人魚の涙が導く運命の再会
鬼神のごとく突き進むハーベルの活躍で、一気に階層を進めていった。
「もう、45階層まで来ちゃったね。」
ハーベルが軽く息をつきながら言った。
「ハーベルが強すぎて…。」
クラリッサが少し呆れたように笑った。
「いや、そんなことないよ…。」
ハーベルは謙遜していたが、仲間たちの視線には納得いっていない様子が漂っていた。
「ええ、このマークって!」
リーフィアが驚いて叫んだ。
「人魚だわ!」
「おお、これって来たんじゃない?」
ハーベルが飛び上がった。
「でも、ボスが人魚ってこと?」
「人魚と戦うの?」
「うーん…。」
皆で考え込んでしまった。
「まあ、開けてみるしかないね…。」
「そうね…。」
「では開けますよ!」
ハーベルが扉を開けると、美しい竪琴の音色が響き渡った。
岩の上には、艶やかな髪をなびかせた人魚が、背中を向けて静かに佇んでいた。
「この曲!」
アクシアが目を見開いた。
「お母様!」
彼女は涙を浮かべながら、その人魚に走り寄った。
「アクシアなの?」
「お母様!」
二人の声が重なり、感情が一気に溢れ出す。
そのまま抱きあって、身動きすらできない様子だった。
「ええ、アクシアのお母さん?」
「どういう状況?」
ハーベルたちは驚きながらも、そっと見守るしかなかった。
「ああ、皆さん、ごめんなさい…。」
アクシアが涙を拭きながら、こちらを振り返った。
「お母様です。」
「アクシアがお世話になりましたね…。」
人魚は静かにお辞儀をした。
「ええっと、状況がつかめないんですが?」
リーフィアが代表して問いかけた。
「私は、長らくここへ幽閉されていました。
ここへやって来た冒険者を誘惑して、頬へキスさせることができないと、この岩から離れることはできない呪いがかけられているのです…。」
人魚の声は震え、涙が頬を伝っていた。
「アクシア、人魚の涙ってこのことでは?」
岩の周囲に散らばる魔昌石が光を帯び、まるで今にも語りかけるかのように輝いていた。
【人魚の涙】
身に付けると人魚に戻ることができる。
「そういうことなら…。」
リーフィアたち三人が、そそくさとハーベルを人魚の前に押し出した。
「ああ、俺ですか…。では、失礼して、チュッ!」
ハーベルは少し恥ずかしげにしながらも、人魚の頬に優しくキスをした。
すると―― 。
「ああ、離れることができた!」
アクシアの母親は、嬉しそうにアクシアに抱きついた。
「お母様…いえ、女王!」
アクシアが急に膝をついた。
「ええ、女王様?」
「ってことは、アクシアはお姫様?!」
ハーベル一同は目を丸くした。
「皆さん、助けていただき、感謝いたします!」
女王様は、深く礼をする。
「いえ、もったいないお言葉…。」
「これは、一大事では?」
クラリッサが興奮していた。
「ハーベル、すぐに帰りましょう!」
「了解であります!」
ハーベルは敬礼すると、
「零式!」
大きな裂け目を開いた。
「女王様、どうぞ!」
ハーベルがエスコートして城の前まで送り届けた。
「なんと、礼を言っていいやら…。」
「お礼なんて、滅相もございません!」
皆、膝まづいていた。
「後日、必ず!」
女王様とアクシアは、静かに城の中へと入っていった。
「アクシアがお姫様だったなんて…。」
クラリッサがまだ興奮していた。
「なんか、しゃべり方が違うからおかしいと思っていたんだよね…。」
「そうよね。」
ハーベルとリーフィアが頷いていた。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
後日、ハーベルたちは女王様に招かれて、謁見の間へと訪れていた。
「先日は、ご苦労でした!」
「女王様、数々のご無礼、お許しください…。」
ハーベルが土下座で謝罪をしていた。
「いいえ、助けて頂いたのはこちらの方、感謝こそすれ無礼などとは思ってはおらぬ!
おかげで、この国の繁栄を取り戻すことができるであろう!感謝します!」
「もったいないお言葉…。」
ハーベルたちは、恐縮していた。
「アクシア、あなたにも苦労をかけました。」
「女王、お願いがあります!」
アクシアは真剣な目を向けた。
「何です?」
「私が、この者たちと旅に出ることをお許しください!」
「そう言うと、思っていました!」
「では?」
「ええ、許しましょう!ただし、ひとつ条件があります!」
「はい!」
「必ず、生きて元気な顔を見せること!」
女王様は母の顔となり、彼女の目にはかすかに光るものが見えた。
「はい、お母様!」
「アクシア、立派になりましたね!」
「ということで、皆さんよろしくお願いいたします!」
アクシアがにこやかに微笑みながら、深くお辞儀をした。
アクシアは女王様に挨拶と済ませると、その足でハーベルたちの元へと赴いていた。
その光景の一部始終を監視していたレオンが、物陰に隠れながら呟いた。
「チッ、タイミングが悪すぎる。今回は、アクシア姫の暗殺は断念するしかないか…。
まさか、ハーベルたちを皆殺しにするわけにもいかないし…そもそも勝てる気がしない…。」
レオンは、任務の遂行も失敗し、ハーベルに生きていることを伝えることさえできずにいた…。
次の瞬間、レオンの姿はすでになく、闇の静寂だけがその場を包んでいた。
次回 水の神殿最深部:姫と勇者の絆
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頑張って続きを書いちゃいます!