ケースⅤ 東堂美織 3章 (なんて言ったってアイドル)
………家に着く前にファミレスにより同意書にサインを交わした。多額の借金を抱えた地下アイドルがいるという情報は前からキャッチしており裏で彼女の情報を日本人の嫁を欲しがっている海外の金持ち連中に配布した結果予想以上に高値が付いた。
「臓器を抜くよりか海外に若い女を売った方が金になるな。飽きたらその時に臓器を抜けば良い。」亜久田の組織のトップの悪どい考えの元実行部隊の亜久田は粛々と事に当たっていた。内心面倒臭い仕事を押し付けるなと思いながら。
今回の依頼は特に面倒臭かった。
会場のセッティング、更にはサクラの用意も必要だった。前列以外は組織の人間を総動員すれば何とかなりそうだったが前列はそれなりに熱狂的なファンが必要になる。そこで「Happy Smile」のファンやアイドルオタクとネットを通してコンタクトを取り日給5千円で協力してくれる事になった。
彼らにとって眼中に無い女とは言えど日頃やっているオタ芸で金が貰えるなら美味しい話ではあった。
用意を着々と進める中東堂と打ち合わせを行った東堂も事務所に脱退する事を申し出た様だ。人気が1番下の彼女のお別れ公演も無く明日から来なくて良いと言われたそうだ。「ハコは50人程度、日時は最短で次の木曜日、この条件でいかがでしょうか?」
そんな亜久田の申し出を東堂は快諾した。
「ありがとうございます。そしてマッチングした相手に関してですが相手の国籍は○○。1ヶ月後を目処に出来るだけはやく来て欲しいと相手の男性が申しています。最初の方は通訳も付いていますし時間を掛けてその国の言葉を話せたらと思います。」
話が変わった瞬間東堂は笑顔から覚悟を決めた表情に変わった。
「残り僅かな時間お母様とたくさん思い出を作って頂けたらと思います。」亜久田は柄にもないそんな言葉を言った後茶封筒を東堂に差し出した。
このお金は組織のお金ではなく亜久田自身のポケットマネーだった。
「亜久田さん何から何までありがとうございます。私にとってこれがアイドルの卒業公演。何としても成功させます。」先程の表情とは打って変わって今まで見た事のない笑顔で東堂は亜久田に礼を言った。
亜久田は珍しく微笑んでいた。
………サクラまみれの卒業公演は無事終わった。
借りて来た歌ばかりにも関わらずノリノリで歌う東堂とノリノリで合わせるアイドルオタクとお互いのプロの技に亜久田は感心半分、呆れ半分といったところだった。
そして今日東堂が日本を旅立つ為運転手を買って出たのだ。
飛び立った飛行機を眺めながら東堂や名前は忘れたがあの立ちんぼ女の様に海外に飛ばされるのかこちらも名前は忘れたが性欲に支配されたオスザルの様に臓器を抜かれて死ぬのか。
(生きるが幸か死ぬが幸か…考えものだな。)
そんな風に亜久田は思った。
亜久田は名前を忘れたそんな風に思い込んでいるが本当は名前を忘れる事なんて出来なかった。
ただそんな風に思い込まなければこの仕事はやっていけないのだ。




