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ケースⅦ 河口恵一 2章 (2人だけののワンマンライブ)

………河口は今日も1人で駅前の定位置としている場所で演奏を始めた。夜になっても暑さはまだ残っており行き交う人々は早く家に帰るか駅前の居酒屋で一杯やろうかといった雰囲気であった。

そんな中この暑さの中でも長袖のロングTシャツに身を纏った青年が目の前に立っていた。彼は手拍子をしてないが河口の演奏をジッと耳を傾けていた。

そして今泉が作ってくれた曲を2曲とノンストップで歌い切り河口がその青年に話し掛けようとした次の瞬間青年は財布から1万円札を取り出し河口の目の前に置いてある空き缶に突っ込んだ。

立ち去ろうとした青年に対して河口は思わず声を掛けていた。「こんな大金良いんですか?」

青年はそっと微笑むと「素晴らしい演奏だったので…

もしお時間良ければそこのファミレスでその演奏について語り合いませんか?お代は私が出すので。」

ファミレスに入ると青年から「よろしかったら何か食べて下さい。」と言われたので河口はありがたくハンバーグ定食を頼む事にした。

2人は簡単に自己紹介を済ませた。青年の名前は亜久田と言うらしい。

やがてハンバーグ定食がやって来て亜久田はこの暑い中ホットコーヒーを飲みながら河口の食べる様子を眺めていた。

河口が食べ終わり2人はドリンクバーのお代わりに行った。河口はキンキンに冷えたコーラで亜久田はまたしてもホットコーヒーだった。

「河口さんあなたの演奏と今泉さんという人が作った曲どちらも素晴らしかったです。」面と向かって亜久田から褒められるとやはり恥ずかしい。

「しかし今は曲が良いだけで売れる世界ではありません。大手事務所に所属してしっかりしたマーケティング戦略が無ければ世に出す事も難しいでしょう。」

逆に亜久田から痛い所を突かれてしまった。

確かにその通りであった。そして河口は知っていた。

自分も今泉と容姿は普通で自分達が売り出すのが難しい事を。

亜久田は続けた。「曲を作っていた今泉さんは抜けてそして河口さんには借金がある…これ以上バンド活動を続けるのは難しいのではないですか?」

河口は黙って頷くしかなかった。

倉庫のアルバイトの収入だけでは楽器の費用などはとても賄えない。その為借金をしているうちに利子も膨れ上がり首が回らない状態だったのだ。

「そこで一つ提案なのですがあなたの望みを一つ叶えましょう。その代わりあなたの魂を私に下さい。」

「魂を亜久田さんに渡すって事は自分死ぬって事ですか?」亜久田の提案に思わず河口は声を裏返しながらもそう言った。

「その通りです。実は私悪魔なんです。だから新鮮な魂が必要なのです。」こんなファミレスで大胆な事を言うもんだなと河口が思っていたが周りの人間達は2人に興味のかけらも示していなかった。

河口の中で答えは決まっていた。だけど…

「河口さんの望みは分かってますよ。

そしてその為には彼にも来てもらわないといけない事もない。彼には私の方から話を致します。」

その亜久田の申し出で河口の腹は決まった。

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