11.
眞子が何かを思い出してそう声を出す。
「何かあったの?」
透がそう尋ねる。
「今日、麗美さんがマンションに戻ってきたとき、いつもと違ったんでびっくりしたんですよね。すっぴんにサングラスをかけて服装もいつもの服装と違ったんで、人違いかな?とも思ったんですけど、自分の部屋に入っていったんで「やっぱり麗美さんだ」って思ったんですよ……」
「……ちょっと待って。麗美ちゃんと眞子ちゃんって同じマンションに住んでいるの?」
紅蓮が先程の眞子の話を聞いてそう声を出す。
「え?はい。というか、この店で働いている子でそのマンションに住んでいる人は多いですよ?」
「「……え??」」
眞子の言葉に紅蓮と透が同時に声を出す。
どうやら眞子の話によると、そのマンションはこの店が契約しているマンションで女の子が働く際に、住む場所として提供しているらしい。
「……へぇ、そういう仕組みになっているんだな……」
透がその話に感心するようにそう言葉を綴った。
――――カタカタカタカタ……。
槙がリズムよくパソコンのキーボードをたたく音が響く。その隣で奏はその様子を見ながら何か手掛かりになりそうなものがないかを見ていた。
紅蓮が思いついたのは麗美の携帯番号を頼りに何か情報が得られないかという事だった。メッセージ等で何か事件の鍵になるようなことが書いてあるかもしれないと思い、麗美の携帯番号で探っていく。
「……うわ、これもだ……」
槙がメッセージを読みながら声を出す。
「結構、こういうような事をしていたみたいですね……」
奏も隣でそのメッセージを呼んでそう声を出す。
麗美のメッセージからは客の男であろう人たちと、ホテルに行く約束のようなものが多数見つかった。そのメッセージに金額まで記されているものもある。
「透もえらい女に気に入られたもんだな……」
槙がメッセージの内容にため息を吐きながらそう言葉を綴る。
「でも、零士さんとのやり取りが見つかりませんね……」
奏がそう言葉を綴る。
麗美はかなり零士に入れ込んでいたという事だが、その零士とのやり取りのメッセージが一つも見当たらなかった。その事に不思議に思うが、もしかしたら零士が亡くなってやり取りをすることが出来なくなったので削除しただけかもしれないと考える。しかし、メッセージのやり取りから事件に繋がるようなものが見つからない。
「……やはり、麗美さんは今回の事件には関係していないのでしょうか?」
事件に関するメッセージが無いことから、奏がそう言葉を発する。
「……そうかもしれないな。……ん?」
槙がそう言葉を発した後で何か違和感を覚える。
「どうしましたか?」
奏が槙に声を掛ける。
「……いや」
(……気のせい……か……)
槙が心の中でそう呟いた。
「……ねぇ、今夜あたりどう?」
店で一人の客が麗美に小声でそう話しかける。
「ごめんなさい……。今日はそんな気分にはちょっと……。また今度ね?」
麗美がそうやんわりと断り、客に水割りを作って手渡す。時折聞こえる透たちの席からの笑い声に麗美がちらちらとそちらに顔を向ける。
(……楽しそうだな……)
麗美がそう心で呟く。
「……ちゃん?麗美ちゃん?どうしたの?」
「……あっ、いえ……何でもないわ……」
客の言葉に麗美が急に現実に引き戻されて慌ててそう言葉を綴る。
その時だった。
「麗美ちゃん、ちょっといいかしら?」
ママが席に来て麗美を店の裏に連れていく。
「今は別のお客様を接客しているのよ?それなのに、他の席に気を取られて……。お客様に失礼だと思わないの?」
ママがそう言って麗美を叱咤する。
「……すみません」
麗美が素直に謝罪する。
「仕事なんだから、きちんとお客様を接客してね」
「はい……」
ママの言葉に麗美がそう返事して先程の席に戻っていく。
(……なんで指名を受けたのが眞子なのよ……)
心の中で憎悪を燃やしながら麗美はその事を客に気付かれないように接客をしていった。
「……本山さん!殺人事件です!!」
次の日の朝、杉原が捜査室に入るなり、そう声を上げる。
「なんだと?!」
その言葉に本山が大声を出す。
「殺されたのは……」
杉原がそう言って説明を始めた。
話はこうだった。
殺されたのは下井という男で、製薬会社に勤務している会社員。
今日の朝にホテルの従業員が清掃のために部屋を訪れたら、倒れて亡くなっている下井を発見。急いでホテルのチーフに連絡をしてチーフが警察に電話をしたという事。亡くなった状況から見て毒殺の可能性があるという事で、死体を司法解剖しているという。免許証から殺害されたのは下井という事が判明。ホテルの話によると、部屋を予約したのは下井で、部屋の状況から誰かもう一人いたのではないかと言う。
その上、下井の携帯電話が見つからないことから、犯人が持ち去ったと仮定し、携帯電話を持ち去った人物が下井を殺したと睨んでいる。しかし、そのホテルは少し古いこともあり、防犯カメラなどは設置してないという事で、誰がその部屋にいたのかが一切分からないという事だった。
「……とりあえず、事件直前の行動を捜査してみよう」
本山がそう言うと、杉原と共にその捜査室を出て行った。
「あら、じゃあその紅蓮さんって人は眞子ちゃんの事を気に入っている感じね!」
眞子の部屋に真奈美がお邪魔して二人で楽しそうに会話をする。
「えへへ、私なんかを指名してくれるんで、本当にありがたいですよ!」
眞子がちょっと照れながら嬉しそうにそう言葉を綴る。
「ふふっ。その紅蓮さんって人は眞子ちゃんのその明るさに魅力を感じたんでしょうね。眞子ちゃんのその明るさは人によってはすごく元気を貰えるわ。良いお客さんで良かったわね」
真奈美が優雅に微笑みながらそう言葉を綴る。
その時だった。
――――ピンポーン……。
眞子の部屋のインターフォンが鳴り、眞子がその相手を画面で確認して玄関のドアを開ける。
「……どうも」
そこに腕を組みながら立っていたのは麗美だった。




