ケースⅢ 阪口琴音 1章
ーーー令和5年の自殺者21,818人。自ら命を絶つ者が後を絶たない中1人の悪魔が取り引きを持ち掛けて自殺を食い止める。そんな物語。
………「ねぇ、君泊まるところないなら僕の家来ない?」そう言って男は琴音に対して三本指を立ててみせた。三万円でやらせてくれないかと言う誘いか…
琴音は少し考えたがこんな所にいてもしょうがないので男について行こうとした。その時だった。
「琴音ちゃん探したよ。さあ一緒にお家へ帰ろう。」
美しい声の方を向くとそこにはハットを深く被りロングコートに身を纏った青年が立っていた。
今まで幾多もの男を相手にしていた琴音は直感的に彼は今まで会った男の中で一番イケメンであると悟った。「あ、ツレが来たので失礼します。」
そう言って三万円で誘ってきた男の元を去り美青年の元へと駆け出した。なぜ彼が私の名前を知ってるのかそんな疑問など持たずに…もっとも琴音にはそんな思考が出来るほど頭は良くなかった。琴音は学校でイジメられ小学校低学年の頃から不登校でまともな論理的思考が出来なくなっていたのだから。
そんな彼女に両親は厳しくは言わなかった。なぜなら両親の関心は二つ上の姉にあったからだ。そんな琴音は次第に家に寄り付かなくなり祖母の家に入り浸る様になっていった。そんな大好きな祖母も14歳の秋に亡くした。それから何年経ったかすら琴音は認識出来ていない。ただこの映画館の横で同じ様な年代の人達と屯していると心が落ち着くのだ。気がつくと琴音と美青年は人気のない小さな公園に辿り着いていた。
「あなた人生に絶望していますね…良い話がありますから少し時間良いですか?」美青年の問いに琴音は黙って頷いた。時間だったら有り余るほどある。