炎の神殿と孤独な戦士
26階層を越えると、ダンジョンは広い部屋のような構造になっていた。これまでの狭い通路と違い、開けた空間は戦闘の自由度を格段に上げていた。
「広くなって、戦いやすくなった。」
ハーベルがナイフを手に、戦闘のシャドウを始める。軽快に動きながら、自身の戦闘感覚を研ぎ澄ませる。
しかし、その静けさを破るようにクラリッサが鋭い声を発した。
「静かに!」
クラリッサが皆を制止した。
「何か声が聞こえますわ…。」
アクシアが指をさす。
耳を澄ませると、どこかで戦闘の気配がする。
「とりゃ!うお、だっ!」
女性の叫び声と共に、激しい戦いの音が響いていた。
「誰か、魔物に襲われている?」
ハーベルが緊張した面持ちで言う。
「あれは、多数の魔物に一人が襲われています。」
クラリッサが不安そうにハーベルの腕にしがみつく。
見れば、数体の魔物が一人の女性を取り囲んでいた。彼女は必死に応戦していたが、魔物の数と力に押されつつあった。
ハーベルが、一瞬で彼女のところへ移動すると、素早く手を掴んでリーフィアの元へと飛んだ。
「師匠、少しお願いします!」
ハーベルは、その女性をリーフィアへと預けると、直ちに戦闘の指示を出す。
「アクシア、弓で殲滅お願い!」
「分かりましたわ!」
アクシアは深海弓を構え、一瞬で魔力を矢へと込める。
「クラリッサ、ネクロマンシーで周囲を警戒して!」
「了解しました!」
ハーベルが彼女の火傷のひどさに気がつき、すぐに治療の準備を始めた。
「今、回復しますね…すごい火傷だ…。」
ハーベルが心配そうに呟く。
「師匠、【神ノ雫石】で綺麗な流水を使い、火傷をゆっくり冷やしてあげてください!」
「了解よ!」
リーフィアが【神ノ雫石】を取り出し、魔力を込めると、澄みきった水が女性の傷へと流れ落ちる。炎で焼かれた皮膚を優しく冷やしながら回復を促す。
ハーベルはさらに治療を施すべく、詠唱を始めた。
「薬剤:第5応用魔法!アズレデュース!」
彼の魔法が発動すると、火傷部分に抗炎症の魔力が広がり、痛みを和らげていく。
「光:第7上級魔法!セレスティアル・レストレーション!」
ハーベルが傷へ向けて詠唱すると、みるみる綺麗な肌へと治っていった。
女性の息が落ち着き始め、表情が柔らかくなっていくのが分かる。
「ああ、よかった…。」
「女性にあんな傷を残すわけにはいきませんからね…。」
ハーベルが彼女の身体を優しく支えながら言った。
「ハーベル、ありがとう…。」
弱々しい声でその女性が呟いた。
ハーベルがその声に驚いて顔を見直す。
「ええ、フレアさん!?」
「ハーベル、知り合いなの?」
「中等部で一緒だった、フレアさんです!」
目の前にいたのは、かつての知人だった。
「ハーベル、ありがとう。」
フレアが立ち上がり、もう一度お礼を言って頭を下げた。
「フレアさん、ここまで一人で来たんですか?」
「修行で来ていたんだが、急に魔物がたくさん湧いてきて、対処しきれなくなった…。」
「そうだったんですか…。」
「リフレッシュ!、リゲイン!」
ハーベルはついでに、魔力回復と体力回復の魔法をかけた!
「ありがとう…。」
フレアは懐かしそうにハーベルを眺めながらお礼を口にした。
•••••••••
フレアは、実家が道場で師範の父親に修行の旅に出るように言われ、各地のダンジョンを巡っていた。
炎の神殿には、神器を探しに来ていたのだった。
•••••••••
「じゃあ、俺たちと行きましょう。」
ハーベルが優しく手を添えながら提案する。
「でも、それじゃ修行にならないし、アイテムも分配しないとな…。」
フレアは迷っているようだった。
「アイテムは、要らないからフレアがもらえばいいよ!」
ハーベルがそう言うと、皆も頷いた。
「でも…。」
申し訳なさそうに俯くフレア。
「俺は、一人で何でもすることが、必ずしもいいとは限らないと、仲間に教えてもらった。だから、フレアにも知ってもらいたいんだよ!」
「フレアさん、この方たちは信頼のおける方々です!私も先日助けられたばかりですのよ!」
アクシアがフレアの肩に優しく手を置いた。
フレアは仲間を得ることに躊躇いを感じていた。これまで一人で戦ってきたため、誰かと共に戦うことへの戸惑いがあったのだ。
しかし、ハーベルの言葉とアクシアの優しい励ましが、その迷いを吹き飛ばしたのだった。
「うん、お願いできるか?」
フレアは少し嬉しそうに言った。
「もちろん!フレア、よろしく!」
ハーベルが手を差し出す。
「うん、よろしく!ハーベル!」
フレアも元気を取り戻したようにハーベルの手を掴んで嬉しさを噛みしめるように握手するのだった。
次回 戦場の美しき花:剣士の誇り
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頑張って続きを書いちゃいます!