水の神殿最深部:姫と勇者の絆
闇の研究所にレオンが帰還していた。
薄暗く、鼻につく嫌な臭いが充満する、レオンが最も嫌う場所。
死んだ目をしたレオンが、重い足取りで姿を現した。
「メルギド博士、申し訳ありませんでした。」
「失敗ですか…。」
博士が冷静に問いかける。
「はい。ハーベルが姫の護衛に…。」
「なるほど、ハーベルさんですか…。」
メルギド博士の表情が明らかに変わった。
「ハーベルさんはどうでしたか?」
「はい、かなり強くなっているようでした…。」
「ほほう、あなたとどちらが強いでしょうね…。」
「はあ…。」
レオンはあえて答えなかった。
「まあ、いいでしょう!今回の任務は、私が先方にいいように報告しておきます!」
「はい…。」
「ただし、もう後はありませんよ!」
「分かっています!」
レオンは歯を食いしばった。
メルギド博士はニヤニヤと不気味に笑い、何かを想像しているようだった。その表情を見たレオンは、何とも言えない感情が爆発しそうだった。
「ハーベル…。」
レオンは何かを睨むように拳を握りしめる。
「しばらくは、そのままハーベルさんの監視を続けなさい!」
「姫は?」
「放っておきなさい…ハーベルさんには、決して手を出してはいけませんよ!」
「了解しました!」
レオンの表情は憎悪と共に少し安堵していた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「アクシア様、お姫様なら先に言ってください!」
ハーベルがかしこまっていた。
「皆さん、勝手なことを言って申し訳ありません。それと、今まで通りに接して頂けると助かります!」
アクシアは頭を下げた。
「アクシア、頭を上げて!」
「お師匠様…。」
「アクシアもこう言っていることだし、そうしましょう!」
リーフィアが皆に声をかけた。
「ありがとうございます!」
「水の神殿は、55階層までにしておきましょう!」
リーフィアがそう言うと、
「分かりました。」
「了解!」
「分かりましたわ!」
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
「55階層のボスって何かしら?」
アクシアが心配そうに尋ねた。
「なるほど…そうきたか…。」
「イカね…。」
「イカか…。」
「属性的に何が効くのかしら?」
「そうね…。」
「まあ、いろいろ試してみるしかないか!イカだけに…。」
し~~~ん。
「じゃあ、開けまーーす…。」
ハーベルは罰が悪そうに扉を開けた。
「おお、クラーケンJr.!?」
「何でジュニアなんでしょう?」
「そんなこといいから、敵に集中して!」
リーフィアが激を飛ばす。
「闇と風の精霊に感謝します。闇の恐怖、暴風の力、クラーケンJr.に幻を!
幻惑:第5応用魔法!ネザー・ヴェール!」
クラリッサが邪神の杖を華麗にくるりと回した。
クラーケンJr.の頭上に薄い紫色のヴェールが、妖艶な雰囲気で包み込んでいった。
クラーケンJr.の動きが止まった。
「ブリザード・プリズン!」
さらに、アクシアが荒れ狂う吹雪の檻に閉じ込める。
「来た来た!」
ハーベルが飛び上がって空中で制止すると、
「雷鳴:第7上級魔法!テンペスタス・オーバードライブ!」
黒雲が立ち込め、ビリビリと雷光が走る。
凄まじい竜巻と共に雷鳴が轟き、ブリザード・プリズンごとズタズタに吹き飛ばした。
「ハーベル、めちゃくちゃしすぎ!ってそうでもないかいも?!」
クラリッサが言いかけたその瞬間―― 。
ドヒャーーーーー!
クラーケンJr.が雄叫びをあげ、高速回転しながらすべてを弾き飛ばした。
「うそ!効いてない?」
「マジか…。」
「黒炎:第5応用魔法!オブシディアン・フレア!」
漆黒の太陽がクラーケンJr.の上へと落ち、黒い炎が包み込む。
しかし――。
「何だ、コイツ!硬すぎだろ!」
「どの属性も、効果が薄いようですね…。」
「どうする…。」
「あの表面の粘液がバリアの役割をしているようね…。」
リーフィアが嫌そうに顔を歪めている。
「粘液か…。」
ハーベルは昔、前世で見たテレビの料理番組を思い出しながら考えていた。
「最後にもうひとつだけ試してみたい魔法があるんだ!」
「光線:第5応用魔法!セレスティアル・レーザーグリット!」
清らかな光がシックスセンスの切っ先に灯り、格子状の光線が広がる。
クラーケンJr.の体を突き抜けた――。
「やったか!」
ギャヤーギャ、ギャ、ギャ!
