7.
「いらっしゃいませ~♪あら、昨日の方じゃないですか」
ママが紅蓮と透を見てそう声を出す。
「今日はちょっと女の子を指名してもいいかな?」
紅蓮がママにそう尋ねる。
「えぇ、構いませんよ。どの子です?」
「麗美ちゃんをお願いします♪」
紅蓮の言葉にママが一瞬驚いたような顔をする。
「分かりました。すぐ席に呼びますね」
ママが笑顔でそう答えると、二人を席に案内する。
「指名ありがとうございます!麗美でーす!」
しばらくして麗美が席にやって来て挨拶をすると、二人の前に座る。
「嬉しいです♪指名して頂けて♪あ、水割りで良かったですか?」
麗美がそう言って二人に水割りを作る。その表情はとても嬉しそうだ。
(また、透さんに会えるなんて……。その上、指名してくれたし……)
麗美の中で透が指名してくれたのだと思い込み、嬉しそうに心で呟く。
しばらく他愛無い談笑が続く。
「……じゃあ、お二人は同じ職場なんですね。何のお仕事をしているんですか?」
麗美が透と紅蓮の関係を聞いてきたので紅蓮が「同じ職場」と答える。その返事に麗美が更に話題を振ってきた。
「二人の格好からして会社のサラリーマン的な感じでしょうか?営業とかそう言うのをしてそうですよね」
「まぁ、そんな感じかな?まぁ、会社の関係上何の仕事かは言えないけどね♪」
麗美の言葉に紅蓮がそう言って誤魔化す。
「そういえばさ、麗美ちゃんはタイプでいくと、俺とこいつではどっちがタイプなの?」
「え……。や……やだぁ~♪二人とも素敵ですよぉ~♪」
紅蓮の質問に麗美がそう答えるがその時にちらりと透を見る。透はそれに気付いたが何も言わずに、黙々と水割りを口に運んでいた。
「……ちょっと、トイレに行ってくる」
透がそう言って席を立つ。
「あっ!ご案内しますね!」
麗美が慌てて席を立ち、透を案内する。そして、お手洗いに入ると、ため息を吐いた。
「なんか苦手だな……、あの子……」
透がお手洗いでそう言葉を漏らす。そして、用を足してお手洗いを出ると、おしぼりを持った麗美が立っていた。
「はい、透さん。どうぞ」
麗美がそう言っておしぼりを差し出す。
「後……、これ……」
麗美がそう言って顔をちょっと赤らめながら自分のカードと一緒に折りたたんである小さな紙を手渡す。透はそれを受け取り、麗美と共に席に戻っていく。
その様子を眞子が遠くの席から眺めていた。
「……麗美さんって方から何か聞き出せますかね?」
外で槙と待機している奏がそう言葉を綴る。
「どうだろうな……。まぁ、何かしらの情報は仕入れてくるだろ」
槙がそう言って外から様子を伺う。
その時だった。
「あっ!あの人……!!」
店に向かって一直線に歩いてくる人物を見て奏が声を上げる。
「確か昨日の……」
その人物は西田だった。西田は店の前で立ち止まると、入ろうかどうしようか悩んでいるそぶりを見せている。そして、何かを決心したのか、店に入っていった。
「あら、西田さん、いらっしゃい」
店に入ってきた西田にママが声を掛ける。
「これ、昨日のつけだ」
西田がそう言って財布からお金を出して、昨日払っていなかったお金を払う。
「……はい、確かに。今日はどうされますか?」
ママが笑顔でそう尋ねる。
「今日は金を払いに来ただけだ。ここにはもう来ない。客を選ぶような女がいる店はお断りだ」
西田はそう言うと店を出て行く。
「……あれ?もう出てきましたよ?」
西田が早々に店を出てきたので奏がそう声を出す。
「昨日の事で謝りに来ただけじゃないのか?」
槙は特に気にする様子なく、そう言葉を綴った。
「……そういえば、ホストが殺されたみたいだけど、麗美ちゃんはそのホストのこと知ってる?」
