深淵の蟹王と雷鳴の刃
「今日は、25階層のボスからだね。」
ハーベルがやる気満々で言った。
「蟹か。」
「カニね。」
「この蟹、食べられるかな?」
「いや、魔物は食べられないでしょ…。」
クラリッサが嫌そうな顔をして言う。
「そうね、魔物を食べるという発想はなかったわね。」
リーフィアが手を顎に添えながら呟く。
「食べられません。」
クラリッサが言い切った。
「楽しいパーティーですわね。」
そのやり取りを見てアクシアがクスクス笑っていた。
「さあ、開けますよ。」
ハーベルがそう言ってボス部屋の扉を開けた。
「うわ、デカイな。」
「こんな大きな蟹、初めて見ました。」
「すごいですね。」
ゴクリ… 。
「これ、本当に食べれないの?」
ハーベルは蟹に目がなかった。
「だから…。」
クラリッサは呆れていた。
「そんなこと言ってないで。来るわよ。」
リーフィアが気合いを入れ直す。
「はい!」
ビックシザーは、巨体のわりにはハサミの動きが素早く、高速の突き攻撃でハーベルに襲いかかる。
シャキーン、シャキーン、シュッ、シャキーン、シュッ…。
「早すぎるわ。」
アクシアが口に手を当てた。
ハーベルは、そのハサミをすべて避けていた。
高速移動と「零式」スキルで次々を襲いかかるハサミを見事に避けていった。
「ハーベルの動きも早すぎ…。」
「全然、目で追えないわね。」
ウキャーーーーーー!
怒ったビックシザーが、両手のハサミを大きく振り上げた。
「チャンス!」
「雷鳴:第5応用魔法!サンダー・ストライク!」
ハーベルの詠唱で三本の雷撃がビックシザーのハサミと本体を直撃したように見えた。
「やった。」
クラリッサがそう叫んだ瞬間…。
ブクブク、ブクブク、ブクブク… 。
ビックシザーが泡だらけになっていて雷撃は分散され、効果は薄いようだった。
「泡のバリアか…。」
ハーベルが悔しそうに呟く。
「闇と風の精霊に感謝します。闇の恐怖、暴風の力、ビックシザーに幻を。
幻惑:第4応用魔法!ピアシング・ファンタズム!」
クラリッサが詠唱しながら邪神の杖を振り上げた。
ビックシザーの目の前に幻影の大きな槍が六本輪になって現れると、一本ずつビックシザーの本体を貫いていった。
ビックシザーは振り払おうとするが、すべてすり抜けてしまった。
突き刺さった槍は、ビックシザーの精神を次々と破壊していった。
ビックシザーの動きが止まった。
「今です。」
「了解。」
「黒炎:第4応用魔法!ネザー・ブレイズ!」
ハーベルが、シックスセンスを杖のようにして掲げた。
シックスセンスの先から、漆黒の炎がフッと着いたかと思うと、ビックシザーが突然、黒い炎に包まれ一瞬で丸焼きになってしまった。
「何、今の黒い炎…。」
アクシアが驚いているようだった。
「今のは、闇と炎の合成魔法ね。」
リーフィアが説明しながら腕組みをしている。
「いったい、ハーベルは何属性なんですか!?」
アクシアが不思議そうに尋ねた。
「俺は、全属性みたいなんだ。」
「ええ、全属性って本当にいるんですか…。」
「私も驚いたわ…。」
クラリッサがウンウンと頷いている。
「焼きガニって美味しいんだよ。」
ハーベルがヨダレを垂らして言うと、
「もう、その話はいいですって…。」
クラリッサがプンプンと怒りながら腰に手を当てていた。
「うう、美味しいのに…。」
ハーベルは悲しそうに小さく呟いた。
次回 ゼリーの怪物と禁断の術式
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