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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第四章 黒い鴉に尽くしていた白い鳥

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10.


 奏が捜査室の電話を使い、基頼に電話をすると、数回コール音が鳴って基頼が電話に出た。


 特殊捜査室に緊張が走る。


「お久しぶりですね。元気にしていましたか?」


 奏が柔らかな口調でそう言葉を綴る。


『あの時以来だね。奏ちゃんの事だから連絡をくれると思ったよ……。奏ちゃんは元気しているの?』


「えぇ……まぁ……」


『良かった……。僕の元を離れてからどうしているか気になっていたんだ』


「そうなんだね……」


『うん。ところでさ……』


 基頼がそう言って奏にある事を伝える。


 奏はやはりそう来たかと思い、捜査室にいる冴子たちに電話しながら顔を向け、強く頷く。奏の表情で冴子たちもどういうことか分かり、頷き返す。


「分かった……。じゃあ、その日に……」


 奏がそう言って電話を終える。



 ――――カクンッ!!



「「奏?!」」


 奏が電話が終わったとたんに足がカクンッとなって床に尻餅を付く。


「……緊張……しました……」


 電話の間、ずっと緊張の糸を張り巡らしていたのだろう。その電話が終わり、ホッとしたのかそう声を出す。


「大丈夫?奏ちゃん?」


 冴子が手を差し伸べてそう言葉を綴る。


「ありがとうございます……」


 奏がその手を取り、ふらついた足取りで立ち上がる。


「……じゃあ、その日が決行日だな……」


 先程の電話の内容で透がそう言葉を発する。


 その言葉に奏たちは強く頷いた。




「もしもし、絵美ちゃん?」


 仕事が終わり、家に帰ると奏は絵美に電話をして今日の事を伝える。


『……分かった。くれぐれも気を付けてね』


「うん……、分かってる……」


『一応、孝君にも伝えておくよ。孝君が居酒屋での事、気付いたわけだからね』


「分かった……」


『広斗さんにはどうするの?伝えるの?』


 絵美の言葉に奏が悩む。伝えた方が良いのは分かるが、下手に心配を掛けさせたくもないという気持ちが渦巻く。もし、今回の作戦を知ったら止めるかもしれない……。


「とりあえず、その事は事が終わったら伝えるよ……。仕事が忙しいのに変な気を持たせたくないから……」


『そっか……』


 奏の言葉に絵美がそう答える。


『その日はとりあえず、私も合流できそうなら合流するよ。心配もあるし……』


「うん……分かった。絵美ちゃんも合流するのは冴子さんたちに伝えておくよ」


 奏がそう言って電話を終える。


(……どうか、上手くいきますように……)


 奏が心でそう呟きながら手を合わせる。


 そして、二日後の決行日まで、心が乱れないように趣味のお話作りを次はどんな話にしようか考えるためにノートパソコンを開き、何かいいネタがないかをネットを調べていく。


(失敗は許されないんだから……頑張らなきゃ……)


 そう自分に言い聞かせてネットを眺めていった。




「……二日後は奏の絶望の日だ……。どんな顔をするか楽しみだな……」


 基頼がビール缶を片手に不気味に笑いながらそう言葉を綴る。


「最高の絶望に満ちた顔をしてくれよ……?奏……」


 そして、隣の部屋に行き、夏江の死体が入っている寝袋を見つめながらほくそ笑む。


「……ようやっとこの死体ともおさらばだ……」


 そう言いながら手にしているビールを一気に飲み干す。



 その表情からは穏やかで優しい表の顔は全くなく、醜く歪んだ悪魔のような顔をしていた。




「……うん、なんとかこの話で出来そう……」


 次の日、奏は明日の決行日の為という事で、冴子の配慮で特別にお休みを貰った。そして、そのお休みを利用して気持ちを安定させるためにも、執筆活動に取り掛かっていく。


 その時だった。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 奏のスマートフォンが鳴り響く。


 誰からだろうと着信を見てみると孝からだった。


「はい、奏です」


『もしもし、奏ちゃん?絵美さんから明日のこと聞いたんだけど、大丈夫なの?』


 電話越しでも孝が心配しているのが伝わってくる。


「うん、大丈夫だよ。まぁ……、基頼さんがどう仕掛けてくるかは分からないけどね……」


『明日、僕も行けそうなら行くね……。心配だし……』


「分かった……。なんだか、絵美ちゃんも孝君も本当にありがたいね……。心配してくれて、危険かもしれないのに、行くって言ってくれて……。本当に、良い友達持ったな~って思うよ……」


 奏が申し訳なさと嬉しさを感じながらそう言葉を綴る。


『僕から見ても奏ちゃんは大事な友達だよ……。まぁ、会ったのは病院だけどさ。でも、良くなろうとしている奏ちゃんを見て僕も頑張らなきゃって思ったんだ……。きっと、奏ちゃんのあの良くなろうとする努力はそこにいたいろんな人に勇気を与えたと思うよ?』


 孝がその時を懐かしむようにそう言葉を語る。


「……あの事を知って心が病んじゃったけど、そのままじゃだめだと思ったの……。辛くても前を向かなきゃって……。たとえ、それが事実でも……」


 奏がある事を頭に思い浮かべる。


「でも……、それは事実だけど、真実は違う……。もし、その真実を伝えられるなら伝えたい……」


『奏ちゃん……』


「孝君や絵美ちゃんには本当に感謝しているよ……。あの事実を知っても友達でいてくれてる……。広斗さんもそう……。ゆっちゃんも……」


 奏が言葉を綴りながら優しく微笑む。


「本当に、良い友達と恋人に巡り合えたなって思う……」


 奏が微笑みながら嬉しそうにそう言葉を綴る。


 その後は、二言三言交わし、「また明日」と言って電話を終えた。


「よし!執筆頑張るぞ!!」


 奏はそう言いながら新しい話に取り掛かっていった。




「……じゃあ、冴子さん、行ってきます」


 決行日。奏たちが支度をして特殊捜査室を出て透が運転する車に乗り込む。


 そして、目的の場所に向かう。車の中は緊張感で溢れかえっていた。奏の瞳にはどこか強い光が宿っているように見える。


「盗聴器はどうする?」


 槙が小型の盗聴器を奏に見せながらそう言葉を綴る。


「敢えて付けないでおきます……。そう言ったところに基頼さんは目がいく可能性があります。変なところで気付く勘がありますから……」


 奏がそう言って盗聴器を断る。


「……とりあえず、手筈通りに行くぞ……」


 透の言葉に奏たちが頷く。



 目的の場所に到着すると、奏が車を降りる。



 ――――ピンポーン……。



 そして、呼吸を整えて、基頼の部屋のインターフォンを鳴らした。



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