人魚の願い:神殿へと続く旅路
ハーベルは食料の調達と探索のため、人気のない海岸線へと足を運んでいた。
「本当に、何にもないな…さっきの人魚さんもいないな…。」
潮風が吹き抜ける静かな海岸で、独り言を呟きながら砂浜を歩く。
「こうなったら、自分で魚でも獲ってみるか!」
そう言いながら、ハーベルは袋から鉄のインゴットを取り出した。
「鉄の網を作ってみようか…。」
器用に細い針金を作り出し、網状に編み込んでいく。しなやかでありながら強度のある網が次第に形を成していく。
「よし、これを海に浮かべて…。」
ハーベルは網を水面に広げると、魔法の詠唱を始めた。
「雷鳴:第5応用魔法!ハイパラライズ!」
金属の網に魔力が宿り、電流が放たれた。
網を中心に広範囲にわたって放電し、水面に激しい波紋が広がる。しばらくすると、次々と魚が痺れて浮かび上がってきた。
その中に、大きな影が動いた。
「…ああ、あれは人?ヤバい!」
ハーベルの顔が驚愕に歪む。すぐさま海へ飛び込み、浮かび上がった影を掴んだ。力強く腕を伸ばし、波に揺られる身体を岸へと引き上げる。
「…さっきの人魚さんだ。」
ハーベルは水滴を拭いながら、目の前の人影を確認する。
彼女は意識を失ったまま、浅い呼吸を繰り返していた。
ハーベルは迷うことなくテルミットを掲げた。
「大変です!師匠、さっきの人魚さんにパラライズをかけてしまいました…すいません…。」
「こっちへ寝かせて!」
「ハイライフ!」
ハーベルが詠唱し、魔法の力で体力を回復すると、彼女を優しく寝かせた。
「パラライズは、痺れが回復するのを待つしかないか…。」
その時、駆け寄る足音が聞こえた。
「ハーベル、どうしたんです?」
クラリッサが息を切らしながらやってくる。
「ああ、さっきの人魚?」
「やっちゃいました…。」
「ええ、殺しちゃったの?」
「いや、パラライズですって…。」
「ビックリした…。」
「…ああ、ここは?」
低い声が響く。
アクシアがうっすらと目を開けた。
「ごめんなさい…。」
ハーベルはすぐさま土下座し、深く頭を下げた。
「ええ、私はどうなったの?」
「俺がミスして、パラライズをかけちゃいました…ごめんなさい…。」
アクシアは自分の手を動かそうとするが、まだ完全には力が戻らない。
「急に痺れたからビックリしちゃった…。」
「申し訳なかったわね、うちの弟子が…。」
リーフィアもアクシアに向かって丁寧に頭を下げる。
「私は、リーフィアといいます。あなたのお名前は?」
「私は、アクシアと申しますの!」
「アクシアさん、お詫びと言ってはなんですが、よろしかったら夕食でもご一緒にいかがですか?」
「ええ、嬉しいお誘いですわ!」
アクシアはふわりと微笑みながら、ゆっくりと身を起こした。
「ええ、足が…。」
その様子を見ていたハーベルの表情が驚きに変わる。
「ああ、人魚は陸に上がると、足で歩くこともできるのですよ。ただし、時間制限がありますが…。」
「どのくらい人間でいられるんですか?」
「そうですね、半日くらいなら大丈夫ですわ!」
「それを超えると?」
「人魚に戻れなくなってしまいます…。」
「それは、大変だ…。」
ハーベルは無意識に息を呑んだ。
⭐☆☆☆☆☆☆⭐
テーブルについた四人が楽しそうにリーフィアの美味しい食事に舌鼓を打っている。
「お口に合いますか?」
ハーベルがアクシアに尋ねる。
「ええ、こんな美味しい食事、食べたことがありませんわ!」
アクシアは夢中で食べ進めている。
「よかった!」
「師匠、アクシアさんにテルミットを渡してもいいですか?」
「そうね、お詫びにどうぞ。」
リーフィアがアクシアに光る珠を手渡した。
「何でしょうか?綺麗ですね!」
アクシアは不思議そうに珠を眺める。
「ここは、私が説明します!」
クラリッサが説明を買って出る。
「なるほど、とても便利そうですね。ありがとうございますわ!」
アクシアは丁寧にお辞儀をした。
「あの~もしかして、水の神殿へ行かれるのでしょうか?」
「はい、俺の修行に行くつもりです!」
「大変ぶしつけとは存じますが、私もご一緒させていただけないでしょうか?」
「俺は、全く問題ないですが…。」
ハーベルが後ろを向くと、リーフィアとクラリッサが微笑んでいた。
「うん、オッケーです!」
「オッケー?」
「アクシアさん、了解したということです…。」
クラリッサが説明した。
「アクシアさん、差し支えなければ理由を教えていただけますか?」
リーフィアが丁寧に尋ねる。
「実は、私、人間になりたいのです!でも、完全に人魚に戻れないというのも困るのです…。そこで、いい噂を聞いたのです!」
「どんな?」
「何でも水の神殿に【人魚の涙】というアイテムがあって、それを身につければいつでも人魚に戻れるというのです!」
「なるほど、それをゲットするのが目的なんですね!」
「ゲット?」
アクシアが不思議そうに首をかしげる。
「ハーベル!もっと分かりやすい言葉で話して!」
クラリッサが少し怒る。
「じゃあ、決まりだね!」
ハーベルは嬉しそうに笑った。
「では、お師匠様、よろしくお願いいたします!」
アクシアが丁寧に頭を下げた。
次回 水の神殿と封じられし秘密
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頑張って続きを書いちゃいます!