残酷な選択:仲間か、追放か!?
「このまま楽に35階層までいけそうね!」
リーフィアが軽く言うと、ネルが少し不安そうに顔を曇らせた。
「でも、なんかおかしくないですか?」
ハーベルの顔が疑いに変わる。
「確かに…。」
「ここまで、お仲間さんが戦闘していた形跡が一切なかったけど…。」
クラリッサが杖でトンと床を鳴らした。
「本当に、潜っているのかしら?」
リーフィアは慎重に提案する。
「とりあえず、35階層のボスを倒したら、一度戻りましょうか!」
「はい!」
一同の息はぴったりだった。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「35階層はどうですか?」
ハーベルがネルに確認する。
「土偶です…。」
「土偶って、あのずんぐりむっくりの?」
「ハーベル、ずんぐりむっくりってなんだよ!」
フレアがなぜか切れてきた。
「いや、ドン、ドン、ドンみたいな?」
ハーベルが少しイヤらしい手付きをすると、
「なに言ってるの?」
クラリッサが呆れたように言う。
ハーベルが扉を開けると、そこには巨大な土偶が立ちはだかっていた。
「ああ、そういうことか…。」
「あれが、土偶なんだ…。」
「なるほど…。」
女性陣は妙に納得してしまった。
フレアが一気に間合いを詰め、刀を振りかざす。
シュピン、シュパン…。
土偶の頭、胴体、足が切り離され、バラバラになる。
「ふーーー。」
フレアが刀をスタンと鞘に納めた。
しかし――。
「危ない!まだ、倒してませんよ!」
ネルが叫ぶ。
土偶の各部が三つの円盤となり、高速で回転しながら襲いかかってきた。
「危ないな!」
一体がフレアに襲いかかると、フレアは刀で受け止める。
キュルキュルとすごい音を立てながら、ギリギリのところで耐えている。
残りの二体もハーベルたちに襲いかかる。
「風:第7上級魔法!ゼファー・シールド!」
ハーベルが詠唱すると、全員を覆う風のシールドが瞬時に作り出される。
「百花繚乱!」
フレアが何とか足の部分を粉砕する。
ところが――。
破片が念力のように空中に浮き上がり、みるみる元の足の姿に戻っていく。
「うっそ!」
中央に頭、胴体、足が揃うと、土偶は合体し、土偶戦士へと姿を変えた。
「今がチャンスよ!」
ここぞとばかりにネルが叫ぶ。
「土:第6応用魔法!ガイア・スピア!」
ハーベルの詠唱で、土偶戦士の真下から槍が中央を貫き、天井まで伸びて突き刺さる!
土偶戦士は回転して逃れようとするが、動きが取れない状態に陥っている様子だ。
「今です!アクシアさん!」
ネルが再び叫んだ。
「ディープブルーショット!」
アクシアが放った水流の矢が土偶戦士の頭を貫いた。
回転が止まり、土偶戦士はそのまま粉々になってしまった。
「やっとか…もう、戻るなよ…。」
ハーベルが祈るように言う。
「とりあえず、入り口まで戻ろうか…。」
ハーベルがそう言って、
「零式!」
空間の裂け目を作り出し、全員を入り口へと送り届けた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
入り口に戻ると、物陰から四人の冒険者が飄々と現れた。
「おい、ネルどこ行ってたんだよ!」
軽薄そうな男が声を掛けてきた。
「はあ、ご、ごめんなさい…。」
ネルは怯えた様子で答える。
「本当よ、あんた、役立たずのくせにパーティーに入れてもらえるだけ、ありがたいと思いなさい!」
腕組みをしながら足を小刻みに揺らしてイライラしながら女が叫ぶ。
「マジで、使えねえ!」
ペッともう一人の男が唾を吐き捨てた。
「なんで、ここにいるの?さっさと消えてくれない!」
もう一人の女が長い髪をかきあげながら、吐き捨てるように言うと、
「おい、それは言いすぎだろ!」
さすがにハーベルが間に割り込んだ。
「そうか?ハハハ…。」
四人はネルを笑い者にして冷たいし視線を浴びせている。
「お前ら!ネルさんに謝れ!」
ハーベルが怒りを露わにして叫んだ。
「なんだ、てめえ、殺したろか!」
軽薄そうな男がナイフを抜いてチラつかせながら半笑いで言った。
「くう、こんなに腹が立つのは何年ぶりかしら!」
温厚なリーフィアもさすがに怒りを隠せない。
「このグズが!」
もう一人の男が剣でネルに斬りかかる。
ネルは怯えてへたり込んでしまう。
素早くフレアがそいつの剣を振り払うと、剣ごと吹っ飛び、神殿の壁に激突する。
「弱っ!」
思わずフレアが吐き捨てるように声を漏らす。
「ハーベル、ちょっときつめのお仕置きが必要のようね!」
「師匠、任せてください!」
ハーベルは一瞬で片手に二人ずつ持ち、急上昇で空高く飛び上がる。
「なにするんだ…。」
「まさか、お前…。」
「ああ、そのまさかだよ!」
ハーベルは四人を手放し、空中へと投げ出した。
「うわーーーーーー!」
「だじげてーーーーくれーー!」
「キャーーー!」
「うう、死んだわ…。」
ハーベルは一瞬で地面へ戻り、落ちてくる四人を地面すれすれでキャッチして見せた。
「うはーーーハハハ…。」
「死んだ…。」
「これで懲りたか!」
怒りに満ちた表情のハーベルが怒鳴るように言った。
「ハーベル、そんなことしちゃダメ!」
ネルが四人をかばうように両手を広げる。
「ネルさん…。」
ハーベルの表情が困惑へと変わる。
「今まで、役立たずの私をパーティーに入れてくれてたんだよ!」
ネルは悲しそうな顔をしながらも一生懸命に庇っていた。
「それは…。」
さらに混迷するハーベル。
「ネルさん、あなたは役立たずなんかじゃありませんわよ!」
「その通り!ネルさんは、素晴らしい方です!」
「そうだぞ、あんなに詳しく丁寧に作戦を立ててくれたじゃないか!」
「そうよ、作戦立案のスペシャリストね!」
一同が口々にネルへの称賛を伝えた。
「ネルさん、俺たちと行きませんか?」
ハーベルが手を出しながら悲しそうな表情で言う。
「でも、この方々が…。」
ネルも悲しそうにしながらも、ぐったりしている四人を見つめている。
「それは、俺がきっちり返してきます!」
ハーベルは再び片手に二人ずつ持ち、一瞬で高等部へ飛び、時計台のてっぺんに吊るした。
「はい、おしまい!」
ハーベルはゴミ捨ての後のように手をパンパンと叩いた。
「ネルさん…。」
一瞬で戻ったハーベルはネルの手を優しく握る。
「ネルでいいよ!」
「はい、先輩!」
そこにはいつもの明るいハーベルがいた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
その頃、高等部の時計台に吊るされた四人はというと、レオンによって引きずり下ろされていた。
「なんだ、お、お前は………。」
怯えた顔の男が両手で制止するような仕草をしながら後退りしている。
「この野郎!死ね、死ね!」
呆気なく、ズタボロにされる四人。
こうして、レオンの心は少しずつ音を立てて壊れていった。
次回 新たな旅立ち:リーフィアの決断
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頑張って続きを書いちゃいます!