水の都の謎と沈黙の港町
ミズリア王国は、「水の都」とも呼ばれる美しい国で、国じゅうに水路が張り巡らされている。その水路は交通網として発展し、輸送手段としても活用されていた。また、水産物が豊富で国全体が潤い、大きな港を多く抱え、輸出入や観光業で莫大な利益を生む、まさしく産業大国だった。
この王国の第一王女、アクシア様は奔放な性格であり、宮廷の監視の目を盗んでは町へ赴き、市内の探索を趣味としていた。そして、彼女は「この国随一の水魔法の使い手」として、民衆の間で広く噂されていた。
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「師匠、これからどうしますか。」
クラリッサが心配そうに尋ねた。
「全く勝てる気がしません…強くならないと。」
ハーベルの表情には焦りが滲んでいた。
「ハーベル、焦ってもしょうがないわ。今は修行で力を蓄えて、悪魔の襲撃に備えるしかないわね。」
リーフィアがハーベルの肩にそっと手を置いた。
「師匠、おそらく悪魔たちはこちらを執拗に狙ってきます。なるべく移動した方が得策かと。」
「私も同感よ。」
リーフィアとクラリッサは顔を見合わせ、静かに頷いた。
「そう言えば、クラリッサ。悪魔がいるということは、天使もいるのかな。」
ハーベルがふと疑問を口にした。
「ええ、天使は確かに存在します。ただ、私は今まで会ったことがありませんが…。」
クラリッサは軽く首を横に振った。
「そっか。天使が仲間になってくれたら心強いのに。」
「ハーベル、それは難しいかと思いますよ。天使は気位が高く、人間やエルフをほとんど相手にしていませんから。」
「なるほど…。」
「ああ、あと二人にお願いしたいことがあるんだけど。」
「何?」
「どうしたの、ハーベル?」
「かわいい動物の人形をこのくらいの大きさで作って欲しいんだけど。」
ハーベルが、スイカほどの空間を両手で囲う仕草をしながらお願いする。
「分かったわ。」
「お安い御用よ。」
リーフィアとクラリッサは即座に快諾した。
「ちょっと試してみたいことがあるんだ…。」
ハーベルは鼻歌交じりで楽しそうだった。
「では、ここから南へ行くとミズリア王国があるわ。そこに水の神殿があるから、そこで修行しましょう。」
「了解。」
「分かりました。」
「クラリッサ、移動はどうする?」
「俺の絨毯に一緒に乗っていく?」
「いいえ、私は飛べるのですよ。」
クラリッサは美しい透き通った羽を広げて見せた。
「うわ!透き通っていて綺麗だね。」
ハーベルが目を輝かせながら褒めると、クラリッサは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「でも、疲れたら乗せてもらえると助かります。」
「うん、いつでも言って。」
ハーベルはにっこり笑った。
「水属性か…俺たちで攻略できるかな。」
「あら、あら、このパーティーなら大丈夫だと思うけど。」
「私もそう思います。」
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「あれが水の神殿かな。」
目の前に広がる海の上に、荘厳な神殿の柱がそびえ立っていた。柱は海面に反射した光を受けて煌めき、幻想的な輝きを放っていた。
「そうね。神殿へ行く前に、近くの町で情報収集しましょう。」
「分かりました。」
ハーベルたちは、近くの漁業が盛んと思われる町へと降り立った。
しかし、そこは活気の欠片もなく、水産業で栄える港町とは思えないほど荒廃していた。
「何か食べられるところとかありますかね。」
ハーベルが食堂を探していると、
「あんたら、こんなところへ何しに来たんや。」
みすぼらしい格好をした老婆が突然声をかけてきた。
「こんなところ、何もありゃせんぞ!」
老婆はそんな捨て台詞を吐き、そのまま去ってしまった。
「なんだ、この町…。」
「いくら何でも寂しすぎるわね…。」
「おかしいわね。ミズリア王国は豊かな国だって聞いていたんだけど。」
「これは、ダメそうですね…。」
諦めかけて海辺を歩いていると、岩場に腰かけている長い髪の美しい女性の姿を見つけた。
「すいません。」
思わずハーベルが声をかけると、
「はっ!」
女性は突然驚きの表情を浮かべると、勢いよく海へ飛び込んでしまった。
「ええ、今のって人魚ですか。」
「そうみたいね。」
「私も、初めて見ました。」
三人は驚きの表情で顔を見回す。
「じゃあ、あそこの岬に家を設置しましょうか。」
気を取りなおしてリーフィアが提案する。
「了解。」
ハーベルが家を取り出し設置し終えると、ちょうど夕暮れ時で、水平線に沈みゆく太陽が赤から白へと変わる、美しい景色が広がった。
次回 人魚の願い:神殿へと続く旅路
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