ケースⅥ 清田直道 2章(極・ドルオタ)
………清田は信じられないと思いで一杯だった。
ひとまず昼ご飯を食べスマホとパソコンの二刀流でネットサーフィンをするがお世辞にも人気グループとは言えない「新宿メモリーズ」という事もあり、公式SNSアカウントで解散するというプレスリリースがあったのみだった。そうこうしているうちにバイトの時間になっていた。清田のバイトは商業施設の警備員をやっている。夜勤という事もあり給料自体は悪くなかった。もっとも大学の奨学金の返済とアイドルの追っかけでむしろ消費者金融でそれなりの額の借金があるのだが…
そうして夜勤のバイトを無事終えて家に戻り仮眠をとろうとした。そうしてバイト先を出ると目の前にハットを深く被り、気温は30℃近くあるにも関わらずロングコートを身に纏った青年が立っていた。
そして、青年の脇を通り過ぎて帰路に着こうとするといきなり青年が話しかけてきた。
「あなた人生に絶望していますね…私だったらあなたの人生にもう一度だけ希望を与える事が出来ます…そう例えば『新宿メモリーズ』ともう一回会えるとか…
興味出て来ました?」清田は足を止めてただ青年を見つめるしかなかった。なんで見ず知らずの青年が俺が
「新宿メモリーズ」のファンである事を知っているのかそんな事はどうでもよかった。ただ彼の美しい声と「新宿メモリーズ」と会えるその事が彼の足を止めさせたのだ。
「詳しく話を聞かせてくれ」そう清田が告げた。
「今日の夜勤バイトは大丈夫ですか?」
「問題ないそこまで長い時間掛かるわけで無いんだろ。」そうしてこの2人は近くのファミレスへと向かうのだった。
「つまり、最後の公演を最前列で観せてやるから俺の魂をくれという事か…」目の前の青年…亜久田の申し出を清田なりに要約した。
「その通りです清田さん。私は今まで様々な人達を相手にしたのですが私の話をここまで理解した人はあなたが初めてですよ。清田さんは私が今までで取り引きした人の中で1番地頭が良いですね。」
そう言われると悪い気はしないし、亜久田の申し出は願ったり叶ったりだ。ただ清田は一つ気になる事があった。
「『新宿メモリーズ』の卒業公演の予定なんてどこにもないじゃないか、もしかして俺から金を騙し取ろうと…」すると亜久田は静かに告げた。
「それでは『新宿メモリーズ』の公式アカウントを確認して下さい。」清田はスマホを取り出しSNSを確認するとそこには「新宿メモリーズ卒業公演決定!」というポストが公式アカウントからされていた。
そして亜久田の方に視線を移した。そして亜久田がチケットケースをテーブルに置き清田に差し出した。
清田は中を確認するとそこには新宿メモリーズの卒業公演の最前列のチケットが入っていた。
「契約成立でよろしいですか?」亜久田が静かに問う。
その問いに清田は力強く何度も頷いた。