「いえ……。私は特には……」
紅蓮の言葉に麗美がそう答える。
紅蓮と透は麗美としばらく雑談した後、零士が殺された話を持ち出した。
「なんか、悪い男だったみたいでさ~、何人もの女性から貢いでもらっていたみたいだぜ?ホストってそんなもんなんかな?」
「ど……どうなんでしょうか?」
紅蓮の言葉に麗美が何処か居心地が悪そうにそう言葉を綴る。
「でも、まぁそれがホストの仕事でもあるよな?とはいえ、女性的には溜まったもんじゃないだろうけど……」
「そ……そうですよね。透さんは優しいですね」
透の言葉に麗美がそう言って微笑む。
「そういえば、透さんはこういうところで働いている女性ってどう思われますか?」
麗美がそう問いかける。
「そうだなぁ~……。まぁ、生活が懸かっている人もいるだろうし、大変だとは思うよ。いろんな客を相手にしなきゃいけないわけだからさ……。ストレスも溜まるだろうし……。でも、それでも頑張って働いているんだったらいいんじゃないかな?」
「素敵な考えですね」
透の言葉に麗美が少し顔を赤らめる。
(やっぱり透さんって素敵な人……)
「麗美ちゃん、ちょっと来てくれる?」
麗美がそう心で思っている時だった。ママが麗美を呼びに席に来る。
「ちょっと、先に裏に行っててくれるかしら?」
ママがそう言って麗美を店の奥に行くように言う。その言葉に麗美は素直に従いその場を離れていく。
「すみません、お客様。代わりの子を呼びますね」
ママが紅蓮と透にそう声を掛ける。
「じゃあ、眞子ちゃん呼んでもらっていいですか?後……」
ママの言葉に紅蓮がそう答える時にある事をママにお願いする。ママはその言葉にどこか安心したような顔になり笑顔で「構いませんよ」と言って、眞子を呼びに行った。
「こんばんは!紅蓮さん!透さん!」
しばらくして眞子が席にやって来て二人に笑顔で挨拶する。
「やっほ~♪眞子ちゃん♪」
「どうも」
紅蓮と透がそれぞれ挨拶をして、眞子が席に座る。
「あの……、透さん。大丈夫ですか?」
眞子が透にそう声を掛ける。
「何が?」
眞子の言葉がよく分からなくて透がはてなマークを浮かべる。
「さっき、トイレのところで……」
眞子の言葉で透が何のことかが分かる。
「まぁ、大丈夫だよ。心配ありがとう」
透が微笑みながら眞子にお礼を言う。しかし、眞子は何処か不安そうな顔をしている。
「……あの、気を付けてくださいね……」
眞子の言葉に透が昼間に聞き込みをして紅蓮が眞子に聞いた話を思い出す。
「心配ありがとう」
透が眞子にお礼の言葉を綴る。そして、先程麗美から受け取った、折りたたんである小さな紙を広げて内容を確認する。
(……やれやれ)
透がその紙を見てため息を吐いた。
「……さっき、西田さんが来たわ。昨日、あなたからは急用が出来て帰ったって聞いたけど、本当のところはどうなの?」
店の奥に呼び出した麗美にママが強い口調でそう言葉を綴る。麗美はその言葉にどう言っていいか考える。
「……その……身体の関係を求められたので……」
麗美がそう話す。
「そう……それなら仕方ないわね……。そういう事は一切お断りしているから……」
麗美の言葉にママがそう答えるが、その表情はどこか腑に落ちない顔だ。西田は「客を選ぶ」と言うような言い方をしていた。この店に勤める他の女の子からも麗美が客に枕営業をしているという話は聞いているが、それが本当かどうかは確認のしようがない。
「……とりあえず、席に戻りなさい」
「はい……」
ママの言葉に麗美がどこかホッとした表情を見せる。
「あぁ……そうだわ。あなたがいた席は今、眞子ちゃんが相手をしているからあなたは他の席に行くようにね」
「……え?」