「マジか、無傷って…。」
「いったいどうしたら倒せるのかしら…。」
リーフィアも考え込んだ。
「あの粘液さえどうにかできればね…。」
アクシアが呟いた。
「ああ、思い出した!アクシア!塩って大量に作れる?」
ハーベルが何かを思い出した様子で手をたたく。
「ええ、海水なら大量にあるので『精製』できますが?」
「その師匠の袋に、できるだけ多く作っておいて!」
「分かりましたわ!」
「クラリッサは、猛毒攻撃の準備を!」
「了解です!」
「塩ができたわよ!」
しばらくして、リーフィアが袋をハーベルへ投げた。
「零式!」
ハーベルが一瞬でクラーケンJr.の頭上へ飛ぶと、大量の塩をぶっかけ始め、塩まみれにしてしまった。
「なるほど、その手があったわね!」
リーフィアが手を叩いた。
すると、クラーケンJr.の粘液がみるみる固まっていき、カチコチになってしまった。
「土:第5応用魔法!ロック・フォール!」
大きな岩が次々と固まった粘液を砕いていった。
「今だ、クラリッサ!」
「闇と水の精霊に感謝します。闇の恐怖、天の恵み、クラーケンJr.に猛毒を!
毒素:第5応用魔法!ヴェノマス・エンブレイス!」
クラリッサが杖を掲げると、闇の女神が降臨し、クラーケンJr.を抱きかかえるように包み込む。
どす黒い毒のエキスが体中へ浸透し、内部から蝕んでいった。
「怖…!」
ハーベルが目を覆い隠した。
グギャーーーーー!
クラーケンJr.の断末魔が響き渡る。
「最後は、シザーズで切り刻んでやる!」
ハーベルが「切断」スキルを発動すると、クラーケンJr.の巨体は一瞬で粉微塵になってしまった。
「今のは、キツかったな…。」
ハーベルが息を整えながら呟いた。
「さて、お宝は?」
クラリッサが宝箱を開けると―― 。
【クラーケンJr.の目玉】2個
【神器:深海弓・ディープブルー】
【神ノ雫石】
【満月のネックレス】
【新月の指輪】
「うわ、大漁ですね!」
アクシアが喜んで手を叩いた。
【神器:深海弓・ディープブルー】
水属性アップ、炎耐性アップ。「的中」スキルにより使用者が水属性の場合、的中率が大幅に上昇する。
【神ノ雫石】
水属性アップの魔昌石。「源泉」スキルにより、水もしくはお湯を無限に出し続けることができる。
【満月のネックレス】
水属性大幅アップ、炎耐性大幅アップ。「新月」スキルにより【新月の指輪】を同時装備すると完全に姿と気配を隠せる。
【新月の指輪】
「満月」スキルにより、今困っていることを解決できる知恵を1日1つ得ることができる。
【クラーケンJr.の目玉】
至高の食材として高価に取引される、珍味。
「弓とネックレスと指輪は、アクシアが着けておいてね!」
「神ノ雫石は、私が頂いておくわ。」
リーフィアがアイテムをアクシアに渡した。
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アクシア ♀ 【ミズリア王国の姫君】
種族:マーメイド
武器:【神器:深海弓・ディープブルー】
魔法属性:水属性
固有スキル:「精製」
武器スキル:「的中」「満月」「新月」
光:応用魔法5
闇:応用魔法5
炎:応用魔法5
水:究極魔法10
風:応用魔法5
土:応用魔法5
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「こんなに頂いてよろしいのですか?」
「どう見てもアクシア用の装備だもんね!これで後衛からも攻撃できるようになるし!」
ハーベルがニコニコと笑いながら言った。
次回 深淵の守護者:紅き巨獣との死闘
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頑張って続きを書いちゃいます!