!
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頑張って続きを書いちゃいます!